40年前の星新一さんの「SFショートショート」に、あらゆる仕事はロボットがするようになり、人間は栄養補給と生殖だけをするようになるという話があった。その頃は、人間の仕事全部がロボットにとって代わるなど夢物語だった。最近では、どんな仕事・職業がどの位の確立でなくなるかが具体的に予測されるようになった。英オックスフォード大のオズボーン准教授らの論文「雇用の未来-コンピューター化によって仕事は失われるのか」(2014年)によると、10~20年後、現在ある職業の約半分はなくなるという。そのリアリティーは強まってきた。
例えば、現在わが国には、約200万人のトラックやタクシーの運転従事者がいるが、車の運転が完全に自動化することになれば、残念ながら彼らの仕事はなくなる。
人間による車の運転は危険を伴うものであり、年々減少傾向にあるといっても15年中には約54万件の人身事故が発生し、約4000人が命を落とした。
このような多数の犠牲者が不可避的に生じる自動車運転が許容されてきたのは、自動車による人の移動や物流がもたらす便益が極めて大きいことに求められてきた(法的には「許された危険」などという)。自動運転によって事故が起こらなくなった時点からは、社会的便益を持ち出して、危険性を伴う人間による運転を許容する根拠は失われる。自動運転技術を使わず、人間自ら運転する行為は、他人に危害を加える可能性があると認識しながら、あえてそのような危険な行為を行ったものとして強い非難を受けることになるだろう。
自動運転を使っていれば交通事故で家族を失うことがなかったという被害者が現れるようになれば、いかに車の運転を楽しみにしているドライバーが多くても、人間が公道で車両を運転することを法的に許容することは難しいと思う。
そして、完全な自動運転は近い将来確実にやってくる。最近の車には、前方の車両を追尾する機能や、道路の白線を認識し、走行車線の左右に車が寄っていくと反対側のタイヤの回転数をわずかに落として車線の中央に車両を戻す機能が搭載されるようになってきた。
実際にそのような車に乗ってみると、高速道路では、運転手は前方の車両をロックしたらハンドルを押さえているだけで、運転操作らしきことはほとんどやる必要がない。
運転従事者200万人の雇用が短期間で失われるだけでも、消費に大きな影響がでるだろう。他方で、200万人を雇用していた企業の側は、人件費が激減し、いったん利益率が大幅に引き上げられる。
その後、良好な業績と消費の低迷を背景に価格競争が生まれ価格はさらに下がって、再び強いデフレ傾向になっていくように思う。わが国の5700万人の被雇用者の半分の仕事がなくなる「雇用の未来」。国も個人も早期に対策を考えるべき問題だと思う。
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【プロフィル】
古田利雄ふるた・としお 弁護士法人クレア法律事務所代表弁護士。1991年弁護士登録。ベンチャー起業支援をテーマに活動を続けている。トランザクション、ナノキャリア、キャンバスなど上場企業の社外役員も兼務。54歳。東京都出身。