困難克服、分裂に備えたルールづくり
起業は、個人が1人でするよりもチームでする方が成功確率は高くなる。チームで起業すれば、知恵や得意分野を持ち寄れること、起業から当分の間メンバーが手弁当で関与することによって「バーンレート」(月次の出費)を抑えられること、チーム全体のネットワークの利用など多くのメリットがあるからだ。
このため、ベンチャーキャピタルの中には投資先はチームによる起業であることが条件だと考えているところもある。また、最近ではインターネット上で新規事業のコンセプトを発信していると、それを見た人がチームへの参加を申し出ることもあり、チーム作りは比較的容易になりつつある。
ただ、起業チームといえども、一人一人は別々の人間であり、それぞれ背景、哲学、求めるものが異なるので、同床異夢の状態に陥る危険がある。私は幾つかのベンチャー企業のインキュベーション(孵化(ふか))を行う団体に関与してきた。さまざまなケースの積み重ねの分析から、起業チームは主に次のような項目について、十分すり合わせをしてそれを共有すべきだと考えている。
それは、その事業のゴール(ビジョン、ミッションステートメント、エクジットの方法)、会社の価値、会社の哲学、成功の評価方法、ワーキングスタイルと文化、起業チームの役割分担(誰を経営責任者、財務責任者、執行責任者 マーケティング責任者とするか)などだ。
起業の過程では、連続して困難に直面するために、特にその事業のゴール、会社の価値、哲学という基本的な価値を創業者間で共有することは、事業の方向性を示し、チームで困難を乗り越えていくために必須である。
このようにして、チームが同じ方向に邁進(まいしん)するために十分に準備をしても、しばしば事業が軌道に乗る前にチームは分裂することがある。起業支援の現場では、そのような場合に備えて、創業者間で取り決めをしておくことを推奨することが一般的になってきている。
これは、婚前契約によって離婚の条件を決めておくようなものだ。離婚の場合、財産分与について争いになっても、夫婦はそれぞれに生活していける。しかし、会社の創業者同士の紛争は会社の機能不全を招いたり、残った者のモチベーションを毀損(きそん)したりすることになる。
このような創業者間契約書には、会社を去る創業者は、残る創業者に対して会社の株式の一部を一定の比較的低廉な金額で売却することと定める。例えば、起業から満2年までに退職する場合には、持ち株の60%を、満4年までに退職する場合には40%を、残った創業者に譲渡すると決める。
起業チームから抜ける者に対しては、チームに関与した期間に応じて、その後のM&A(企業の合併・買収)や株式公開(IPO)などの際に貢献に応じた報酬を与える。一方で、残る者はより多くの株式を持つことによってモチベーションを維持することができることになる。
古田利雄 ふるた・としお
弁護士法人クレア法律事務所代表弁護士。1991年弁護士登録。ベンチャー起業支援をテーマに活動を続けている。東証1部のトランザクションなど上場企業の社外役員も兼務。55歳。東京都出身。
「フジサンケイビジネスアイ」