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障がい者と手を取り合い街の繁盛店をつくる

地域に愛される人気のパン屋

定番商品の「クリ夫のあんパン」。ホイップクリームと粒あんが醸し出す食感が人気 定番商品の「クリ夫のあんパン」。
ホイップクリームと粒あんが醸し出す
食感が人気
今年9月の新商品の1つである「ジャージー牛乳クリームパン」。岡山県の韮山高原産のジャージー牛乳をクリームに使用 今年9月の新商品の1つである
「ジャージー牛乳クリームパン」。
岡山県の韮山高原産の
ジャージー牛乳をクリームに使用

JR山手線の西日暮里駅で下車し、徒歩約10分――。

東京・下町の閑静な住宅地の一角に、地元で評判の小さなパン屋がある。

障害者雇用促進法に基づく、住設機器大手クリナップ(東京都荒川区)の特例子会社であるクリナップハートフルが運営する「クリ夫のパン屋」だ。

取扱商品は菓子パン、惣菜パン、サンド類など約40種類。定番は「クリ夫のあんぱん」(税込170円)=写真=や「塩バターパン」(同100円)で、今年9月には「とろのびチーズカレーパン」(同160円)や「ジャージー牛乳クリームパン」(同150円)=写真=などの新商品が発売され、人気を呼んでいる。

1日の来店者は約100人で、そのほとんどが地元に住む人々だ。天候などによって客足が伸びずに苦労する日もあるが、多いときで1日約500個のパンが売れる。平均客単価は約600円。

同店を切り盛りしているのが、金子久美店長を始めとする8人のスタッフ。その中で、障がい者の社員が2人働いており、厨房からの品出しや閉店後の後片付け、パンのサッカー(袋詰め作業)を担当している。

地元密着型の社会貢献

「クリナップハートフルは、クリナップグループが手がけるCSR(企業の社会的責任)活動の象徴であり、当社で行っている障がい者雇用は、グループ全体で進めているダイバーシティ(多様性)活動の1つです」と、クリナップハートフル代表取締役(社長)の井上泰延氏=写真=は話す。

クリナップハートフル代表取締役の井上泰延氏 クリナップハートフル代表取締役の
井上泰延氏

井上社長はクリナップの井上強一代表取締役会長の長男で、創業者の井上登名誉会長(故人)の孫にあたる。

クリナップハートフルには66名が所属し、うち40名が障がい者(※平成29年6月1日現在)。同社では、給与計算係(月次給与・賞与計算、社会保険・労働保険手続などのグループ社員の人事関連事務)、事業推進係(グループ社員の名刺作成、各種データ入力等)、施設管理係(クリナップ本社や関係会社ビルの清掃等)等の事業を手がけている。

2016年11月1日の「クリ夫のパン屋」の開店にともない、同店を運営するフードサービス係が、新たな障がい者雇用創出の事業として加わった。

システムキッチンを中心に、「豊かな食住文化」を発信する企業でありたいというクリナップの理念にも、パン屋という業態はマッチしていた。

もう1つ、クリナップ本社の近隣にある商店街に唯一残っていた街のパン屋が数年前に閉店したことも大きい。そこで「地元の皆さんに、焼きたてのパンをまた食べてもらいたい」という思いを込めて、同社は「クリ夫のパン屋」をオープンさせた。同店の初代店長を務めたのが、ほかならぬ井上社長である。

地元密着の社会貢献を通じて、「社会に生かされている企業だからこそ、社会から必要とされる企業にならなければならない」という信念を持ち続けるところに、クリナップグループのCSR活動の特色がある。

障がい者の能力を活かす

障がい者雇用に取り組む企業にとって共通の悩みであり、本人の働きがいにも関わる大きなポイントが、障がい者の能力をどう活かすのかということだ。

それゆえ雇用者側が、個人の障がいの程度はもちろん、本人が何が得意で何が不得意なのか、どういう環境なら安心できるのか、どんな業務に興味・関心・働きがいを持っているのかを、きちんと把握する必要がある。

