■ベンチャー企業を取り込む柔軟思考
事業会社が社外のベンチャー企業などに投資する「コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)」活動が盛んである。日本の大企業は、これまでモノづくり、ハードウエア志向によって成功してきたため、デジタル・イノベーション(技術革新)を起こせるようなギークな(突出した知識才能のある)ソフト開発人材や開発環境に乏しい。
このため、アップル、グーグル、アマゾン、セールスフォース・ドットコムなどの米国のITサービスが日本市場でシェアを伸ばしている。世界に通じるメード・イン・ジャパン製品が少なくなってきており、大企業がグローバルな競争に勝ち抜いていくためには、社外にデジタル・イノベーションを起こせる人材やテクノロジーを求めざるを得なくなっている。
私は、大企業とベンチャー企業のマッチングを目的とするイノベーション・リーダーズ・サミット(ILS)にアドバイザーとして関与しているが、イベントは5回目を迎え、ますます参加企業が増えている。
当初このイベントには、大企業からは、経営企画部や新規事業開発を担当する部署が窓口として参加していた。しかし、近年では事業部の担当者が参加するようになってきた。経営企画部や事業開発部は、イノベーションの旗振り役だが、大企業内の各事業部にも他社が持つ技術を組み合わせて革新的な研究開発や製品化につなげる「オープンイノベーション」の必要性に関する問題意識が浸透してきていることがうかがえる。
さらには、研究開発部が参加する大企業も現れるようになった。研究開発部がオープンイノベーションに取り組むのは、自身の役割の自己否定ともいえるが、内向きだった大企業も外向きになってきたのか、あるいは必然がこのような結果をもたらしているのかもしれない。
大企業の中には、今回のイベントに50人体制で参加するところもあり、技術シーズの探索に対する真剣さを感じる。
それでは、大手企業がオープンイノベーションを成功させるためのポイントは何だろうか。ILSを主催し、経済産業省から起業家輩出支援事業「ドリームゲート」を受託し事業責任者として運営する松谷卓也氏によれば、4つあるという。
まず、優れたベンチャー企業は、既に強い交渉力を持っていることが多いので、大企業側から積極的に探索し、積極的にアプローチすること。日本の大企業はプライドが高く、それが難しいという。次に、トップの力量にもよるが、トップが率先してベンチャー企業と協業するケースより、事業部担当の役員が権限と責任をもってリードしているケースの方がうまくいく確率が高い。
3つ目は、本業のビジネスとのカニバリズム(共食い)を恐れないこと。リクルートが求人情報サイト「リクナビ」のライバルである「インディード」を1500億円で買収し、その後、インディードの時価総額は1兆円となった。カニバリズムは、裏返せばマーケットの寡占へのステップである。
最後に、ベンチャーとの協業のハードルになりそうな最高財務責任者(CFO)や研究開発部門を最初から巻き込んでおくこと。これによってスピード感のある意思決定が可能になるという。
【プロフィル】
古田利雄
ふるた・としお 弁護士法人クレア法律事務所代表弁護士。1991年弁護士登録。ベンチャー起業支援をテーマに活動を続けている。東証1部のトランザクションなど上場企業の社外役員も兼務。55歳。東京都出身。
「フジサンケイビジネスアイ」