「現場ファースト」の改革を推進し「変革と創造」に挑む―クリナップ株式会社

システムキッチンのパイオニアであるクリナップが、「変革と創造」をテーマに、構造改革や新たな成長戦略の実践、事業の基盤強化に取り組んでいる。4月1日で就任2年目を迎えた竹内宏社長に、改革の狙いと進捗と同社の創業70周年に向けての抱負を聞いた。

――昨年4月の就任以来、取り組んできたことは?

4月1日で就任2年目を迎えた竹内宏社長 代表取締役 社長執行役員 竹内 宏氏
専修大商卒。
1979年井上工業(現クリナップ)入社。
2012年執行役員、14年常務執行役員、
16年取締役。18年4月から現職。
兵庫県出身。

大まかに言えば、前期からスタートした中期経営計画(2018―2020)のテーマである「変革と創造」です。

ここ数年、当社が厳しい経営環境にあるなかで、私たちはマーケットの変化に対応していかなければなりません。そのためには、会社が変わり、社員が変わることが求められています。そこで私は、社員一人ひとりが意識を変えよう、意識が変われば行動が変わる、行動が変われば結果が変わるということを強く訴えてきました。

社員一人ひとりが、それぞれ日々手がけていることのなかで、何を変えなければいけないのかを意識しながら行動を起こしてほしいと思います。

私自身、今年2月まで営業本部長を兼任していたこともあり、営業的な視点で見ることが多いのですが、営業現場を強くするには、本社や生産を含めて「現場ファースト」の支援を行うことが大事です。そこで今年3月に、全社を挙げて現場を支援するため組織変更を行いました。

営業支援について言えば、当社では以前、本社営業本部のさまざまな部署でショールームの運営や販促、一部プロモーション、カスタマーサポートなどを行っていました。

ところが逆に、本社に部門が多すぎて、それが現場に対する負荷になっていた部分もあることから、営業本部を廃止し、本社に営業企画部を新設。営業支援に必要な最低限の部門を置くほかは、現場に権限を委譲し、私がいちはやくレスポンスできる組織体制に刷新しました。

――経営上の重点課題は?

今回の中期経営計画では「第2の事業の柱構築」および「M&Aと業務提携」という新たな成長戦略などを掲げていますが、現在直面している課題として大きなものは、中高級品のシェア向上、低収益構造からの転換といった構造改革です。

主力のシステムキッチンで言えば「セントロ」、「ステディア」に代表される当社の中高級品の市場シェアをいかに向上させるかに取り組んでいます。

当社の商品の中で中高級品が占める割合は全体の約4割しかありません。そのため、普及品のコスト削減ももちろん必要ですが、この4:6の商品構成比を変えなければ、収益構造の根本的な改善は望めません。

――システムキッチンの全商品をリニューアルしました。

STEDIA(ステディア) 昨年9月に新発売した
主力のシステムキッチン
「STEDIA(ステディア)」。
中高級市場でのシェア向上につなぐ

こうしたなか、当社の売上の約8割を占めるシステムキッチン全機種を刷新しました。昨年はまず2月に、高級価格帯のフラッグシップモデル「S.S.」の後継機種となる「セントロ」を発売。

また、9月には主力の中高級価格帯モデル「クリンレディ」を新ブランド「ステディア」にリニューアル。さらに、今年2月には普及価格帯の「ラクエラ」をモデルチェンジし、「セントロ」のラインナップも増強しました。

たとえば「ステディア」では、個性を演出しつつ空間コーディネートを楽しむ傾向が強まっているインテリアトレンドを踏まえ、フロアコンテナ(足元収納)を、LDK(リビング・ダイニング・キッチン)空間になじむデザインに一新。

2009年の発売当初、私たちがコンセプトにしていたのは「一目見て、クリナップの商品だとわかるものを作ろう」ということでした。当時としては画期的だったフロアコンテナやオールスライド収納を日本で始めて採用し、木製扉やステンレス製扉、アルミ製扉などと組み合わせ、一見して他社との違いがわかるデザインを実現し、高い評価をいただいたのです。

