2022年12月13日に開催された「革新ビジネスアワード2022」表彰式で「よい仕事おこし賞」に輝いた株式会社空ディメンジョンズ(東京都港区)。各種展示会の展示ブースの企画、デザインから製作、施工までを自社で手がける。コロナ禍で展示会の中止や延期が相次いだが、危機を乗り越えふたたび成長軌道に。今年で設立20周年を迎える同社の山本幹雄社長に、ワンストップの社内体制構築による顧客満足創造の取り組み、次の10年を見据えた成長ビジョンについて話を聞いた。
お客様の意向を忠実にデザインに反映
株式会社空ディメンジョンズ 代表取締役
山本 幹雄氏
――「よい仕事おこし賞」のご受賞おめでとうございます。
ありがとうございます。とても驚きましたが、高い評価をいただいて光栄です。
――受賞のポイントとして大きかったのが、展示会ブースの企画、デザインから製作、施工までをワンストップで、自社で手がけられているということでした。サービスを提供するうえで最も大切にしていることは何ですか?
そうですね。すべてを自社で賄えるからこそ、お客様の意向を忠実に展示ブースに反映できるということです。当社としては、お客様に満足していただけるご提案と対応ができることを第1と考えています。
――「空ディメンジョンズ」という社名には、どんな意味がありますか?
「空(Coo)」は空間でディメンジョンが次元。すべての次元の空間をわれわれがプロデュースしていくというビジョンを表しています。その思いを、展示会に特化した分野で、より明確に形にできるようにしていきたいと考えています。
――強みにしているのはどんなことですか?
基本的にはまずお客様ありきですから、お客様のご意向に沿ったブースのデザインができていること。商品をアピールしやすいレイアウトを実現し、展示ができていることです。
実際、お客様がされたいのは、社名もそうですが、何よりも自社商品をPRすること。商品を多くの方に見ていただき、特長を説明し、魅力を伝えることがお客様のご要望です。
そこを怠りなく、しっかりと伝えられるデザイン・設計を自社で行う。そして今度は、それを直接、自社の施工部で制作していくのです。木工ブース、システムブース(強度が高く再利用できるアルミなどのシステム部材を組み立てて作るブース)はもちろん、環境にも施工費にもエコな、当社独自の「ユニット式木工造作」(後述)などを組み合わせ、展示ブースを完成させていくわけですね。
お客様のご予算を勘案しながら、ご要望にかなうアイデアを提供し、展示ブースの制作に反映させていけることが、当社の強みだと思います。
――大手のお客様も多いと聞いています。大手企業が出展されるブースには、かなり大規模なものや、デザイン性が高いものもよく目にします。
当然そういうご要望にも、ワンストップ化や内製化を進めて、私たち自らが関わっているので、より的確なブースの提案ができているのではないかと思います。東京本社のほかに名古屋、大阪に営業所があり、あらゆる分野の展示会に対応しています。展示会のジャンル、分野は問いません。
お客様の思いを受け止め、形にする社内のチームワーク
――まず、企画営業部の担当者がお客様のご要望や思いをしっかり受け止める。それを、社内のクリエイティブ室(ブースの設計・デザインを担当)、施工部(自社工場)との連携を通じて、展示ブースという形に表現しています。
展示ブースの企画やデザイン・設計も社内スタッフが行い、施工部(自社工場)で製作・施工までを手がける。内製化を進め、品質とコスト競争力を大きく高めた
はい。当社の場合、お客様に直接コンタクトを行い、営業企画部の担当者がしっかりご意向を伺いながら展示ブースをプランニングします。営業企画部の担当者は、お客様のご意向をクリエイティブ室にそのまま伝え、自社のデザイナーがデザインを行っています。
――最初の段階で、お客様とどんなコミュニケーションを取られていますか?