同社の場合、ビスの袋詰めなどの単純作業をしてもらい、個人の適性を見極めることもあるが、人前に立つ仕事である小売業では、何よりも笑顔が大事。そこで「クリ夫のパン屋」では、人と人とのコミュニケーションが好きかどうか、良い笑顔ができるかどうかを主な基準にして店舗スタッフを選考した。

障がい者の社員が市販の紙袋に「クリ夫」の紙札を貼り、オリジナル手提げ袋を製作 障がい者の社員が市販の紙袋に
「クリ夫」の紙札を貼り、
オリジナル手提げ袋を製作

「お客様が多く混雑しているときなどは、本人に負担がかからない作業に回すといった配慮が必要で、状況に応じた対応を求めるのは難しいですが、それぞれ得意なことを活かして仕事をしてくれていると思います。作業の内容が個人の特性にマッチすれば、とても高い質の仕事をしてくれますね」と語る、金子店長が障がい者の社員に向ける眼差しは温かい。

自分たちよりもむしろ、障がい者のほうが能力が高いと実感することもあるという。

たとえば、障がい者の社員の1人はデータ入力が得意。仕事が非常に正確で金子店長は「とても助けられています」と話す。また、もう1人は几帳面な性格を活かし、クリナップの公式キャラクターである「クリ夫」の紙札を市販の無地の紙袋に貼り、オリジナルの手提げ袋=写真=を製作。細かい作業を根気よく行う丁寧な仕事ぶりに、金子店長も舌を巻いている。

多様な人々が力を合わせて一緒に働ける場

「障がいは個性、もしくは個人の特性の1つ。世間的には障がい者として区別されていても、仕事ができる人は数多くいて、それぞれ得意分野も持っています。その意味で、私自身、障がい者に対する心のバリアはなくしていくべきだと考えており、最近では健常者も障がい者も関係なく、働きたい人に働ける場を提供することが当社の役割ではないかという思いが強くなっています」と井上社長はいう。

仕事に求めるやりがいや、「自分の仕事をみんながどう評価しているのだろうか」といった気持ちは、健常者も障がい者も何ら変わることがない。それゆえ金子店長は、1人ひとりがやりがいを感じる職場づくりをモットーにしている。

左から、クリナップハートフル代表取締役の井上泰延氏、同社が運営する「クリ夫のパン屋」店長の金子久美氏 左から、クリナップハートフル代表取締役の
井上泰延氏、
同社が運営する「クリ夫のパン屋」店長の
金子久美氏

「よくやったね」と面と向かって褒めること、他の社員たちの前で本人の成果を認めることなどが、モチベーション向上の秘訣。

パンを買った顧客からの「ありがとう」という言葉も、障がい者の社員たちが生き生き働くための励みになる。一緒に働く仲間から認められたい、自分が、感謝され必要とされる存在でありたいという気持ちは、健常者も障がい者も変わらないのだ。

「クリナップがお世話になっている全国すべての地域で『クリ夫のパン』を売ってみたいという夢もあります。まだ開店して1年も経っていませんが、地元の多くのお客様に感謝していただいていることを、日々店頭で肌身に感じており、地元の皆さんに長く愛される店舗をつくっていきたいと思っています」と金子店長。

「今後はパン以外に、『クリ夫のクッキー』を展開していくことも視野に入れています。障がい者の方がここでずっと長く働き、やりがいを見つけ、自立して定年まで働いてくれるような職場づくりを目指していきたいですね」と井上社長は抱負を述べた。

クリナップハートフルが運営する「クリ夫のパン屋」

「クリ夫のパン屋」

店舗概要

住所:東京都荒川区西日暮里6-10-11

▼ 営業時間:10:30~16:30
▼ 定休日:土日・祝日
▼ TEL:03-5901-2311

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