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【防災】巨大津波から災害弱者を救う 新しい津波避難施設の開発に関する研究

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東京大学  生産技術研究所 教授 目黒公郎   

【防災】巨大津波から災害弱者を救う 新しい津波避難施設の開発に関する研究

■はじめに


2011年の東日本大震災では、津波により多くの人々が犠牲となった。また、2012年8月末に内閣府が公表した南海トラフ沿いの巨大地震の被害想定では、最大級の地震が起こった場合の津波による人的被害は東日本大震災を大きく上回っている。また、身動きが取れないような激しい地震動の後に、十分な避難時間が確保できないうちに巨大な津波に襲われる地域が多く発生してしまう。

このような地域の抜本的な津波対策は、想定される津波高さに対して十分な高さを有する空間に、人々の生活拠点を移転することである。しかし、まだ被災していない地域において、街全体を高台移転することは容易ではない。将来的に高台移転を志向しつつも、現実問題としては、上述のような巨大地震や巨大津波に襲われても、最低限人命を救う対策を講じておくことが求められる。

「激しい揺れ→巨大津波」が短い時間間隔で襲ってくるような地域では、避難ビルの設置や自動車を利用した避難などが検討されてはいるが、これらを活用しても、高齢者や幼児、障害者などの災害時要援護者をはじめする人々の効果的な解決策とはなっていない。そこで本研究では、災害時要援護者でも比較的容易に避難が可能となる新しい津波避難施設のコンセプトを提案し、検討を行っている。そして、この新しい津波避難施設を導入した場合の効果を検討するため、高知市を対象としてケーススタディを行った。

■1.新しい津波避難施設のコンセプト


a) 自己浮上式避難施設(タイプ1)
津波シミュレーションと避難シミュレーションを統合して実施することにより、陸上のどのエリアで避難困難者が大勢発生する可能性が高いかを確認し、その付近に避難施設の基礎として活用する台船の大きさを踏まえた上で、周辺に十分な隙間を持つ地下2階程度の穴を掘る。台船を免震基礎(隙間には喫水の8割程度の水を満たす)で支持し、台船の上に2~3階建て程度の軽量鉄骨などの建物(景観条例をクリア)を建設する。この施設は、平時から地域のコミュニティセンターや保育園/幼稚園の建物の一部として利用することで、コストパフォーマンスを高くできる。将来的に津波が襲来した場合は、台船の浮力で建物全体が浮上するので、足腰の弱い人が上層部に移動する必要はない。津波襲来時に、この施設が周辺の施設に被害を及ぼさないように、適当な高さまでは係留ポールでガイドする。この施設は、基本的に津波高さの制限は受けない。屋上のペントハウスに、ライフジャケットや浮き輪、ゴムボートなどを用意しておけば、この施設が津波にさらわれた人々を助ける機能を持つことも可能になる。

① 階段等での上下移動が 不要
従来の津波避難施設では、安全な高さまで階段等での上方移動が必要。停電時はEV(エレベーター)も利用不可能⇒新しい津波避難施設・・・施設全体が浮上するため、上層階への移動は不要。高い建物である必要もないので、景観上の問題も生じない。

② 平時の利用が可能
従来の津波避難タワー等は、平時利用の機会がほとんどないので、建設費に対する効果が限定的である⇒新しい津波避難施設・・・平時は地域のコミュニティセンターや保育園などの用途で利用する。平時の利用により、費用の捻出が容易になるとともに、避難場所として認知されやすくなる。

③ 周辺施設への影響の考慮
浮上した場合、周囲の建物との衝突が懸念される。⇒新しい津波避難施設・・・周辺施設に影響を及さないように、適切な高さまでは、係留ポールでガイドする。

