暗視カメラ画像をカラー化、ナノルクスの挑戦 「死の谷」越え実用化、エイスースも出資

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ナノルクスが開発したカラー暗視技術を実装したイメージセンサーと、祖父江基史社長(右)、開発者の永宗靖取締役=茨城県つくば市

街中に設置されている赤外線式カメラ。ただ撮られる画像はモノクロで、夜間などの場合は何が写っているか判別できないことも少なくない。こうした課題を解決しようと、産業技術総合研究所(産総研)発ベンチャー、ナノルクスが開発を進めているのが「赤外線カラー暗視技術」だ。防犯やテロ対策など安全・安心な社会を構築するため監視カメラの需要は年々高まっており、同社の技術が大きな注目を集めている。

同技術は、産総研の主任研究員で同社の永宗靖・技術担当取締役が開発した。10年ほど前に光センサーの高感度化に関する研究に取り組んでいた頃、「色の付け方で可視光に近い画像ができる可能性があることに気付いた」(永宗氏)という。

人間は光の三原色である赤、青、緑の組み合わせで色を識別している。可視光の波長は約400~700ナノ(1ナノは10億分の1)メートルで、色ごとに波長が決まっている。そこで、永宗氏は、赤外線を物体に当てた場合にも色ごとに反射される波長が異なる現象を応用することで、カラー画像として捉える技術を編み出した。

事業化には苦労した。基盤技術は完成したものの、創業初期のベンチャーが資金や人材の確保などで苦しむ「死の谷」に悩まされた。設立当初、永宗氏やほか創業メンバー3人がそれぞれ資金などを出し合って開発したが、なかなか実用化のめどが立たず事業継続が危ぶまれた。

そんな中、2015年6月に永宗氏は、ベンチャー支援組織のTXアントレプレナーパートナーズ(TEP、千葉県柏市)が主催した投資家へのプレゼンイベント、ベンチャーピッチに登壇。TEP副代表理事の祖父江基史氏と出会う。祖父江氏は「防犯などの安心・安全な社会の構築に非常に役立つ」とナノルクスの技術を高く評価した。

「やるからには経営もスピードをあげて、この技術の実用化を後押しする」。同年秋、祖父江氏がナノルクス社長に就き、顧客開拓や試作品の製作を早急に進める。翌年、実用化の目途が立って資金調達に動き、あるベンチャーキャピタル(VC)から出資の合意を取り付けた。しかし、必要資金が送金されないトラブルに見舞われ再び窮地に追い込まれる。

祖父江社長は「事業会社なら早く進むのでは」と考えていたところ、台湾の情報機器大手、エイスースがナノルクスに強い関心を持っていることを知る。

今年4月、祖父江社長が訪台し、エイスースの施崇棠董事長に技術内容と今後の事業計画について説明したところ、その場で、施董事長から約1億円の出資を伝えられた。

現在、エイスースは開発中のスマートフォンなどの新製品に組み込む要素技術として、採用を検討している。

カラー暗視に関する市場が20年までに世界で5000億円の規模に達するとの試算もある。18年には赤外線暗視カラー技術による監視カメラを商品化し、21年には株式上場あるいは、M&A(企業の合併・買収)による事業売却を目指している。

【会社概要】
ナノルクス
▽本社=茨城県つくば市千現2-1-6
▽設立=2010年1月
▽資本金=6768万円
▽従業員=6人
▽事業内容=暗視カメラなどの電子機器や電子機器システムの開発、設計、製造、販売

「フジサンケイビジネスアイ」

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