スマートカルチャーゲートウェイ株式会社 代表取締役   内田清志

スマホが瞬時に多言語同時通訳機に変身

自分のスマートフォンが一瞬で通訳機に変わり、即座に外国人と話せる。外国語が苦手な日本人にとって、なんともありがたいサービスが登場した。スマートカルチャーゲートウェイ(東京都目黒区)が開発したスマホ同士による多言語同時通訳サービス「スマリンガル」だ。内田清志代表取締役は「コミュニケーションミス・ロスによる損失は大きい。スマリンガルを使えば防げる」と指摘。その上で「ビジネスオポチュニティー(機会)は疑いなくある。目指すは(動物でも宇宙人でも相手の言葉を自国語として理解できる)ドラえもんの『ほんやくコンニャク』」と意気込む。

――スマリンガルの開発に乗り出したきっかけは
スマリンガルは、異なる言葉を話す2人が互いに母国語で自由に会話できるAI通訳機だ。「スマホを使いこなす」をコンセプトに開発した。きっかけは2013年9月、20年の夏季オリンピックを東京で開催することが決まり、これを受け総務省が「おもてなし」の一環として、世界の言葉の壁をなくすため多言語音声翻訳の開発に乗り出すと決めた。同省所管の国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が音声認識・翻訳・音声合成の研究開発に乗り出すが、企業にも参加を呼びかけたので手を挙げた。
――ビジネス化への勝算はあったのか
富士通やNEC、NTTなど大手も参加するなかで、大企業に勝てる特徴を出せるか不安だった。そこで世界中の人が持っているスマホに着目。スマホをAI通訳機として徹底的に使いこなすプランで対抗することにした。NICTの多言語翻訳技術を活用するためライセンス契約を結び、まずは期間を1.5年に限って開発に乗り出した。難しくて諦めかけたが、同時にビジネス化の手応えも感じたので18年に創業した。
――NICTの技術とは
母国語と違う言葉で発した声を聞き取って多言語音声認識技術で文字(テキスト)に変換。これを多言語翻訳技術によって母国語に翻訳し、さらにテキストにして多言語音声合成技術により母国語で聞けるというもの。こうしたNICT翻訳エンジンを活用し、スマホを介して会話するのがスマリンガルだ。
――使い勝手に優れた通訳機というわけか
手持ちのスマホに事前にアプリをダウンロードしておく必要はなく、QRコードを読み取るだけで母国語同士の双方向会話が行える。1対n(ホスト1人で多人数、多言語に対応)の会話を同時かつ瞬時に通訳、文字も残る。日本人のスマホで「こんにちは」と話すと、アメリカ人のスマホには英語で、中国人のスマホには中国語で、韓国人のスマホには韓国語で発せられる。レスポンスが良く、通訳精度も高い。通訳のレベルはTOEIC960点程度で日常会話なら100%可能だ。
――どんな使われ方を想定しているのか
日本に住みながら日本語があまり理解できていない外国人や、増え続ける訪日外国人客(インバウンド)向けサービスとしての利用を期待している。特に災害時に役立つと考えている。自治体はいざというとき、住民には避難情報を迅速、正確に発信できても、被災地のどこにどれだけいるか分からないインバウンドに提供することは難しいからだ。予期せぬ災害に襲われたインバウンドも言葉の壁に阻まれ情報収集に苦慮している。
――スマリンガルの出番というわけだ
使い慣れた手持ちのスマホでQRコードを読み取るだけで21カ国語対応の同時通訳機に早変わりし、インバウンドも日本人同様に瞬時に情報を入手できる。自治体の首長や避難対策本部などの担当者は日本語で一度発信すれば21カ国語に翻訳され、情報伝達が完了する。聞き漏らしを防ぐことができ、自分のスマホに情報(母国語の音声、テキスト)が残っているのでうまく聞き取れなかった場合でもすぐ確認できる。質問も可能だ。
――災害時以外では
多言語対応が求められる業種は少なくない。インバウンド対応が欠かせない旅行会社やホテル、レンタカー会社、イベント・テーマパークといった観光関連はもちろん。外国人従業員や海外駐在員を抱える企業、留学生を受け入れる学校、さらには病院や小売業の利用も考えられる。自治体も災害のみならず、日本に住む外国人の登録申請や手続きなどの窓口対応も多言語化が欠かせない。スマリンガルを導入すればスムーズに要求に応えられるので、職員のストレス軽減だけでなく、外国人とのコミュニケーションも円滑化し地域の活性化につながる。スマリンガルを導入する自治体は100を超えた。
――スマリンガルの商品構成は
シリーズ化しており、我々は「フスマリンガルァミリー」と呼んでいる。NICT翻訳エンジンを活用した「スマリンガルベーシック」はチャットルーム機能で同時・多言語会話を実現する。ブラウザーで利用でき、月額1万1000円で使い放題だ。この上位版として22年7月に発売したのが「スマリンガルミーティング」。NICTエンジンとIBMのAI「ワトソン」のハイブリッド連携により世界主要言語に対応、国際会議での母国語でのコミュニケーションや教育機関における母国語でのオンライン学習を可能にした。専門用語や特殊用語もワトソンが事前学習し、精度の高い翻訳を実現。議事録も母国語で作成する。
――AI通訳機の可能性は
ビジネスオポチュニティーは疑いなくある。将来性も十分だ。世の役に立ちたいので、スマリンガルの知名度向上に向けてマーケティング活動に力を入れていく。コラボも進めたい。
――今後の展開は
生成AIと連携して現状の会話に加え、AIに頼むと回答してくれる機能を付加したい。LLM(大規模言語モデル)という自然言語処理分野での革新的技術も取り入れたい。開発から10年が経ったが、音声認識の精度や機能、操作性、価格といった評価基準に対し40%しか実現していない。言い換えると60%の成長余地があるわけだ。AI、LLMを駆使して独特な言い回しや解釈を理解して通訳できるようになる可能性はある。もう一歩も二歩も進め、ドラえもんの「ほんやくコンニャク」を目指したい。

内田 清志

スマートカルチャーゲートウェイ株式会社 代表取締役社長

1951年 3月28日 長野県松本市生まれ

1973年 3月 早稲田大学 理工学部 電気工学科卒業

同年 4月 日本アイ・ビー・エム株式会社 入社

1986年 1月 IBMコーポレーション 米国本社 Strategist, Corporate Strategy

1995年 1月 日本アイ・ビー・エム株式会社 ネットワーク・サービス事業部長

1998年 1月 IBMコーポレーション 米国本社
Director, Operations of e-Business Services, IBM Global Services

2002年 1月 プライスウォーターハウス&クーパース コンサルティング株式会社
常務執行役員 マネージングパートナー
情報通信エンターテインメント・インダストリー事業部長

2003年 4月 パイオニア株式会社 常務執行役員 大森事業所長 兼
インダストリアルソリューションズ&エンタテインメントカンパニー プレジデント

2005年 7月 パイオニアソリューションズ株式会社 代表取締役社長

2018年 9月 スマートカルチャーゲートウェイ株式会社 代表取締役社長

座右の銘:”人は石垣 人は城 情けは味方 仇は敵!”(風林火山)
趣味:スポーツ鑑賞(特にMLB:Major League Baseball &格闘技)、囲碁・将棋

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