まず、お客様にアポイントを取り、オリエンテーションの場を設けさせていただいています。そこで今回、展示ブースで何を打ち出されたいのかをお聞かせいただきます。要は、今回は新商品があるので、新商品を大きく打ち出したい。あるいは、商品をメインにしつつも社名をアピールしたいとか、自社の経営概念をしっかりPRしたいということもあります。
その都度その都度、若干ではありますが目的が変わってきますので、そこをきちんとお伺いしてデザインに反映させることが、1つ大事なポイントになると思います。
――お客様は、展示会でこういうことを伝えたい、表現したいということを、あまりビジュアルな形で考えていないかもしれません。
はい。ですから、ご提案をさせていただく際にはCGパースをおつけして、展示ブースのイメージを立体的に見ていただけるようにしています。また当社では、3Dビューワーで展示ブースの様子を360度見渡せる3次元モデルのデータも提供し、よりイメージがつかみやすくなるように配慮しています。
――デザイン以前に、お客様のご要望を性格に受け取る力が必要ですね。
当社では、オリエンテーションで営業企画部の担当者が使用するシートをあらかじめ作成しています。担当者はまずそこに、お客様が話したことをそのまま書き込みます。そのうえで、「ここはこうしたらいいのではないか」という意見があれば、別途シートに記載してもらっています。
それをもとに、営業企画部とクリエイティブ室の担当者が打ち合わせを行うわけです。
――まず、お客様が話した言葉をそのままデザイン担当者に伝えるのですね。
そうですね。お客様が言われたことを自分の言葉に置き換えてはいけません。お客様の言葉を自分の知識の範疇で解釈し、「こういうことを言われたのだろう」という推測を交えてシートに書くと、クリエイティブ室と打ち合わせたときに矛盾が生じます。
だから、そのままの言葉を書き込ませ、そのうえで、自分はこうだと思うという意見を記入してもらっているわけです。
――施工まで責任を持って対応するため、自社工場まで持たれているわけですね。
そうですね。社員のこともふまえてになりますが、まずはお客様ありきで。営業企画部の担当者がお客様の意向を社内に伝え、ブースのデザイン、施工へと作業が進んでいきますが、施工側には施工側の意向もあります。
仮にお客様から「この看板を宙に浮かせてほしい」というご要望があり、クリエイティブ室が「宙に浮いた看板」をデザインしたとします。でも施工側からすると、「その看板をどうやって浮かせるのか」という意見が出てくるでしょう。
看板を持ち上げるのに手動式リフトやフォークリフトが必要になるかもしれませんし、重い看板を支えるためには、通常の木工ブースでは強度が足りないかもしれません。しっかりした梁のある柱を設ける、耐荷重性の高いトラス(アルミなどの金属製パイプを三角形に組んだシステム部材)などを組み合わせるなど、それに付随した建築物が必要になってくるはずです。
――お客様の頭の中にあるイメージやご要望を、まず企画営業部の担当者がダイレクトにつかみ、それをデザイン担当者に伝える。そしてデザイン担当者が、お客様の頭にあるものを視覚的にどう表現するかを考える。さらに、施工部の担当者が、そのデザインは実際の形になるのか、実際の形にするにはどうしたらいいのかを考える。この流れがしっかりしているから、お客様のイメージに合致した展示ブースができるわけですね。
はい。そのどれかを社外に委託すると、そこだけでロスタイムが出てきますので。
――やはり自社で完結していることの強みですね。
ここが一番大きいのかなと思います。
環境にも施工費にもエコな「ユニット式木工造作」
――たとえば環境関連機器の展示会で、商品を主役に立てながら自社の環境問題に対するスタンスをPRしたいという意向があれば、デザインもそれを反映したものに寄せていくのですね。
デザインを寄せていくのも1つですが、当社には「ユニット式木工造作」というプランもあります。木製の部材を再利用しながらコストも抑え、廃棄物を極力減らせるという利点があります。
もともと木工ブースでも、壁面に関してはリースパネルを採用し、部材を再利用することが広く行われています。当社の「ユニット式木工造作」は、壁面だけでなく展示台や看板廻りについても部材の規格化を進め、再利用できるようにしたものです。
環境関連ということで言えば、最近SDGsがテーマに取り上げられるケースが多くなっています。その点、「ユニット式木工造作」は自社部材で構成され、廃材の発生を極力抑えることができるので、環境に配慮した展示ブースとしての提案を行っています。
――システムブースも、部材を再利用しながらコストも抑え、廃棄物を極力減らせるという点では同様のメリットがありますね。
そうですね。一方、木工ブースはデザイン性が高く、人目を引き、高いオリジナル性を表現することが可能です。カラーリングも含めて、デザインが一番反映されやすいと思います。木工、システムを組み合わせてもできますし、それぞれ単体で展示ブースを作ることも当然あります。お客様のご要望に沿う形で提案させていただいています。
自社部材、内製化で対応力を高める
――木工ブースは自社施工、システムブースではトラスも自社部材とのことですが、自社部材であることの強みはどこにありますか?
