学生・若手経営者4人が語る
少子化による人口減、東日本大震災、円高、デフレ…と先行き不透明感が漂う日本経済。 その一方で、ソーシャルメディアの勃興の波に乗り、学生など若手が次々に会社を興している。 4人の若手起業家、関係者に集まっていただき、今後の日本、会社のビジョンについて語ってもらった。 進行役は、フェリス女学院大学2年生の平岡みほさん。
≪進行役≫
フェリス女学院大学2年生・平岡みほさん(ひらおか・みほ)
学生支援企業組合設立準備室(SCU)で活動。東京都出身。20歳。
□ソーシャルリクルーティング 代表取締役CEO・春日博文さん(かすが・ひろふみ)
2011年3月学習院大学経済学部卒。埼玉県出身。24歳。
□トリッピース CTO・鈴木健太さん(すずき・けんた)
慶應義塾大学大学院理工学研究科2年生。北海道出身。23歳。
□クゥーイー 代表取締役・草野絵美さん(くさの・えみ)
慶應義塾大学環境情報学部2年生。東京都出身。21歳。
□学生支援企業組合設立準備室(SCU) 理事(就任予定)
甲木陽一郎さん(かつき・よういちろう)
日本大学法学部政治経済学科2年生。福岡県出身。21歳。
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平岡: まず自己紹介を兼ねて、どんなベンチャーを立ち上げたのかをお話しいただけますか。
春日: ソーシャルリクルーティング代表の春日博文といいます。 現在24歳です。2011年に学習院大学卒業と同時に会社を立ち上げました。 4月に新入社員が入って社員数が倍の10人になりますが、みんな22歳くらいの新卒メンバーでほぼ構成されています。 やっているのは、フェイスブックを活用した企業の採用担当者と学生をマッチングする就職支援サービス。 日本の企業と、海外の学生のマッチングするビジネスもやっています。4月に大阪、6月に福岡に支社を開設する予定です。
◆学生のレベルアップ支援
鈴木: 昨年3月末に設立したトリッピースという会社のCTO(最高技術責任者)を務めています。 私たちの会社がやっているのはわかりやすく言うと、ユーザーと旅を一緒に作って、実際に行くというビジネス。 オリジナルの旅行や体験をユーザー間で共有するウェブサービスをリリースし、旅行に関心の高い大学生を中心にユーザーを集めています。 コアメンバーは6人。エンジニアは3人で、僕がエンジニアの中心になっています。 今は慶応大学大学院理工学研究科の修士2年で、研究室ではインターネットの研究をしています。
草野: クゥーイー(Kwl-E)という会社を昨年8月に創設しました。 今、慶応大学環境情報学部の2年生です。 クゥーイーとは、Kwl(クール)でE(良い)もの、そして出る杭(クゥーイー)を世に広めたいという思いを込めてつくった造語です。 世界中のクリエーティブを集め、誰もがクリエーティブにアクセスしやすくするネットサービスを目指しています。
甲木: 学生支援企業組合設立準備室(SCU)の甲木と申します。日大法学部の2年です。 SCUは、ベンチャーというより学生の支援を目的とした団体で、6月に登記され法人格になる見通しです。 すでに北海道、関東、関西、九州で各種企業から会場や講師、ノウハウなどを提供してもらいながら、人材育成講座を開催したり、 現場で役立つスキルを学ぶためのトレーニングなど学生がレベルアップする取り組みを進めています。
平岡: 皆さん、ゆとり世代といわれる年代に育ったと思いますが、起業に至ったきっかけ、創業メンバーになった経緯は。
◆第2のネットのバブルに
春日: 大学4年の2月に内定を辞退して会社を作ることを決めました。きっかけは、米国を放浪していろんな大学生と出会ったこと。中国の有名な大学生たちの中には、日本語が堪能な人や、プロのピアニストとして日本でのメジャーデビューができそうだったのをやめて米国で挑戦している人などがいて、強烈な刺激を受けました。自分も何かを成し遂げたいと思っていましたが、彼らにはこのままでは勝てないと感じた。成し遂げるために選んだのが、ビジネスの領域でした。ソーシャルメディア、フェイスブックなどに可能性を感じ、この市場が第2のインターネットのバブルを呼び起こす確信を持ちました。
平岡: 鈴木さんの場合は。
