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知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.4

第8回

本のタイトルには著作権がないので勝手に変更できるの??~映画・楽曲・本の題号(タイトル)の著作権にまつわる話②

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所  堀越 総明

 

イノベーション書房はベストセラー「君の名は。」の続編を出版することに!


大手出版社から独立して「イノベーション書房」を立ち上げたAさんは、創業第1弾で出版した書籍「君の名は。」がベストセラーとなり、意気揚々です。部下の若手編集者Bくんは、さらに自信を深めるAさんの編集方針に閉口しながらも、「君の名は。」の大ヒットにより給料が上がることを期待して、今日も仕事に励んでいます。

そのBくんが楽しみにしていた給料日がやってきましたが、給料明細書を見たBくんはがっかりです。期待していた昇給はなく、特別手当も何もついていません。
Bくん 「あの~、Aさん。ボクのお給料、まったく上がっていないんですけど。」
Aさん 「それが??」
Bくん 「『それが??』って。だって『君の名は。』が大ヒットしたじゃないですか。」
Aさん 「バカヤロー!たった一度のベストセラーで給料が上がると思うなよ!もし給料を上げてもらいたいんだったら、すぐにC先生のところに行って、『君の名は。』の続編を書いてもらうように頼んできなさい!」

Bくんは、お給料を上げてもらいたい一心で、C先生のところに行き、「君の名は。」の続編を書いてくれるようにお願いしました。するとC先生は、「僕もちょうど書こうと思っていたんだよ~」と言って、Bくんの依頼を快諾してくれました。
Aさん 「Bくん、よくやった!続編もベストセラーになったら、キミの給料も大幅アップかもな!」

イケていないタイトルを作者に無断で「君の名は。そして」に変更して出版


それから3ヶ月後、イノベーション書房に早くもC先生の原稿が届きました。その面白い内容に、Aさんも興奮気味です。
Aさん 「Bくん、やったな!また売れちゃうかもな!」
Bくん 「これでボクの給料も大幅アップですね!」
Aさん 「でもこのタイトルはなんなんだ??」
Bくん 「『あなたのお名前何てーの?』ですか?」
Aさん 「本のイメージと全然合わないだろ。『君の名は。そして』とかにならないのか?」
Bくん 「C先生が、これが現在の自分の気持ちだって言うんですよね・・・。」
Aさん 「でもこんなタイトルじゃ売れるわけないだろ!?そうだ!弁理士Hさんが、本のタイトルには著作権がないって言ってたよな?C先生には申し訳ないけど、ウチの独断でタイトルを『君の名は。そして』に変更して出版するぞ!」


それから数ヶ月後、全国の書店に、新刊「君の名は。そして」が並ぶと、前作のヒットから間もないこともあり、飛ぶように売れていきました。「な!やっぱりタイトルがいいからだよ!」とBくんに話しかけながら喜ぶAさんでしたが、早くも発売日にC先生が血相を変えてイノベーション書房に怒鳴り込んできました。
C先生 「な、な、何なんだこのタイトルは!!勝手に本のタイトルを変更するなんて著作権侵害だぞ!!」
Aさん 「C先生、タイトルを勝手に変更したことは申し訳ないですが、本のタイトルには著作権はないんです。だから著作権侵害にはならないんですよ!」

本のタイトルには原則として著作権はありません


自分の考えたタイトルを勝手に変更されたわけですから、C先生のお怒りはごもっともです。Aさんがやったことは、道義的には間違いなく悪いことでしょうが、法的にはAさんが言う通りに本当に著作権侵害にはならないのでしょうか?

前回のコラムで、俳句などを除いて、映画・楽曲・本のタイトルのように「極めて短い表現」については、一般的には、創作性が低いという理由で、著作物としては認められないと説明しました。もし「極めて短い表現」を著作物として認めてしまうと、後世の人たちの表現の選択は大幅に制約され、新しい創作活動に大きな支障が生じてしまうことにもなるからです。

本のタイトルが著作物でないということは、当然著作権はありませんので、やはりAさんは、C先生の本のタイトルを、「あなたのお名前何てーの?」から「君の名は。そして」に自由に変更できるのでしょうか。

本のタイトルには著作権はありませんが著作者人格権で保護されています!!


確かに本のタイトルには著作権はありません。しかし、著作権法では、著作者の意に反して、映画・楽曲・本などのタイトルを変更してはいけないという規定を設けているのです。これは、著作者人格権のうちの一つで同一性保持権という権利になります。本などのタイトルは著作物ではないものの、著作物の内容と同様に、著作者の思いや主張をあらわしており、その人格的利益は守る必要があると考えられたためです。

つまり、映画・楽曲・本などのタイトルには著作権はないため、そのタイトルと同じタイトルを他人が別の著作物につけることは著作権法上問題ありませんが、その映画・楽曲・本などを利用する際に、そのタイトルを勝手に別のタイトルに変更することはできないということになります。

Aさんですが、著作権に詳しい弁理士Hに相談して、本のタイトルは勝手に変更できないことを知ると、C先生に平謝りしました。C先生は、当初はイノベーション書房に対して全冊回収するように求めたものの、「君の名は。そして」がタイトルの良さもあって、再びベストセラーとなったため、そのままのタイトルでの販売を認めることとし、Aさんはほっと胸をなでおろしたということです。


※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。
 

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会会員
日本弁理士会著作権委員会委員
(2020年度は委員長、2019年度は副委員長を務める。)
東京都行政書士会会員 東京都行政書士会著作権相談員
東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員
株式会社ボングゥー代表取締役


「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
https://www.bon-gout-pat.jp/
○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
https://www.bon-gout-office.jp/
 
【著書】

「知らなかったでは済まされない著作権の話」(上)・(下)
上巻:https://amzn.to/2KB8Ks5
下巻:https://amzn.to/2rV7qcG
 
弁理士が、“ありがちな著作権トラブル”をストーリー形式で紹介し、分かりやすく解説していく1冊です。
法律になじみのない人でも読みやすく、“ここだけは注意してほしい点”が分かる内容となっています。

知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.4

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