【アグリ系シーズ】徐放性機能紙と防虫紙への応用
高知大学 教育研究部自然科学系農学部門 市浦 英明 准教授
エチレンジアミン水溶液に、界面活性剤および柑橘精油を添加した後、強撹拌しO/Wエマルションを調製した。この溶液に浸漬した紙を二塩化テレフタロイル/シクロヘキサン溶液に含浸することにより、紙表面上で界面重合反応を行った後、室温で乾燥させ、柑橘精油が定着した機能紙を得た。図1の調製した紙断面のSEM写真より、紙表面上に約40-50 μmの膜厚で定着したカプセル状の形態をしたポリアミド膜が観察された。エチレンジアミン水溶液濃度が増加するにつれ柑橘精油の定着量は向上し、10%で最大値に達した。柑橘精油は、図1に示したマイクロカプセル中に定着していると推測される。徐放性試験の結果、96時間経過後、調製シートの方が、柑橘精油を含浸したブランク紙よりも柑橘精油の残存率が高かった(図2)。残存率が高いほど徐放性が高いことを示すことから、本手法で調製した機能紙は、徐放性を有していた。
次に調製した機能紙を用いてコクゾウムシ(Sitophilus zeamais)に対する忌避性試験を行なった2)。調製した機能紙には、害虫が忌避し、その上にある米にコクゾウムシは集まらなかった。EPI(Excess Proportion Index)は、忌避性の指標を示し、この値が大きい場合、忌避性が強いことを示す。柑橘精油を滴下しただけのブランク紙のEPI値が5日以内にマイナスを示すのに対し、本研究における調製した機能紙は90日経過後も0.5以上を示し、高い防虫効果を持続できていた。これらの結果から、界面重合法を活用して調製した柑橘成分含有徐放性機能紙は、柑橘成分の持続的放出および忌避効果の持続が確認された。
徐放性は温度の変化により増減するため、防虫剤のみで効率的に防虫効果を発揮することは難しい。そのため、温度変化に対応して徐放性をコントロールできる防虫紙の開発を行った3)。そこで、徐放性付与方法として、パラフィンとの複合化する手法を採用した。一般的に融点が室温付近のパラフィンは、気温の増加により固体から液体に融解する。高温時にパラフィンの融解により徐放性をコントロールし、一定の徐放性を保つ防虫紙の開発を試みた。その結果、温度が変化しても一定の徐放量を保つことができ、高温でも低温でも同様の徐放量を保つこと可能となった。この性質の付与により、高温状態でも長い期間徐放性を有す機能紙の調製が期待される。
参考文献
1) Ichiura H., Takayama M., and Ohtani Y., Journal of Applied Polymer Science, 124, 242-247 (2012).
2) 市浦英明,コンバーテック,454,112 (2011)
3) Ichiura H., Yamamoto K., and Ohtani Y., Chemical Engineering Journal, 245, 17-23(2014).
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※図1,2に関しては産学連携推進協会のサイトをご参照ください
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