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知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.2

第8回

Ⓒマークをつけ忘れると著作権は保護されないの!?~著作権表示(マルCマーク)にまつわる話

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所  堀越 総明

 

ライバル店への対抗策、切り札は“ゆるキャラ”!その名も「流し目太郎」!

中堅のスーパーマーケット「イノベーションズマート」に勤務するA主任。若手ながら良く気がつく仕事ぶりもさることながら、韓流スターを思わせるようなその切れ長の目で、主婦のお客様たちを虜にしているため、この店にはなくてはならない存在となっています。この消費不況の時代にも関わらず、A主任の流し目効果もあり、イノベーションズマートの売上は好調に推移してきました。

しかし、最近になり、イノベーションズマートのすぐそばに、大手スーパーマーケット「フジマート」が開店すると、好調だった売上に暗雲が立ち込めてきました。困ったB店長は、熱い信頼をおくA主任に話し掛けました。

B店長 「なあAくん、フジマートさんのチラシ見た?」
A主任 「見ましたよ。納豆3パックで50円でしたね・・・。」
B店長 「これには君の流し目もかなわないよな・・・。何か対抗策はあるかね?」
A主任 「うーん・・・そうだ!うちのお店の“ゆるキャラ”を作るっていうのはどうでしょうか!?ゆるキャラが人気になれば、価格でフジマートさんに負けていても、お子様連れのお客様はうちに来店するんじゃないでしょうか。」

B店長のゴーサインのもと、A主任は早速ゆるキャラの制作に取り掛かりました。ゆるキャラ制作の会社と打ち合わせし、数週間後には、原案のラフが出来上がりました。

B店長 「な、なんだ、この流し目のゆるキャラは!?ま、まさか・・・。」
A主任 「ボクです。」
B店長 「まあいい、君の自己愛には目をつぶるとして、すてきなゆるキャラを作ってくれよ。」

こうして、イノベーションズマートのゆるキャラ“流し目太郎”は誕生し、チラシや店内のPOPには“流し目太郎”が印刷され、その着ぐるみは店頭で大活躍するようになりました。一度落ち込んだ売上もすっかり回復し、「俺も流し目しちゃおうかな」と軽口がでるほどB店長は上機嫌です。

Ⓒマークがないとイラストの無断掲載を差し止められない!?

しかし、“流し目太郎”の人気は思った以上に高くなり、インターネット上には“流し目太郎”のイラストの無断掲載が横行するようになりました。中には、“流し目太郎”がライバルのフジマートを揶揄するような内容のWEBサイトもあり、B店長は頭を抱えています。ある日、B店長は、意を決して、“流し目太郎”のイラストを無断掲載しているWEBサイトの管理人Cさんに電話をしました。

B店長 「あのー、うちの“流し目太郎”のイラストを勝手に掲載しないでいただきたいのですが。」
Cさん 「だって、“流し目太郎”のイラストにはⒸマークがついてないじゃないですか!Ⓒマークがなければ、誰でも自由に使っていいってことじゃないんですか?」
B店長 「Ⓒマークですって???」

みなさんも有名なイラストの横に「Ⓒ2013×××」のような表示を見たことがあると思います。例えば、アンパンマンには「Ⓒやなせたかし/フレーベル館・TMS・NTV」、ワンピースには「Ⓒ尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメーション」と表示されています。このⒸというのは、英語のCopyrightの略記号です。Copyrightを直訳すると「複製権」という意味になりますが、いわゆる「著作権全体」を指す言葉として使われています。
それではこのⒸマークはいったい何なのでしょうか?Cさんの言うとおり、Ⓒマークがなければ、誰でもその著作物を勝手に使うことができ、著作権は保護されないのでしょうか?

Ⓒマークはかつてのアメリカなどで著作権を保護するために生まれた表示です

答えはノーです。このコラムでも何度か触れましたが、著作権は、著作物を創作した瞬間に自動的に発生する権利です。これを「無方式主義」といいます。つまり、著作権を発生させるために、お役所に登録したり、特定の表示方法を義務づけられたりすることはありません。

この「無方式主義」というのは、ベルヌ条約という著作権の条約で定められている国際ルールなのです。この条約には、世界中のほとんどの国が加盟しているのですが、実は、大国の中ではアメリカだけが1989年まで加盟していませんでした。それはアメリカが「無方式主義」ではなく、著作権の発生に登録や納本などの条件を伴う「方式主義」を採用していたからなのです。
ということで、昔は、例えば日本で創作されたアンパンマンについて、アメリカで著作権の保護を受けるためには、アメリカのルールに従って、アメリカ国内で著作権登録などの手続きをする必要があったのです。これはあまりにも煩雑で大変です。そこで、1952年に「万国著作権条約」という別の条約を作って、無方式主義の国(日本など)の著作物は、その著作物にⒸマークをつければ、方式主義の国(アメリカなど)が定める著作権登録などの手続きをしなくても、その方式主義の国で著作権の保護が受けられるようにしたのです。それ以降、日本をはじめ多くの国々は、アメリカで著作権の保護を受けるために、イラスト、文章、写真、映画など様々な著作物に、Ⓒマークをつけまくるようになったということです。

ほとんど有名無実化したⒸマークですが、表示すると色々と便利です!

しかし、そんなアメリカも世界の趨勢には勝てず、「方式主義」から「無方式主義」に改め、1989年にベルヌ条約に加盟しました。ということで、現在では、このⒸマークは法的にはあまり意味を持たない有名無実化した表示となっています。それでも、現在、多くの著作物にⒸマークがつけられているのは、制度が40年近く続いたことにより、業界的にⒸマークを表示することが慣習化したからといえるでしょう。

また、例えば前述のアンパンマンの著作権の表示を、Ⓒマーク以外で表記しようとしたら、「このイラストの著作権は、やなせたかし、フレーベル館、TMS、NTVに帰属しています」などとなり、いたってスマートではありません。それから、Ⓒマークがついていれば、それを見る人が「このイラストの著作権者はこの人たちなんだ」とわかり、著作物の利用許諾がほしいときなどに連絡が取りやすくなったりするでしょう。また、Ⓒマークをつけていれば、今回のCさんのような人が、「このイラストは自由に使っていいと思っていました」などとしらを切ることも難しくなります(この効果は、アメリカでは現在でも法的に認められています)。つまり慣習化した上に、とても便利な表示なので、Ⓒマークは今でも活躍しているということなのでしょう。

Cさんに開き直られたB店長ですが、知り合いの行政書士に相談して、著作権は無方式主義だということをCさんに伝え、“流し目太郎”のイラストの掲載を中止してもらいました。そして、今後のために、“流し目太郎”のイラストにはすべて「Ⓒ2013イノベーションズマート」と表示することにしたということです。


※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。

 

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会会員
日本弁理士会著作権委員会委員
(2020年度は委員長、2019年度は副委員長を務める。)
東京都行政書士会会員 東京都行政書士会著作権相談員
東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員
株式会社ボングゥー代表取締役


「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
https://www.bon-gout-pat.jp/
○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
https://www.bon-gout-office.jp/
 
【著書】

「知らなかったでは済まされない著作権の話」(上)・(下)
上巻:https://amzn.to/2KB8Ks5
下巻:https://amzn.to/2rV7qcG
 
弁理士が、“ありがちな著作権トラブル”をストーリー形式で紹介し、分かりやすく解説していく1冊です。
法律になじみのない人でも読みやすく、“ここだけは注意してほしい点”が分かる内容となっています。

知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.2

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