一般社団法人パーソナル雇用普及協会 代表理事   萩原 京二

社員のライフスタイルに合わせた雇用制度

パーソナル雇用普及協会は「ニッポンの働き方を変えよう!」と2023年7月に設立された。社員のライフスタイルに合わせた働き方を導入することで、優秀な人材の確保と定着の実現を目指す。代表理事に就いた社会保険労務士の萩原京二氏は「新型コロナウイルス禍で働き方が多様化する中、社員に選ばれる制度として雇用(企業)側のニーズが高い。制度として確立する」と意欲を見せる。

――確かにコロナ禍で働き方は大きく変わった
テレワークや在宅勤務が当たり前になり、これまでのように毎日通勤することが少なくなった。また、大企業では新たな働き方として転勤を廃止したり、週休3日制や短時間勤務制度を導入したりする動きも活発化してきた。さらに兼業・副業も原則解禁する企業も少なくない。今やライフスタイルにあわせて働く場所や時間、業務内容を選べるようになったといえる。
――それに合わせて雇用の仕組みも変わるということか
働き方の多様化は歓迎すべきことだが、一方で企業の雇用制度はこれまでのままでよいのか。現状の雇用制度は、正社員が多様な働き方をすることを想定していない。業務内容や能力・業績などの評価だけで賃金を決めるのではなく、働く場所や時間などの働き方の多様性にも考慮すべきだ。そこで企業に提案しているのがパーソナル雇用制度だ。
――どんな制度なのか
これまでの雇用制度は、就業規則に基づく集団的な労務管理を前提に設計されていた。そのため賃金・人事制度も全員一律で、しかも画一的に管理できる手法が求められていた。それを個人契約型に変える。就業規則と異なる条件について特約を締結し決定する仕組みだ。会社と社員は対等の関係となる。一方で、社員は自分のライフスタイルに合った柔軟な働き方を求めることができるように、ワークリテラシー(働くことの基礎知識)を習得する必要がある。
――プロ野球の年俸更改のようだ
プロ野球はシーズン終了後に、個人事業主である選手と所属球団が翌年の契約について協議する。いわゆる契約更改だが、球団の査定に対し選手は納得すればサインし、納得できなければ保留することができる。選手がシーズン中、不調で十分な成績が残せなかった場合、基本的に年俸は下がるが、野球協約で定められた減額制度があり、ある程度は救われる。それでも契約に至らなかったとき、球団と選手は年俸調停を申請でき、年俸調停委員会で年俸を決定し、それに従う。
――パーソナル雇用制度も同様ということか
賃金・人事制度は個人契約型になり、これまでの全員一律処遇、公平・公正な評価ではなく、一人一人が労働条件や仕事内容によって会社と賃金を交渉する。同じ社員であっても個人の生活環境やライフスタイルに合わせて、フルタイムか短時間か、残業ありかなしか、など契約形態を自由に変更することができる。こうした労働契約の内容は毎年、見直せる。翌年の契約更改に双方が合意できない場合、原則(一般社員型)のルールに戻り、会社の人事権により契約内容を決定する。
――会社にとって導入メリットは
ライフスタイルに合った働き方の求めに企業側が応えられなければ、優秀な社員は辞めることになる。辞められると困るので要求に従う。言い換えると、優秀な社員の確保と定着につながる。中途採用者の賃金ミスマッチも防げる。例えば中小企業の建設会社に大手ゼネコンで営業担当だった人を中途採用する場合、これまでの知見を生かして受注件数が増えると見込めるため特別待遇も可能だ。他の社員も納得する。『正々堂々のえこひいき』ができるわけだ。そもそも中小企業の働き方は個人契約型といえる。
――社員側のメリットは
在宅勤務や週休3日制など自分のライフスタイルに合わせた働き方ができるし、希望に合わない転勤や配置転換をされることもなくなる。会社と交渉して希望の収入を得ることも可能になる。ただし成果を出せないと減収になるのは仕方ない。年齢や勤続年数に関係なく、高度な仕事にチャレンジできるのも魅力だ。
――制度導入を呼び掛けてきて、これまでの手応えは
8月に採用コンサルティングを手がける企業が導入を決めた。この企業は祝日を休みとしていないが、専門スキルをもつエンジニアを中途採用したところ、元の会社と同様に祝日を休みたいというので個別契約を結んだ。このように会社側のニーズは高いと見ており、社員100人規模の会社では5人、会社数でいうと100社中5社が導入する程度まで普及させたい。
――日本経済の活性化にも貢献する
パーソナル雇用制度によりイキイキと働く人が増えると生産性が向上し、成果(業績)も上がる。ワークライフバランスを重視する若い人の採用にもつながる。人手不足が深刻化し、会社にとって最重要課題が優秀人材の確保と定着だ。大企業では優秀な人材を囲い込むため、高額な給与を提示している。給与面での対抗が難しい中小企業は『あなたのライフスタイルに合わせた柔軟な働き方ができる会社』とアピールしてライバル会社との差別化を図ることができる。新たな人材確保戦略ともいえ、企業の持続可能な経営の実現にもつながる。
萩原 京二(はぎわら・きょうじ)
一般社団法人パーソナル雇用普及協会 代表理事

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月〜1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月〜1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。

Webサイト: https://personal-employment.or.jp/

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