コストパフォーマンスが高いこと、アレンジが利きやすくなること。そして、対応の早さもメリットの1つだと思います。
――状況によって、柔軟に対応する必要が生じることも多いのでしょうね。
物量の問題もあるので、ある程度の期間は設定させていただいていますが、お客様の担当者が社内の上層部から、展示内容について「こうしてほしい」と指示を受けることもあります。自社でデザイナーを抱え、自社部材も持っているので、展示内容の変更にも対応しやすい態勢ができていると思います。
また、わりと起きがちなことですが、海外から持ち込むはずだった機械類が、輸送のスケジュールの関係で搬入できなくなり、展示内容が急遽変更になる場合もあります。機械類の寸法が変わると展示台のサイズも変わりますし、それがメインの商品だった場合は、他の商品の展示位置も入れ替えなければいけません。
――展示機器が1台変更になるだけでも、トータルに考えて対応しなければならないことが、かなりありますね。
そうですね。あとは、商品説明用のカタログ類は別としても、展示パネルの内容変更や差し替えも必要になります。こうした対応をするうえでも、デザインも施工も自社で行えることが、大きなメリットになっていると思います。
リアル&ネットで商品や展示ブースをアピールできるSPツール
――展示会のコンテンツやブースと連動したSP(セールスプロモーション)用ツールのプロデュースも行っています。
お客様のご依頼に応じてということになりますが、よくあるノベルティとは別に、動画制作やチラシ・カタログ制作も手がけています。テレビCM並みの映像を作る予算はないものの、展示会で見栄えがするプロモーション用の映像を制作したい。撮影した映像をつないだりテロップやBGMを入れたい。写真やグラフに動きをつけてアピールポイントを強調したい。海外の映像素材に字幕とナレーションを入れて日本仕様にしたい。あるいは、展示会と連動したチラシ・カタログを作りたい、などのご要望があります。
展示会での感染症リスク軽減に役立つツールも提供
――非接触式の名刺交換+アンケートシステム(特許出願中)も提供されていますね。スマートフォンやタブレット端末で、名刺交換と各種アンケートが非接触で簡単に行えます。
とくに名刺管理については、ほかにもアプリやシステムはあると思うのですが、展示会で簡単にお使いいただけ、安価で提供できるサービスという位置づけで提案しています。
コロナ禍の中で展示ブースを訪れたお客様にも、安心してお使いいただいています。感染予防の観点から、工場関係では今でも従業員が展示会を訪れることを禁じているところもあるので、そういう方々に展示ブースへの来場をPRしていただくツールとしても、お使いしていただけます。
展示会自体の存続が危ぶまれた時期が、長く続きましたから。
――そうですよね。展示会が軒並み中止や延期になりましたから。
そういう中でも出展したいというお客様が、感染リスクを軽減しながらブースを運営できるツールとして、このシステムを提案させていただいています。
コロナ禍を乗り越え、成長への確かな手応え
――コロナ禍の影響はいかがでしたか?
大きかったですね。展示会がまったくなくなりました。国の政策の支援を受け、城南信用金庫さんにもご尽力いただきながら、なんとか耐えしのいできました。
感染拡大が落ち着いて展示会が再開される頃には、それなりに手応えは得ていました。お客様に直接アプローチを行い、感触をつかんでいたので、ニーズの回復に素早く対応できたのではないかと思います。
――お客様も、展示会の中止が相次ぎ、かなりお困りだったのではないでしょうか?
ええ。お客様もやはりメールやホームページなどでの情報発信だけでは不十分だということを理解されています。展示会に出て商品を直接見てもらい、説明し、感触を得るということを、営業担当者さんは大事にされていますので。
――まん延防止等重点措置が解除されたあと、立ち上がりは早かったですか?
わりと頑張ることができたほうだと思います。今も頑張っている最中ですが。展示会にもかなり人が出始めています。一説には、ある食品関連の展示会では、今年度は申込者が多すぎて出展するのが難しいという話も聞こえてきます。
目標は、今後10年間で売上倍増
――今年で設立20周年を迎えられるのですね。
はい。あっという間にそういう年になっていたようです。私たちはがむしゃらにやっているだけなので、なかなか実感が湧かないですが。
――さまざまな出来事があった中での20年だったと思います。
順風満帆ではなかったですね。広告代理店さんとのお付き合いを中心にやってきたときもありますが、リーマン・ショックなども起きたので、当社はお客様にダイレクトにコンタクトするという方針に転換しました。そこから今のように、自社で工場も持って施工も完結させるところまで、やっと来ることができたという感じです。
――人員増も含めて、業容の拡大に取り組んでいらっしゃいます。この先、どんな展開を考えていますか?
そうですね。今はまず展示会関連を中心に動かしているところです。コロナ禍で取引がなくなった時期はありますが、当社は今、売上的には伸びていますので。これまで培ってきたものを活かし、今後10年でさらに倍にできるように頑張っていきたいと思います。
そのために、どうPRをしていくのかという課題もありますが、今ここまでは一歩一歩確実な手を踏まえてやってきたつもりです。コロナ禍の逆境がありながらも、これまで培ってきたものを活かしながら、なんとかここまで来ることができていますから。
――今後は、これからの成長に向けて一気に進んでいくわけですね。
もう1回、前に進んでいかなければいけません。(コロナ禍で)1度中断したような状況になっていますので。立ち止まってはなりません。
ただ、私たちが幸運だったのは、自社工場を造った時期が、新型コロナウイルス感染症の流行開始とそれほど離れていなかったことです。
――工場を持たれて間もなく、日本でも流行が始まったというわけですね。
はい。(コロナ禍によって案件の)数は減りはしたものの、自社ですべての工程をまかなえるようになったぶん、足場を固めるいい機会になりました。内製化が十分にできる態勢を、そのときに固めることができたと思います。
――海外展示会への出展もサポートされますか?
そうですね。ゆくゆくは、という形にはなると思います。海外の場合は商習慣も違い、現地での展示内容も国内と異なってきますので、もう少し時間をかけてさまざまな事柄を調整していきます。実際にご要望はいただいているので、いずれは真剣に取り組んでいかなければならないだろうと思っています。
――最後に抱負をお聞かせ下さい。
先にも述べた通り、今後10年間で売上を倍増するという目標の達成に向けて、これからも堅実に、確かなサービスを提供していきます。その中で、より多くのお客様の信頼を勝ち取ることができれば、おのずと目標は達成できるはずです。
【プロフィール】
株式会社 空ディメンジョンズ 代表取締役 山本 幹雄(やまもと・みきお)