こうしたこだわりを継承しつつ、デザインをさらに洗練させたことが、今回のリニューアルの大きな特徴です。

商品開発部門には、クリナップにしかないものを作るように指示しています。新商品を展示会で出品するときも、単に「これはこういう商品です」と説明するのではなく、流通さんやエンドユーザーさんに、「これはクリナップにしかありません」とはっきり伝えてほしいと、いつも言っています。

――重要な顧客接点であるショールーム戦略をどう進めていますか?

ショールームイメージ

ショールームでは、ダイニング空間までの居住スペースを再現して空間提案を行う一方、自分のスキルを活かし、自宅で教室を開いている女性講師(サロネーゼ)を招き、食・住に関するさまざまなイベントを開催しています。

最近、新設やリニューアルを行った全ショールームに、こうしたイベントにも活用できる「キッチンスタジオ」などのスペースを設けているほか、東京・新宿、名古屋、大阪にある旗艦ショールームの「キッチンタウン」ではより充実したイベントを定期的に開催しています。

ショールームは本来、お客様にとっては敷居の高い場所で、ご自身が家をリフォームしたり新築する機会がなければ、普通は足を運んでいただけません。そこで、こうしたイベントを活用して顧客接点を構築し、そのなかで「キッチンを買うときにはクリナップにしよう」と思っていただけるお客様や口コミ紹介、さらにはブランド浸透につないでいきたいですね。

――ユーザーサポートの強化にどう取り組んでいますか?

昨年9月に、有料で定期点検や延長修理保証などのサービスが受けられる「クリナップスマイル会員制度」を刷新しました。加入対象となる商品を広げたほか、延長修理保証期間を選択できる「セレクトプラン」と延長修理保証のみの「ライトプラン」を設け、サービスプログラムの内容を拡充しました。

最長で10年間にわたり本体の修理保証を行う「クリナップスマイル会員制度」は、私たちにとって、お顧客との接点を長期間持ち続けることができる貴重な場でもあります。

使用開始1カ月後の初回点検を含む定期点検サービスも、良いことについても悪いことについても、お客様のご意見を頂戴できる機会。商品の引き渡しが終わり、お客様が実際にキッチンを使い始めたところ、「ここに不具合があった」というクレームにも、すぐに対応することが可能です。

また「セントロ」には、当社のフラッグシップ商品としての差別化戦略として、お客様のご要望に応じて、専門スタップがご自宅に取扱説明に伺うというサービスを付加しています。

これらは私たちにとって貴重な情報源であり、当社の子会社であるクリナップテクノサービスのスタッフが現場で収集した情報を、クリナップ本体のカスタマーサポート部門と共有する仕組みを整えています。

こうした取り組みも含めて、ショールームでの商品プランニングに始まり、受注、配送、取付設置、商品引き渡し後の取扱説明、アフターサービスというサイクルを、お客様目線で構築することができて始めて、「クリナップにしてよかった」、「クリナップなら安心して勧められる」といった評判につながっていくのだと思います。

――ものづくりにどうこだわっていますか?

創業者の井上登名誉会長が、1949年にこの地で欅の材料を使って座卓を作り始め、それを担いで売り歩いたのが当社のルーツです。

私が40年前に入社した頃は、創業者も井上強一・現会長も、1日の半分以上は作業着を着て工場に入っていました。その意味で、クリナップはものづくりの長い伝統を持つ会社で、「機械化8割、手作り2割」という創業者が掲げたポリシーを守り続けています。「すべて機械ではクリナップらしさがなくなる。その『らしさ』を2割の手作りで追求していく」と、創業者は話していました。