④ 津波の高さに制限は無い
従来の津波避難施設は、対応可能な津波の高さに制限がある。⇒新しい津波避難施設・・・係留ポールの上端までガイドした後は、長さに余裕を持たせたロープや鎖で係留するので、基本的に対応可能な津波の高さの制限は受けない。最悪の場合はロープを切断する。

b) 高気密空間を活用した津波避難施設(タイプ2)
津波襲来時に浮上したり、移動や転倒などをしない重量建物(鉄筋コンクリートや重量鉄骨造など)の一部の空間を空気が漏れないようにシーリングして気密性を高くする。気密性の高い空間は、下部が開放されていても、気圧が水の侵入を防ぐので、その空間には水が入ってこない。これは、入浴時に洗面器を伏せて湯船のお湯に押し込んでも、洗面器内には水が浸入しない状況と同じである。その空間に、照明と酸素を準備しておけば、その空間内に津波が去るまで待機していれば命は助かる。津波浮遊物の衝突なども考えられるので、建物の外側の空間ではなく、窓などの無い内側の空間を利用する方が良い。このような空間を地上一階に用意すれば、外部から地下を通って空間に入るスロープなどを用意しておけば、車いすの人でも問題なく、その空間を利用することが可能である。気密性が高いということは、遮音性も高いので、平時には音楽室やスタジオに活用するなどして、平時利用も可能になる。津波の高さによって、この空間内の気圧は多少高くなるが、耳抜きなどをすることで、その問題も改善可能である。

① 階段等での上下移動が 不要
従来の津波避難施設では、安全な高さまで階段等での上方移動が必要。停電時はEVも利用不可能⇒新しい津波避難施設・・・気密空間を地上階に用意しておけば、気圧を調整する2重扉や、床下からのアクセスと可能にしておけば、上層階へ移動する必要がない。高い建物である必要はないので、景観上の問題も生じない。

② 平時の利用が可能
従来の津波避難タワー等は平時利用の機会がほとんどないので、建設費に対する効果が限定的である⇒新しい津波避難施設・・・平時も音楽室やスタジオなどの用途で利用できる。平時の利用により、費用の捻出が容易になる。

③ 周辺施設への影響の考慮
新しい津波避難施設・・・重量構造物を対象にしているので、周囲の建物や施設には影響を及ぼさない。

④津波の高さに制限は無い
従来の津波避難施設は対応可能な津波の高さに制限がある。⇒新しい津波避難施設・・・津波の水面下でも生存空間を確保されるものなので、基本的に適用上の津波の高さの制限は受けない。

■2.高知市をケーススタディとした提案避難施設の効果検証


本研究で提案する新しい津波避難施設を建設した場合の効果検証のため、階段を上ることが困難な要援護者の階段での滞留人数の分析を行った。対象地域は、南海トラフでの地震に伴う津波の被害が懸念される地域の1つである高知市とした。
◎前提条件・・・自己浮上型津波避難施設や高気密性空間を利用した津波避難施設の設置場所:既存の施設と同じ場所 (置き換え)。 要援護者:75歳以上の高齢者の30%。 要援護者は、津波避難場所への到着をもって避難完了とせず、階段を上り終えた時点で避難完了とする。また、1分間あたりに階段を上がれる要援護者数をパラメータとして設定した。

■まとめと今後の課題


本研究では、階段での移動が困難な災害弱者でも容易に避難ができる平時利用が可能なa)自己浮上式津波避難施設とb)高気密性空間を確保し避難空間として活用する施設の提案を行った。

a)は地下部分(台船などの利用)が収納される地下空間をつくり、コンクリートなどで強化した上で、免震装置などで使って避難施設を設置する。津波が押し寄せ、地下空間と施設の空隙(平時から、喫水の8割程度の水を満たしておく)に海水が入ると、施設は自動的に浮上するものである。一方、b)はシーリングによる気密性を高くした空間を用意し、照明と酸素を確保した上で、その空間を津波襲来時の避難空間として活用するものである。

提案システムは実現に向けた技術的課題は特に無いが、a)のシステムでは浮上時に横転しないための復原性の確保には注意すべきである。また、高知市におけるケーススタディにより、提案避難施設を導入することによって、津波による人的被害を大幅に軽減できる可能性が示された。

今後の課題としては、津波避難施設の機能や安全性について詳細な検討を行うこと、導入効果については、時間帯による人口や年齢構成の変化等の細かい条件も加味した分析を行うことが挙げられる。

■お問い合わせ


東京大学 生産技術研究所 目黒研究室
http://risk-mg.iis.u-tokyo.ac.jp/index.html

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