イノベーションズアイ BtoBビジネスメディア

中堅企業にも求められる移転価格税制対応

第10回

移転価格税制の基礎(4)「Arm’s Length Price ~ 腕の長さの価格とは?」

朝日税理士法人  山中 一郎

 

移転価格税制では、海外の関連企業(国外関連者)との取引が独立企業間価格(Arm’s Length Price:ALP)で行われたか否かが問題となります。Arm’s Lengthを直訳すると、「腕の長さ」という面白い表現ですが、これは、「一定の距離をおいた」、つまり、「関連者間でない」という意味があります。 


税務上、ALPとは、国外関連取引と同様の状況のもとで、関連者でない独立第三者間において同種の取引が行われた場合に成立する価格をいいます。ひとことで言えば、“経済合理性のある取引関係に基づく適正な価格”です。


 企業がALPと異なる価格で国外関連取引を行った結果、所得が国外関連者に移転している場合は、税務当局はその取引がALPで行われたものとみなして課税することができます。


ALPの算定方法は?

ALPの算定方法は、商品・製品などの棚卸資産の売買取引とそれ以外の取引の2つの取引に分けて定められています。ここでは、棚卸資産の売買取引の場合のALPの算定方法をみていきましょう。


算定方法としては、基本3法、基本3法に準ずる方法、その他政令で定める方法があります。以前は基本3法が優先して適用されていましたが、現在は取引の国外関連者との取引の内容やそれぞれの会社が果たす機能等を考慮して、もっとも適切な方法を選定するという、「ベストメソッドルール」が使われています。ただし、国税当局は、下記の独立価格比準法が最善で、再販売価格基準法と原価基準法が次善の算定方法であるとしていますので、注意が必要です。


○独立企業間価格(ALP)の算定方法(棚卸資産の場合)

【基本三法】

① 独立価格比準法(CUP法)

② 再販売価格基準法(RP法)

③ 原価基準法(CP法)

【基本三法に準ずる方法】

① 独立価格比準法に準ずる方法

② 再販売価格基準法に準ずる方法

③ 原価基準法に準ずる方法

【その他政令で定める方法】

① 比較利益分割法

② 寄与度利益分割法

③ 残余利益分割法

④ 取引単位営業利益法

⑤ ①から④までの方法に準ずる方法


基本3法のうち、独立価格比準法は価格に着目する方法、再販売価格基準法と原価基準法は売上総利益に着目する方法です。その他政令で定める方法として、売上総利益または営業利益を分割する3種の利益分割法と、営業利益に着目する取引単位営業利益法(TNMM)が定められています。


ALPの算定方法は、かつては基本3法が実務において用いられていましたが、企業取引が複雑化、グループ間取引の増加、またはデータベースの内容の拡充などの環境変化により、現在では、営業利益に着目し、データベースを活用する取引単位営業利益法などが主流となっています。


ALP算定のための書類をローカルファイルに

 ALPを算定するために必要と認められる書類(ローカルファイル)は、原則として確定申告書の提出期限までに作成し、保存する必要があります(これを同時文書化義務といいます)。前回のブログで述べたとおり、1つの国外関連者との取引について、その前期の取引金額が50億円未満である場合には、同時文書化義務は免除されます(注:あくまでも、作成・保存義務はあり)。それでも、税務調査で60日以内の指定日までにローカルファイルを提出しなかった場合には、推定課税を受ける可能性があることはすでに述べたとおりです。


 国外関連者との間に取引がある会社は、ALPを算定するための情報を文書化して、税務調査があった場合にすみやかに対応できるよう準備しておくことが大切です。



以上


 

プロフィール

朝日税理士法人
公認会計士・税理士 山中 一郎


朝日新和会計社(現あずさ監査法人)退職後、現在は朝日税理士法人代表社員および朝日ビジネスソリューション株式会社代表取締役。


国際税務業務、海外進出支援業務の他、株式上場支援業務、組織再編、ベンチャー支援等 の税務・コンサルティングサービスを行っている。


主な著書: 「図解&ケース ASEAN諸国との国際税務」(共著/中央経済社)、「図解 移転価格税制のしくみ 日本の実務と主要9か国の概要」(共著/中央経済社)、「なるほど図解M&Aのしくみ」(共著/中央経済社)、「事業計画策定マニュアル」(共著/PHP) など多数


Webサイト:朝日税理士法人

中堅企業にも求められる移転価格税制対応

同じカテゴリのコラム

イノベーションズアイに掲載しませんか?

  • ビジネスパーソンが集まるSEO効果の高いメディアへの掲載
  • 商品・サービスが掲載できるbizDBでビジネスマッチング
  • 低価格で利用できるプレスリリース
  • 経済ジャーナリストによるインタビュー取材
  • 専門知識、ビジネス経験・考え方などのコラムを執筆

詳しくはこちら

お役立ちコンテンツ

  • 弁理士の著作権情報室

    弁理士の著作権情報室

    著作権など知的財産権の専門家である弁理士が、ビジネスや生活に役立つ、様々な著作権に関する情報をお伝えします。

  • 産学連携情報

    産学連携情報

    企業と大学の連携を推進する支援機関:一般社団法人産学連携推進協会が、産学連携に関する情報をお伝えします。

  • コンサルタント経営ノウハウ

    コンサルタント経営ノウハウ

    コーチ・コンサルタント起業して成功するノウハウのほか、テクニック、マインド、ナレッジなどを、3~5分間程度のTikTok動画でまとめています。

  • 補助金活用Q&A

    補助金活用Q&A

    ものづくり補助金、事業再構築補助金、IT導入補助金、小規模事業者持続化補助金及び事業承継・引継ぎ補助金に関する内容を前提として回答しています。

  • M&Aに関するQ&A

    M&Aに関するQ&A

    M&Aを専門とする株式会社M&Aコンサルティング(イノベーションズアイ支援機関)が、M&Aについての基本的な内容をQ&A形式でお答えします。

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。