鈴木: もともとは後にトリッピース代表になる石田言行(中央大学商学部4年)がバングラデシュへの旅行ツアーを企画したのが始まり。現地で教育したり、様子を見たり、現地の話を聞いたりというツアーを組んだ。そのときに1人行くのではなく、外部から人を集めると面白いのでは考えた。20人くらいの参加者が集まり、現地の実情を見て何らかのアクションを起こさないといけないと思いに駆られた。実際に現地で教育したり事業を興す人が出た。みんなで一緒に行くことで何かが起きるのということが石田には衝撃だった。それをウェブを使ってその体験を広げたい、作りたいというところからトリッピースは生まれた。僕は石田からその話を聞いて一緒にやろうと思ったわけです。
平岡: 草野さんはまだまだ珍しい女性の学生起業家ですね。
草野: はい。ただサービスを作る前から、スペックの珍しさと、女性で学生起業家というのが少ないためいろいろ声がかかることは多いですが、まだ何の実績もありません(笑)。もともと17歳のときからファッションフォトグラファー(FF)をやっていて、高校生の時からいろんな仕事をしていました。そのときにファッションと音楽、テック系の人たちと仕事を通して知り合うことができ、視野が広がりました。そのときに私が見えた問題意識や、やってみたいことなどを周りに伝えているうちに、自然と、いろいろな人に会社をやってみるといいのではと言われて。その時は、まだ具体的なアイデアはありませんでしたが、去年に今一緒に会社をやっている2人の天才的なエンジニアに出会い、方向が固まりました。いいクリエーティブは世の中にあるが、それをジャッジする人たちの目が肥えていないと決まった人に頼むことになります。もっといいクリエーティブがあるというのを、より見やすくするポートフォリオの集合体のサービスを作ろうと思っています。それには、若手から大物のプロまでクリエーティブをやっている人のポートフォリオが集まったり、それをファンがストックできて、興味を持ちそうなコンテンツを集めて配信することが大切。いい物が集まっているという信用が担保されれば、クライアントからもオファーがきやすくなると思っています。
◆企業と行政、学生のハブめざす
甲木: 私の場合は、SCUの前代表である渡辺友太(早稲田大学修士2年)から誘われてSCUに入りました。SCUは、大学生が入学してからの4年間を有意義に使ってほしいということが前提にあります。学生はいろいろトレーニングを受けようと思っても、何をどうしたらよいのか分からない。そこでSCUが企業と行政、学生のハブとしての組織になろうと思って作った。こうした学生の人材育成を主体とする理念に共鳴して参加しました。法人格になると、理事に就任する予定です。
平岡: 以前に比べ、起業自体の敷居が低くなってきているようですが。
鈴木: やりやすいなと思っています。なぜかといえば、まずウェブ自体のコストが下がってきたこと。1人のエンジニアができる幅は広がっていて、特にクラウドコンピューティング、大規模なサーバーでもある程度の低コストで借りられるようになりました。それをマネジメントできるスキルさえあればある程度の規模のサービスを立ち上げられる。もう1つは、ウェブサービスを出していこうという、応援してくれる人が増えてきたこと。オフィス環境、資本金、ベンチャーキャピタルの投資も増えてきているなと感じています。
◆起業には環境が大切 ソーシャルサービス勃興に乗れ
春日: 同感です。特にウェブビジネス。ソーシャルメディアはたった数年でできあがりましたが、これをビジネス化しようという人はまだ多くない。今の時代、20年前からマーケティングをやっていた人がアドバンテージがあるかというとそうでもなく、アイフォーンとかインターネットにずっと触ってきたデジタルネーティブの世代は不利になりにくい。ソーシャルメディアが伸び始めているのなら、ここで事業をやるのは、やりやすいしやった方がいい。特に2000年のときも20代の人たちで会社を作って上場した人たちがたくさんいる。今のソーシャルメディアの流れも、20代前半の人たちがビジネスを起こすチャンスだと思います。
平岡: SCUはイベントなどで学生を支援しているが。
