第3回
社員がつくったイラストの著作権は誰のもの??~職務著作にまつわる話
著作権は著作物を創作した者に帰属する!?
都内某所の居酒屋さん。デザイン学校で同級生だったAさんとBさんが、久しぶりにお酒を酌み交わしながら、仕事のグチを語り合っています。
Aさん「うちの社長は人づかいが荒くてやってらんないよ。」
Bさん「そんな会社、やめちゃえ、やめちゃえ。キミのような腕のいいデザイナーなら
もっといい会社に転職できるよ!こないだキミが作った、その会社の20周年記念の
キャラクター、すごい評判じゃない!」
Aさん「そうだよね~。それに、知り合いの法律家が、『著作権は著作物を創作した者に
帰属する』って言っていたよ。退社のときに、ボクが持ってるそのキャラクターの
イラストの著作権を会社に買い取ってもらおうかな。」
Bさん「いいね、いいね。ボクはフリーだけど、外注を受けてたくさんキャラクターを
作ってるからなー。ボクの著作権ももう結構な財産かもね~。そのお金で一緒に
ハワイに行くぞ!」
この夜のお酒で気が大きくなり、辞表を書いたAさんは、数日後、辞表を社長に叩きつけ、自分が制作したキャラクターのイラストの著作権を買い取ってくれるように要求しました。
さて、Aさんは無事にハワイに行けたでしょうか?答えは・・・「残念!」
会社の業務で制作すれば著作権は会社のものなのです
Aさんの知り合いの法律家が言うとおり、著作権は原始的に著作者に帰属し、著作者は「著作物を創作する者」と規定されています。しかしこれにはいくつかの例外があるのです。そのひとつが今回のテーマの「職務著作」となります。
会社の従業員が、会社の業務として制作し、会社名義で公表したものの著作権は、一般的に、実際に制作した従業員ではなく、「会社」に帰属することになるのです。
まあ当たり前といえば当たり前の話かもしれません。著作物は、キャラクターのようなイラストに限らず、文章、写真、映像、図面、プログラムなど、ビジネスの世界でも多岐にわたって存在します。会社の業務として社員に作らせたものの著作権が、いちいち社員に帰属していたら、会社の経営は煩雑でたまりません。また、会社名義で公表した著作物に対する社会的責任は、良くも悪くも会社が負うことになるというのも、「職務著作」というルールができた理由のひとつなのでしょう。
著作物の制作を外注した場合は注意が必要です!
では、Bさんはどうでしょうか?Bさんは、フリーのデザイナーで、発注元からお金をもらってキャラクターのイラストを制作しています。この場合、Bさんが制作したキャラクターのイラストの著作権は、お金を払った発注元ではなく、Bさんに帰属することとなります。
「えっ!そりゃおかしいでしょ!」という読者のみなさんの声が聞こえてきました。
WEB制作会社に自社のホームページを作ってもらったら、そのホームページの著作権はWEB制作会社のものなの?
会社案内のパンフレットに掲載する写真を、カメラマンに撮影してもらったら、その写真の著作権はカメラマンのものなの?
実は、そうなんです、法律ではすべてそういうことになっているのです。
「著作権は著作物を創作した者(著作者)に帰属する」というのが原則です。具体的に創作した人が著作者であり、その著作物の制作のためにお金を出した人や、コンセプトの指示をした人は著作者ではありません。社員による制作は「職務著作」という例外によって会社が著作者となることができますが、外注をした場合は、この原則どおりに実際に制作した外注先が著作者となるのです。
しかし、外注先が著作者だという事実はどうにも変えられませんが、著作者である外注先が持っている著作権を、契約により発注元が譲り受けるということはできます。クリエイティブな仕事を外注している会社の担当者の方は、今一度外注先との契約書をご確認ください。わからないときは、是非著作権を専門に扱う行政書士にご相談ください。
ところでBさんはハワイに行くことができたのでしょうか?なんでも発注元がしっかりした契約書を作っていたそうで、今宵もAさんと居酒屋でヤケ酒のようです・・・。
※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。
※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。
ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)
日本弁理士会会員
日本弁理士会著作権委員会委員
(2020年度は委員長、2019年度は副委員長を務める。)
東京都行政書士会会員 東京都行政書士会著作権相談員
東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員
株式会社ボングゥー代表取締役
「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。
特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。
現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。
また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。
○ボングゥー特許商標事務所
https://www.bon-gout-pat.jp/
○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
https://www.bon-gout-office.jp/
【著書】
「知らなかったでは済まされない著作権の話」(上)・(下)
上巻:https://amzn.to/2KB8Ks5
下巻:https://amzn.to/2rV7qcG
弁理士が、“ありがちな著作権トラブル”をストーリー形式で紹介し、分かりやすく解説していく1冊です。
法律になじみのない人でも読みやすく、“ここだけは注意してほしい点”が分かる内容となっています。
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