キッチンシンク

当社の商品づくりの軸は、ものづくりへのこだわりに加え、先にも述べた「クリナップにしかないもの」や「クリナップらしさ」へのこだわりです。

それに加え、会社の収益や経営を考えた場合、そのなかでいかにコストダウンができるかが非常に重要です。トヨタ生産方式から派生した「NPS(ニュー・プロダクション・システム)」の実践といった生産面の合理化も大切ですが、商品を作る以前に、それぞれの思いを持って商品に関わる営業から開発、CSまですべての部門でものづくりの仕込みを行い、全部門の思いをまとめていくことが、商品のコストダウンをはかるうえでも重要です。

――社員の皆さんに普段よく話していることは何ですか?

このように、ものづくりにこだわり続けてきたなかで、当社は、今となっては数少ない水回りの専業メーカーとして存在感を発揮しています。そこで私は「今、当社が販売している商品は、基本的にはキッチンと洗面化粧台とバスルームの3点しかない。だからこそ営業もバックヤードもプロ中のプロを目指し、『さすが水回りの専門メーカーだね』、『さすがクリナップだね』と言ってもらえるようになろう」と全社員に話しています。

私は支店長時代から、4つのことを部下たちにお願いしてきました。

1つ目は、危機感と緊張感を持ちながらも、どうせ仕事をするなら、明るく楽しく元気よくやろうということ。

2つ目は、お客様目線で仕事をしようということです。社内目線ではなくお客様目線で、どうすればお客様に喜んでいただけるのかということを、もう1度、強く意識してほしいと思います。

3つ目は、当たり前のことを当たり前にやろうということ。当たり前のこととは、会社がやろうとしていることであり、それは経営トップである会長や私の思い、そして最終的には社員の思いが反映されたものです。その当たり前のことを、社員1人ひとりがきちんと実践し、お客様にしっかり伝えてほしいですね。

そして4つ目が、内部統制やコンプライアンスに反する行動は絶対にしないということです。

――どんな会社にしていきたいと思いますか?

もう1つ、私が強調しているのは成功のための「MAP(マップ)」です。これはミッション、アクション、パッションの頭文字を合わせた略語で、使命感を持ち、熱い思いで行動していこうという決意を込めたもの。クリナップの社員は熱い思いを持っていて、明るく元気だというところを見せたいのです。

私自身、「活気のある職場にしていこう」と常日頃から言っているのですが、営業所で言えば、その部分を担っているのが所長ということになります。

ステンレスキャビネット

その意味で、営業所の所長と社員たちがしっかりコミュニケーションを取れている職場は、きちんと結果を出している一方、コミュニケーションがうまくいっていない営業所は、雰囲気もなんとなく暗い感じがします。私たちが社内でそう感じているということは、営業所やショールームを訪れたお客様も「この会社はなんとなく暗い」とか「あまり活気がない」と感じるに違いありません。だからこそ、「この会社には活気がある」と感じていただけるような職場にしたいのです。

その意味でクリナップを、社員にとって働くのが楽しい、職場に行くのが楽しいという会社にしたいと思いますね。

日曜日の夕方に「明日からまた会社だ」と憂鬱になることもある一方、私自身、会社に行くことが楽しくて仕方がないという時期もありました。もう一度、そういう職場にしていくことを目指しています。

――今年10月5日に創業70周年を迎えます。

70周年は当社にとって1つの通過点。当社は2012年に、従来の社章を、クリナップの頭文字であり、チェンジ(変革)、チャレンジ(挑戦)、クリエイション(創造)の3つの意味が込められた「C」をかたどったマークに変えました。

70周年を機に「3つのC」が意味するものを全社員がふたたび胸に刻み込み、頑張っていこうという決意を込めて、社章のマークを社員の名刺に印刷したのです。

こうした当社の思いや当社が手がけていること、そしてその意味が社員にしっかり伝わり、それが最終的にお客様に伝わる会社は、間違いなく業績が伸びていくと確信しています。

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