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マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第8回

上級マネジャーの役割(現場マネジャーのマネジメント)(後編)

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「上級マネジャーの役割について、『現場マネジャーのマネジメント』のご説明をお聞きしているところです。」

「これまで『現場目標・戦略の合意』と、『現場の取組みへのフィードバック』について説明したな。」

「はい。ノートによると、現場マネジャーへのマネジメントの最後は、『現場マネジャーへのモチベーションアップ』と、『配置・育成』のようです。」

「さすが、きちんとノートを取っているな。」

「前回は『モチベーションアップとはアメとムチなのですよね』とぽろっと言ってしまったおかげで、散々にこき下ろされたのでしたね。」

「そうかな。俺は優しく説明してやった記憶しかないのだが。」

「三上取締役は、ホント、長生きできるタイプだと思います。」

「なんだ、どういう意味だ?」

「いいえ、お褒めしたのですよ。」


モチベーションアップ

「先回では、『モチベーションアップとは、やる気のない人間にアメとムチで、やる気を出させることではないか』と申し上げて炎上してしまいました。」

「それは、炎上もするわな。」

「そうですか?」

「だって、言っている本人でさえ『やる気のない人間は、アメとムチで、やる気を出させることができる』なんて、信じていないのだろう。」

「それはまあ、そうです。」

「で、どういうことだった?」

「それは『軸を合わせる』とことでした。」

「そうだな。具体的には?」

「申し訳ありません。改めて教えてください。」


組織で働く人々全てが方向性の軸を合わせる

「中川部長も『軸を合わせる』という言葉自体を忘れた訳ではないだろう?」

「マネジャーとマネジメントされる者、ひいては組織と従業員が、目指すところの軸を合わせるということでしたね。」

「どうやって、これを行なっていくのだ?」

「現場目標や戦略について、上級マネジャーと現場マネジャーが合意することによって実現するというお話だったと思います。」


組織で働く人々全てが方向性の軸を合わせるプロセス

「そうだ。これは、いくつものプロセスによって行われている。」

「いくつものプロセスですって?」

「最初に上位マネジャーは、自分が果たさなければならない責任を果たせるよう、部下である現場マネジャーたちに責任を割り振っていくだろう。」

「そうですね。現場マネジャーが目標を実現したとしても、上級マネジャーが自分の目標を実現できないというのでは意味がありませんからね。」

「そうなんだ。まず、こういう構図をきちんと作り上げられたら、どうなると思う?」

「上級マネジャーと現場マネジャーが運命共同体になる訳ですね。」

「中川部長も、おもしろい言い方をするな。しかし、その通りだ。」

「さて、その運命共同体は、次にどうするんだ?」

「どうするんだと言われましても。」

「現場マネジャーは、割り振られた目標を実現するために自分が何をするつもりでいるのか、上級マネジャーと相談するのではないか?」

「確かに、そうですね。」

「それで、一回でOKが出ることもあるだろうけれど・・・。」

「なかなかそうはいかないですよね。結構、ダメ出しがあります。」

「それは、『その方法では期待する成果が得られないだろう』との年長者からのアドバイスという意味合いもあるだろうし、『その方法では、他の部門との整合性が取れないだろう』という趣旨の場合もあるだろう。」

「わが部門は目標を達成しても、他部門の邪魔になるようなやり方はやめてくれという意味ですね。」

「そうだな。だいたいそのような方法論は、回り回って自部門もうまく機能できなくなることが多い。」

「確かにそうです。」

「そういう議論をし、意見を打ち合うことにより、少しずつ両者の意見が歩み寄ってくるだろう。」

「そのことを『軸を合わせる』と表現しているのですね。」 

「そういうことだ。」


軸を合わせるメリット

「こういう構図を作っておくことに、どんなメリットがあると思う?」

「現場マネジャーは、上級マネジャーが自分にあれこれと言ってくる理由を、きちんと理解すると思います。自分に目標を達成させたいからだと思うようになるということですね。」

「まさに、そういうことだ。」

「両者がこのような信頼関係に立つことは、大切ですよね。現場マネジャーが『この仕事、自分としてはイヤなんだけど、命令だから仕方がない』、『それにしても上級マネジャーは、なぜこんなにもダメ出しばかりするのだろうか』などと思っていると、現場の協力体制なんかできるはずがありません。」

「そうだな。」

「逆に言うと、上級マネジャーと現場マネジャーが、そういう意図で繋がっていれば、現場マネジャーと現場で働く人々の間にも波及すると思うのです。」

「本当に、そうだ。」


軸を合わせることでJALを再生させた稲盛社長

「その実例として、前回では、JALを再生させた稲盛和夫社長(当時)のことを挙げてくれたのですよね。」

「よく覚えていたな。」

「いやいや、覚えていますよ。それまでMCSなんて聞いたことなく、三上取締役が『西洋かぶれな理論を振りかざしてきた』と感じていましたが、それでやっと、納得がいったのですから。」

「西洋かぶれとは、よくも言ってくれたな。しかし、それが正直な感想なのだろうな。」

「今は全然、そんなことは思っていませんよ。念のため。」

「そんな変なフォローをするなんて、中川部長らしくないぞ。」


自分が何をすべきか、徹底的に考えさせる

「私、今でも、三上取締役が言っておられたドキュメンタリー番組のシーンを思い出すのです。番組名などは、さんざん探したのですが、分かりませんでしたが。」

「それは俺も一緒だよ。なかなか見つからないよな。」

「稲盛社長は、JAL再生に向けた必達目標を達成するために、マネジャーたちに、自分が何をしなければならないかを徹底的に考えさせたんだのでしたよね。」

「そうなんだ。稲盛社長は『社長』だから、最初に軸を合わせる相手は上級マネジャーだった。但しそれを上級マネジャーに止めることなく、その連鎖を現場マネジャーまで繋いでいったんだ。」

「会社目標の実現のため、トップから現場まで一本の軸ができるように、調整していったのですね。」

「そうなんだ。そしてそれは、ただ単に目標を共有しただけではない。モチベーションをアップさせるツールでもあったんだ。」

「この時に稲盛社長がアメとムチを使っていたら、目も当てられない状況になっていたでしょう。」

「反発が、ここかしこに起きただろう。」

「モチベーションどころではないですね。」

「そうなんだ。」

「だから『モチベーションをアップさせるために、会社と自分の軸を合わせる』という方法は効果的なんですね。」


配置・育成

「いつもながら『配置・育成』が最後になるな。」

「でも、MCSの考え方が分かると、基本原則がはっきり見えてきます。適材適所なんでしょう。」

「そうだ。でも、全ての社員に『やりたい』と手を挙げる仕事に就かせることはできないぞ。」

「そのようなことは、確かにあります。でも、敢えて希望しない場所に配置することで、思いもよらなかった能力を花開かせてもらうこともあるのです。」

「それが育成にかかっている訳だな。育成は、適材適所の代わりにするものではない。適材適所を実現できたとしても、適切に育成しなければ、成長は期待できないだろう。」

「人事担当者として、適材適所と育成には、いつも気を配ってきたつもりです。でも、なかなかうまく行きませんね。いつも課題が残っています。」

「そう、わかっているけれどできない。それが人事なんだ。ひいて言えば、マネジメントなんだ。だからこそ、継続して取り組んでいく必要があるんだよ。」

「おっしゃる通りだと思います。」

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。


Webサイト:StrateCutions

マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

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