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知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.2

第7回

キャッチコピーやスローガンには著作権はないの!?~著作物性にまつわる話

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所  堀越 総明

 

有名コピーライターのキャッチコピーで、100周年キャンペーンは大成功!

来年で創業100周年を迎えるA商事。企画宣伝部のB課長は、その100周年キャンペーンの準備で毎日てんてこ舞いです。ある日、C部長が席に座ったまま、大きな声でB課長に話し掛けてきました。

C部長 「おーい、B課長!100周年のキャッチコピーはどうなった?」
B課長 「はい!いいのを考えました。『次の100年もあなたとともに!夢いっぱいA商事』なんてのはどうでしょう?」
C部長 「・・・・・B課長。。。100年も続いた我社を君の手で潰す気かね。」
B課長 「はぁ、それでは『夢いっぱい、元気いっぱい、楽しさいっぱい・・・』」
C部長 「もういいから!プロのコピーライターに早く頼みなさい!!」

C部長から完全なダメ出しを受けたB課長は、早速、業界でも有名なプロのコピーライターのDさんに連絡しました。翌日、社内の応接室で、B課長は、100周年のコンセプトなどを丁寧にDさんに説明し、ほどなくDさんからすてきなキャッチコピーが届けられました。

C部長 「このキャッチコピーいいじゃないか!さすがプロの仕事は違うな。」
B課長 「これで100周年キャンペーンも大成功ですね!」

年が明け、A商事のカタログ、ポスター、名刺、封筒、クリアホルダーと様々な媒体に、Dさんが作ったキャッチコピーが印刷されました。また、新聞広告やテレビCMでもそのキャッチコピーは使用され、100周年のキャンペーンは大きな盛り上がりを見せました。そして、そのキャッチコピーはテレビで芸能人が取り上げるほど評判になり、流行語大賞の呼び声まで掛かるようになりました。

キャッチコピーが流行語大賞候補に!ついにオリジナルグッズが発売に!

この評判を受けて、営業部の面々も鼻息が荒くなり、ついにキャッチコピーを印刷したオリジナルグッズを企画し、発売しました。Tシャツ、トートバッグ、ボールペン、壁掛け時計などなど、グッズはキャッチコピーの人気のおかげでいずれも大ヒットです。
C部長 「B課長、やったな!君の考えた『夢いっぱい、元気いっぱい』にしないで良かったよ!!」
B課長 「・・・。まあ、キャッチコピーがこんなに人気になってうれしいです。」

しかし、100周年キャンペーンの成功で活気に沸く企画宣伝部に、ある日、Dさんから1本の電話が掛かってきました。
Dさん 「あのー、キャッチコピーの著作権は僕にあるので、グッズの売上のライセンス料をいくらかいただきたいのですが。」
B課長 「ちょ、ちょ、著作権???」

キャッチコピーのような短い表現には著作権はあるのでしょうか??

A商事は、Dさんにキャッチコピーの制作を依頼するときに、特別な契約を交わしていませんでした。ということは、キャッチコピーの著作権は、原則通りに、創作者であるDさんに帰属していることになります。グッズの製作販売が、Dさんとの契約でキャッチコピーの使用目的の範囲外だとすれば、A商事はDさんに無許諾でキャッチコピーを使用していることになるので、Dさんに謝罪してすぐにライセンス契約を結び、グッズのライセンス料を支払わなければならないでしょう。

しかし、キャッチコピーにはそもそも著作権があるのでしょうか?「あるに決まってるじゃないか!」という読者も多いのではないでしょうか。でも、もしそのキャッチコピーが、標語によく見られるような「手を上げて横断歩道を渡りましょう」「歯をきれいにみがこう」「食べ物を大切にしよう」のような短い表現にありがちなシンプルな表現だったら、どうでしょうか。

著作権が発生するためには、そのキャッチコピーが著作物でなければなりません。著作物とは法律で「思想又は感情を創作的に表現したもの」と規定されています。前記の標語の数々は、単に注意事項のようなものを表記しているに過ぎないので、作者の思想や感情を表現したものではなく、著作物とはいえないでしょう。
また、俳句や短歌などを除き、キャッチコピーや本のタイトルなどの短い表現は、一般的にはありふれた表現になりやすいといえます。そのため、著作者の個性があらわれているともいえず、創作性がないとして、やはり著作物ではないとされることが多いのです。なぜなら、例えば、「風の歌を聴け」という本のタイトルに著作権を認めてしまうと、他の作家さんが「風」「歌」「聴け」のような言葉を組み合わせた表現ができなくなり、後の時代の人たちの表現の選択の幅がかなり狭められてしまうでしょう。これは良いことではありません。

著作権があるかどうかはキャッチコピーの個別的検討が必要です

短い表現は、以上のような理由で、著作物として認められるためにはハードルがかなり高いですが、個別的に検討する中で「思想や感情の表現」「創作的な表現」として著作物性が認められることもあります。Dさんが作ったキャッチコピーも、著作物でない可能性が高いですが、そのキャッチコピーの表現を個別に検討してみないと著作権があるかないかははっきりとはわかりません。

さて、A商事では、「Dさんのキャッチコピーには著作権はないかもしれないよ!」という意見の人もいたものの、「Dさんのおかげで、これだけ100周年のキャンペーンが成功したのだから、Dさんのキャッチコピーに著作権があるかどうかは争わずに、気持ちよくライセンス料を支払いましょう。」ということになり、後日、円満にDさんと「著作物利用許諾契約書(ライセンス契約書)」を締結したということです。


※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。

 

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会会員
日本弁理士会著作権委員会委員
(2020年度は委員長、2019年度は副委員長を務める。)
東京都行政書士会会員 東京都行政書士会著作権相談員
東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員
株式会社ボングゥー代表取締役


「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
https://www.bon-gout-pat.jp/
○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
https://www.bon-gout-office.jp/
 
【著書】

「知らなかったでは済まされない著作権の話」(上)・(下)
上巻:https://amzn.to/2KB8Ks5
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弁理士が、“ありがちな著作権トラブル”をストーリー形式で紹介し、分かりやすく解説していく1冊です。
法律になじみのない人でも読みやすく、“ここだけは注意してほしい点”が分かる内容となっています。

知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.2

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