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マネジメントを再考してみる 前編<現場マネジメント>

第16回

ベンチャー企業の経営危機に対処する(後編)次の段階に対応する

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「モバイルクラフト社が窮地に陥った原因が企業の発展段階にあるという部長のお話し、少し分かるような気がしてきました。」

「そうか、どんな風に?」

「当社が買収した時は、たぶん、モバイルクラフト社は第1段階にあったんでしょうね。そして今は第2段階にある。」

「おっ、なかなか勘が良いではないか。俺も、そう思うよ。」

「成長段階が違い、そこで遭遇する危機が違うので、同じ対処法ではうまくいかないという訳ですね。」


「リーダーシップの危機」の対処法

「まず、最初から考えてみよう。M&A当時に我が社から送り込まれた経営陣は、何を見、どうしたと思う?」

「第1段階にありがちな『リーダーシップの危機』を目の当たりにしたのだと思います。」

「旧経営者は、ビジネスアイデアや技術力はあるがマネジメントはからっきしだったのかもしれないな。」

「そういう時に、我が社から送り込まれた経営陣は強いリーダーシップを発揮したと思います。買収した側として、けじめをつける必要もありますからね。」

「それが功を奏して、混乱していたモバイルクラフト社に組織らしい規律が芽生えたんだろうな。」

「旧経営陣もアイデアを形にする仕事に集中でき、効率も上がったと思います。」

「我が社からの経営陣は、さしずめ、救世主だったのでしょうね。」


『指揮による成長』時代への突入

「さて、強力なリーダーシップにより企業は新しい段階に突入する。」

「それが第2段階『指揮による成長』の時代なんですね。そういえば、それを思わせるような報告を目にしたこともあります。」

「どんな?」

「それまで、製品開発に関係ありそうな研究なら、黙認されていたそうです。勝手にやらせておいて、しばらく経った時に旧経営陣が直接に話をする。軌道修正したり、中には大きく変更させることもあったようです。」

「それで問題はなかったのか?」

「旧経営陣が全て目が届くような規模だった時は、とても効率的な方法だったようです。しかし規模が拡大して目が届かなくなると、全く規律が守られなくなった。現場が自分勝手に振舞い、期限になっても成果が出てこない。そんな感じだと聞いていました。」

「そこで当社からの経営陣は、どうしたんだ?」

「研究開発はプレゼンの上、ゴーサインが出たものだけ進められるようにしたそうです。」

「軋轢もあっただろうに。」

「彼らはマネジメントのプロですよ。一方で業績評価システムを導入し、ゴーサインが出たプロジェクを達成したら昇級や昇進がある、達成できなければ昇級や昇進はないし、下手をしたら減給や格下げさえされてしまうかもしれない。そうしたら、みんな、決まりを守るようになります。」

「それが上手く回って『指揮による成長期』を謳歌したのだな。」


『自主性の危機』

「でも、一度はそれで開発スピードが進んだんですよ。なのに今度はなぜ、スピードが遅くなってしまったのでしょうか?」

「これは俺の推測なんだが・・・。」

「はい?」

「現場にとっては、プレゼンしなければゴールが決まらない、つまり仕事も始まらないということを意味していたのではないだろうか?」

「うーん、もしかしたら、そうかも。」

「自主的にプレゼンしたら、早くゴールが決まり、早く仕事を始めてテンションを上げなければならない。苦しい期間が長くなるわけだ。」

「一方でプレゼンを遅らせると、ゴールは決まらないし、仕事も始まらない。のんびりできる期間が長くなるわけですね。」

「もちろん、外見上はのんびりしてはいなかったのだろうけどな。『下手な考え休むに似たり』という状況だったんじゃないかと思われる。」

「それが『自主性の危機』なんですね。」

「指揮による規律が功を奏しているかに見える職場では、自主性が削がれていく可能性が高いからな。」


自主性の危機へのソリューション

「では、今後、どうすれば良いと思う。」

「発展段階説によると、次の段階が答えになっているようですね。ということは、権限委譲ですか?」

「グレイナーの考えからすると、そうだろう。俺も、そう思うよ。」

「権限委譲が、なぜ、自主性の危機へのソリューションになるのでしょうか?」

「良い質問だな。いろいろ解釈があると思うが、俺は、権限委譲は指揮と自主性を両立させるからだと思うよ。」

「指揮と自主性を両立させるですって?どういう意味ですか?」

「トップから一定の成果を求めらている上位マネジャーのやり方として2つあると思う。一つは、部下である現場マネジャーがやるべきことを自分で決めて、その通りさせる方式だ。」

「そしてもう一つは、現場マネジャーがやるべきことは自分で考えて実行してもらう訳ですね。そのために必要な権限を移譲して。」

「そういうことだ。現場マネジャーは、自分でどんなマネジメントをすれば良いかを考える自主性は与えられる。一方で、そのマネジメントが成果を生むかどうかについて、きっちりとチェックされる。」

「そういう意味では、指揮のもとにある訳ですね。」

「権限を行使せず、この場合だとプレゼンをせずに自分たちの仕事を始めなければ、職務怠慢と評価されてしまう訳だ。」

「なるほど。」

「これだと、プレゼンしなければというモチベーションも高まるだろう。」

「部長の言われる意味、分かりました。今、第2段階にあるので、以前と同じように指揮を強化してはいけないのですね。権限委譲した上で、ポイントを押さえた指揮に留めるのが良さそうだということですね。」

「俺も、そう思うよ。」





セミナー告知


本日お届けした記事に関連して、企業の成長段階に応じた危機をMCSの観点から分析し、対処法を考えるセミナーを実施します。


「ベンチャー企業の経営危機に対処する」

<セミナー概要>
日 時:7月23日(土)13:30~16:30(開場:13:00~)
会 場:イオンコンパス東京八重洲会議室 Room B
講 師:落藤伸夫(StrateCutions)

詳しくはStratecusitons のサイトからご確認下さい。


なお、InnovationS-i 会員・支援機関の皆さんは、InnovationS-iホームページ内のご案内ページからご確認下さい。
(ご案内ページへのアクセス方法)
・ InnovationS-iホームページにアクセスして下さい。
・ 上部「セミナー交流会」タブをクリックして下さい。
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・ 「2016年7月のセミナー開催スケジュール」一覧表にある「7月23日(土)13:30~16:30『ベンチャー企業の経営危機に対処する』支援機関StrateCusitons 」をクリックして下さい。
→ ご案内ページ

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

「世界の先進国では日本だけが一人負け」という話を聞くことがあります。世界が日本を羨んだ “Japan as No.1” からまだ40年ほどしか経っていないのに、当時、途上国といわれていた幾つかの国々の後塵を拝している現状です。

それを打開する方法の一つに、マネジメントを高度化していくことがあると思われます。日本のホワイトカラーの生産性は先進国では最低だといわれていますが、逆に言えば、マネジメントを改善すれば成果を飛躍的に伸ばすことができる可能性があります。

筆者は Bond-BBT MBA でMCS(マネジメント・コントロール・システム)論を学んで以来、マネジメントでもって企業の業績をあげる方法について研究してきました。マネジメントを合理的に考え直し、システムとして組み直すのです。StrateCutionsで行うマネジメント支援の理論的背景や方法論を、お知り頂ければと考えています。


Webサイト:StrateCutions

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