甲木: やはり、場というのが大切だと思います。みなさんのおっしゃる通り、周りに起業している人がいる環境と、普通の大学生活をしている人とでは本当に世界が違う。SCUの講座に来ている学生の中で起業を目指している方は多い。ITは安価にでき、さらにベンチャーキャピタルなど最近は資金面で援助してくれる方が多くなった。そしてオープンオフィスだったり、会社を持つときに登記するべき住所もビジネスとして安価で買えるし、借りられるようになった。起業を考えるとやっぱり環境が大事だなと思います。
平岡: こうした追い風や就職難もあって、起業に魅力を感じている人が増えている。
鈴木: 僕は起業がすごくいいとか、(起業と就職の)どっちかをプッシュするわけではありませんが、得られる経験とか、ストレートにやりたいことがあれば、それでいいと思う。最終的にそれが起業だったり、就職であったり、そこは自由でいいと思っている。その気持ちを強く出す人は確かに起業する人が多いなという気がします。
◆知らないことがメリット
平岡: ITの進化も起業を呼び起こしている。
春日: 1つ言えるのが、仕入れが必要ないというのはすごい大きいと思う。10万円の売り上げがあればほとんど10万円が利益になるみたいなビジネスは今までほとんどなかったはず。それができるようになったのは大きな革命的なことだと思います。
平岡: 20代に求められる能力を感じるときはありますか。
鈴木: 僕らはウェブを使って育ってきた意識はすごくあると思います。ウェブをナチュラルにできるわけです。既存のビジネスをウェブに置き換えてみることや、新たなことを生み出す発想がうまい人は多いと思います。それも、もしかしたら既存のビジネスの制約を知らないだけかもしれませんが。知らないからそういう発想が出てきているかもしれない。でも、それは知らないことがメリットになっている可能性があります。最初からそれは無理だろうと思っていたらできなかったが、ウェブは作って動かしてとりあえずやってみた後に、「あ、発見があった」というのが実際の所ではないか。
春日: 僕もそうだと思う。20代に強い部分はないかもしれないが、今やった方がいいと思ったのは何も失うものがないというのが大きいと思う。何をミスっても、会社が完全に失敗しても、負債は数百万円くらい。就職活動も卒業後3年間は新卒扱いにしてくれる。仮に2年やって失敗しても大学院に2年行って就職すると思えばいいと思った。そう思ったときにやらない理由がなくなった。この世代でやらないと30代ではやらない。今やらないと絶対できないと思った。
鈴木: リスクを背負えることが強みかもしれないですね。
平岡: 5年後のビジョンなどはありますか。
鈴木: グローバル化を図ることです。日本だけでやる必要はまったくない。僕らは最初にバングラデシュから始まったが、それは日本人として行った。これからは海外の人がここがいいと世界中の人を呼ぶ。全部違う国から10人集まったら、それって面白いことが起きるのではないか。それが僕らがやりたいことの1つ。
春日: 5年後は正直ない。ビジョンとして掲げているのは2015年で、ここ2~3年で勝負が決まると思っている。会社のミッションとしては、歴史に名を刻む事業を作り続けるというのがあるが、そこよりも今は15年にアジアナンバーワンのリクルーティング会社を作るビジョンを創業時に作りました。10年に一度くらい世界の中心が変わると思っていますが、それがアメリカからアジアに移ると思う。アジアのパイを取ることが世界で展開するために大事なこと。アジア雇用のプラットフォームを作っていきたい。
◆次世代リーダー育成 海外都市と連携
平岡: SCUも野心的な目標をもっている。
甲木: SCUは2013年の3月までにアジアで、次世代リーダーを100人輩出するのを目標にしています。今年度の目標でも海外12都市で、大学、企業、行政を相手に連携を取ろうとしています。正直、日本の学生が海外に行っても勝てません。インドや韓国などアジアの方が優秀というか。日本人学生全体の力が衰えているなというのがあって、なんとか底上げしたい。ブラジルやアフリカなど海外に留学しているメンバーもいる。支部が作れるところには作っていこうというのがある。これからはグローバルでないと生きていけないと思う。
平岡: 草野さんの今後の展望は。
