□アタックス研究員・坂本洋介
今回は、東京都武蔵野市に本社を構え、自動車教習業務などを手がける武蔵境自動車教習所を取り上げる。同社は1960年の設立以来、「私たちはお客さまに何ができるのか」ということを常に考え、お客さまである教習生にとって教習所が“一生の思い出の場”となるよう改革を重ねて成長発展を続けている。
◆事業を多角化
東京都指定自動車教習所協会の調べによると、同社はJR中央線・西武新宿線沿線の自動車教習所で年間利用者数が15年連続で第1位となっている。
長年にわたって多くの利用者を集め続けている理由は、決して価格ではない。実際、同社の価格は他の教習所と比べ、平均して2万~5万円も高い。にもかかわらず、利用者が口コミで増え続けている。
先日、高橋明希社長のお話を伺う機会があった。高橋社長は現在4代目の女性経営者で2009年8月に代表取締役に就任している。
高橋社長は人気の理由についてこう説明してくれた。「先代社長とともに『教習所は教育産業ではなくサービス業』という思いで、いろいろと改革を続けてきたからです」。さらに、「教習所は単に免許を取得するための場ではなく、トータル・カーライフ・サポートをすることが使命」ときっぱり言う。
同社は本業を軸に事業領域を次々と広げていることも目を引く。現在では、新車・中古車販売、レンタカー、卒業生への無料車両貸し出しサービス、企業向けの安全運転講習会、高齢者向け講習会など、さまざまな事業を手がけている。
なかでもユニークなのが「サカイパラダイス」。教習所内の一室でキャンドル教室やマッサージ、ネイルサービスなどを体験できる。そのほか、無料託児室の設置、英語教室や手話教室など、お客さまがより快適に楽しく教習所に通えるようにいろいろな工夫を凝らしている。
◆アロハが制服
最後に、同社の制服に関する取り組みを紹介する。
自動車教習所の教官の服装といえば、男性であればワイシャツにネクタイが一般的だが、同社の制服は夏季はアロハシャツとなる。
同社も以前は、ワイシャツにネクタイという制服であった。その当時は、どうしても教官と生徒の関係が色濃く、教官側の立場が強くなり、生徒は「怖い」「失敗したらすぐ怒られそう」といった印象を抱いて教官と接するため、常に緊張していた。
そこで、教習所はサービス業と考える当社は、教習所に来る人は生徒ではなくお客さまとの考えのもと、どうすればお客さまが教官や教習所に対して抱いているイメージを払拭できるのかを検討し、まず、ピンクのポロシャツを制服として採用してみた。すると、お客さまの緊張もほぐれ、また教習所内の雰囲気も目に見えて明るくなっていった。
その後、さらによりよいものを探し求めたところ、現在のアロハシャツの制服となったのである。お客さまに対して何ができるのかを徹底的に考える同社だからこそ、思い至った取り組みである。同社は間違いなく教習所ではなくサービス業であった。
【会社概要】アタックスグループ
顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。
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