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鳥の目、虫の目、魚の目

第5回

トップを目指すなら群れるな 統率力と変革の気概を磨け

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストM

 
年末になると毎年恒例のように、新聞各紙に企業トップの交代予測が掲載される。おおよそが副社長からの昇格、または若いときから本命視されてきた誰もが認める役員といった順当人事だ。競馬予想に例えるのは失礼だが、本命(◎)か対抗(〇)を載せることがほとんどで、ダークホースを意味する穴(×)はほとんど見られない。

しかし、新型コロナウイルス禍で露呈した日本の政治と行政の停滞、デジタル化の遅れが日本経済の地盤沈下を招いた今、変革というリスクを取らず官僚的な前例踏襲になりがちな順送り人事でいいのだろうか。

日本生産性本部が発表した労働生産性の国際比較では、2020年の日本の1人当たり労働生産性は経済協力開発機構(OECD)加盟国38カ国中28位、前年の26位から低下した。経済のバロメーターといわれる日経平均株価も中長期的な低迷が続き、世界の中で不振が目立つ。日本企業の稼ぐ力が衰えているわけで、先行きの展望にも明るさが見通せない。企業価値の向上が欠かせない中、そつのない人が企業トップに就くより、従来とは異質の人材を登用する抜擢人事に期待したくなる。

というのもソフトブレーン・サービス創業者の宋文洲氏のコラムを思い出したからだ。「トップは育てるものではない」というタイトルで送られてきたメールマガジンに興味を持ち、当時、さっそく取材を申し込んだ。「水槽の中を泳ぐ魚群。リードする先頭の魚を水槽からすくい出すと魚群はどうなるか」と問いかけていたからだ。

2番目を泳いでいた魚が先頭に出てリードするかと思いがちだが、リーダー不在で混乱した魚群を制するのは、それまでのナンバー2や3ではなく、見たこともない魚だという。群れていない魚、つまり群れにとって目立たない魚だという。

この自然現象について宋氏は「ナンバー2や3がトップになることは自然ではないということ。トップが後継者を選ぶことは自然界ではありえない」と答えた。厳しい自然現象や激しい生存競争に勝ち残るためには統率力と戦闘能力に長けたリーダーが不可欠で、年功や人気でリーダーを選んだら弱肉強食の自然界では死を意味する。だから群れも強いものをリーダーと認めてついていく。



トップに従うことで才能を発揮するタイプの人材がトップの器を持っているとはかぎらない。ナンバー2や3はトップの指示通りに動いて認められてきたわけで、トップに求められる才能である統率力は未知数だし、戦闘能力を備えているかも分からない。


経営も自然界と一緒で、いわば勝つか負けるかだ。度量の狭いトップはイエスマンを周りに集め、後継も順送りでナンバー2や3を指名しがちだ。それが院政を敷くための人事ならもってのほかと言わざるを得ない。指名された後継者も前任の経営を側近としてみてきただけに変革を起こすのは難しい。その成功体験を踏襲することは、互いに居心地がよく、組織も正しいと思い込んでしまう。


自己満足に陥り、過去の継続・現状維持・組織防衛に走ると、時代が変わり、外部環境が変化しても気づかず没落の道を歩んでしまう。新たな価値創造に向けた思考回路が止まっているからだ。イノベーション(変革)を起こそうとせず現状維持を続ける。そんな企業に未来はないのは明白だ。


脱炭素、デジタル化、そしてグローバリゼーション、さらにはガバナンス(企業統治)と経営環境の変化が激しい今こそ、トップに求められるのは統率力であり、変革を起こす気概だ。低迷から抜け出すには稼ぐ力を取り戻すしかない。そのためには守りに入るナンバー2や3といった順送り世代を飛び越えて一気に若返る方がいい。しがらみがないからだ。従来とは異質の人材をトップに登用することが肝心といえる。


トップを目指すなら上司や社長に媚びを売ることにエネルギーを費やすのではなく、派閥に属さずに独力で統率力と変革への気概を磨いていればいい。出世コースを目指さず、関連会社への出向を命じられてもトップの資質を習得する好機ととらえたい。いずれその能力を発揮する機会がやってくるはずだ。一方で、企業は頭角を現すことができる組織や異色の社員でも働きやすい環境を整えておく必要がある。「出る杭は打たれる」企業風土が治らないようでは優秀な社員は去るだけだ。大切なのは放任主義。だからこそトップは後継者を育てる必要はない。後藤新平は「財産を残すは下、事業を残すは中、人を残すは上」という言葉を残した。


 

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