草野: 影響力のあるサービスを作りたいと思っています。当面の目標は、テクノロジーと文化をつなげること。一部のアート、デザイン系がもっと技術と密接になればいいと思っていて、クリエイティブが探しやすい世の中にしたい。もっと自分の目を信じて、好きなものがみんなある時代になればいいと思う。デザイナーは消費者を啓蒙して、かっこいいものを作ろうと考えているが、受け手が好きなものがないと同じものばかりはやってしまう。それは阻止したいと思う。いろんな分野で社会貢献ができると思うが、私が貢献できるのは、その自分の嗅覚で動けるのはそこかなと思っている。
平岡: 今の日本に足りないモノは何だとと考えていますか。
草野: 情報が流動化しているということは人も動く。それが前提で、政治もそうだが、すべての仕組みを情報の流動化を前提として作り直せばよくなるかなとは思います。古い仕組みで車を作ればお金がもうかっていた時代ではなくなってきている。だからこそK-POPが流行したり、みんながユーチューブを見られるようになったから世界の曲が聞けるようになったとか、伝達技術の向上と共に受け手のリテラシーも変化している。情報の流動化を若いソーシャルメディアを使いこなしている人だけでなく、政治家も意識して仕組み作りをすればもっといい社会になるのでは。日本はそこが疎いのかなと思う。
鈴木: モノを作る人間として思うのは、その人が何かが好きだったり、すばらしいと思っていることをストレートにやることが足りないなと思っている。それは今僕らは時間があってやろうと思えばできる立場にある。それを信じてやりきるだけだと思う。
甲木: 鈴木さんとかぶりますが、やると決めたらやるというか、やりたいことがあるなら、本当にトライする。とくに同世代に向けては、エラーが出ても学生なのでどうにかなるしというのもある。今の世の中は不景気で、今の20代前半はバブルを知らず、日本が元気だった頃のイメージがない。だからこそ元気にしようという発想が出てくると思う。今からベンチャーを起こしたい学生に思ってほしいのは、とりあえずトライしてみるということが一番ですかね。
◆失敗は早めにした方がいい アジアで何を勝負するかが重要
春日: 僕の考えですが、日本という市場で何かを考えることがそもそもナンセンスだと思う。アジアという市場価値をとらえないと生きていけないと思う。日本の学生が日本で働けなくなる可能性も十分にあると思っている。だからこそアジアで何を勝負するか真剣に考えていくべきだとは思います。
平岡: “失敗するのがダメ”という雰囲気が日本にあるとの指摘もあります。
草野: 確かに。みんな失敗したらどうしようと言っている。学生も若い人も。結婚も就職も失敗したら死ぬみたいなノリ。それくらいでは死なないって。それを感じたのは、シリコンバレーに行ったときに、失敗を自慢する大会があって、優秀な経営者がこういう失敗した、理由はこうだったというのをシェアする会があった。それに比べると日本は、失敗した人は1回失敗したからダメだ、となってしまう。シリコンバレーでは、失敗しているのは経験値が高いと見てくれ、ポジティブだなと思いましたね。
平岡: グローバルの視点は大切ですが、その中で日本、あるいは自分はどうあるべきかを最後に聞かせてください。
◆日本という単位がなくなる
春日: グローバルビジネスの観点からみると、日本という単位がなくなると思っています。ただ、日本が嫌いなわけではないし、3年後に日本の若者のリーダーになっていることで日本の若者に対する発信ができるとも思っています。
鈴木: 日本のためになりたいというより、ストレートにこの世界に貢献したいと思う。僕の考えが基本的にオープンになり、誰でもみられるように。自分の知らないところで使われている、いわゆるオープンソース。誰もが知らないところでボランティアが作ったものを使っている。それに対する感謝の気持ちは持つべき。それを思っていれば、もっと人に与えることができるし、表に出せる。それが結果的に日本をよくしたりすることになる。ビジネスで戦うのは大事だが、みんなのためにやろうよということをもっと表に出てもいいなと日々思っている。
草野: 世界の中の日本として、何かしたいとか、もう少しグローバルに考えられる人が増えればいいと思う。選択肢を海外にもというか、日本を捨てるわけではなく、自分の会社の経済的な成長だけでなく、全世界の市場自体を同じところを見ながら目指せばイノベーションも起きるし活発になると思う。
平岡: 今日はいろいろな貴重な話を聞くことができました。ありがとうございました。
「フジサンケイビジネスアイ」