新聞社が教える「プレスリリースの書き方」
記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか?また、世の中にプレスリリース情報を訴求するためには、どのようなポイントがあるのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします!
プレスリリースの書き方「採用されるための9つのコツ」編
プレスリリースの書き方「表現者に必要な5つの覚悟」編
プレスリリースの書き方「採用されるための9つのコツ」編
はじめに――
プレスリリースというのは、実は非常に奥深いもので、正解がありません。 しかし、正解に近づく方法は、あるはずだ。 ということで、プレスリリースを取り上げる側としてどのようなプレスリリースを採用し、 逆に採用しないかということをここでお伝えいたします。
現在、プレスリリース自体が過酷な状況に置かれています。 ご存知のとおり、プレスリリースというのは、各メディア(TV、ラジオ、新聞、雑誌など)の記者向けに発信されるもので、 その数は限りなく出回っていて、実際に記事化、番組化される比率は100分の1程度です。 そこで必要になるのが、発信担当者の「情熱」だと思っています。 この「情熱」は記者にも必ず伝わっています。 しかしながら、伝え方がまずいと、空回りの「情熱」になってしまいます。 そうならないように「記事化されるプレスリリースにするにはどうしたらいいのか」をまとめてみました。
1. プレスリリースの書き方
まずは、プレスリリースを3つに分類します。今回は、売り込みのプレスリリースについてお話いたします。
- 1. 売り込みプレスリリース
→ 積極的に情報を伝えるプレスリリース(会社や商品の隠されたドラマを伝える) - 2. こっそりプレスリリース
→ 企業の不祥事など、あまり伝えたくないことを伝えるプレスリリース - 3. 間に合わせプレスリリース
→ 熱意はないけど、とりあえず公開するプレスリリース
プレスリリースは、千差万別です。 書かれる内容は、新商品の開発、販売、新規オープン、大型受注などまちまちです。 これを同一のフォーマットにあてはめて書くことは、実に困難です。 そこで、6つの押さえておくべきポイントを抽出しました。
基本構成は、「見出し」「要約」「本文」「問い合わせ先」
それ以上を盛り込む場合は、別に資料を添付する。
→ 映画に例えるならば、「見出し」はタイトル、「要約」は予告編、「本文」は本編、「問い合わせ先」はエンドロールです。
表現は簡潔、簡略に。
背伸びしたり、かしこまったり、気取ったりしない。たとえば「××において開催された」は「××で開かれた」のほうがいい。
→ 辞書を引いてわざと難しい言葉を使ったり、格好つける必要は全然必要ありません。 普段の言葉で書いた方がいいですね。 緊張した文章、硬い文章は、見る側にも伝わってしまいます。
→ 「!」「絵文字」は、書き手の誘導の意図が感じられてしまうので、 記者の心理としては「誘導されてたまるものか」などと考えがちです。 使わない方が良いでしょう。
→ 専門用語、カタカナ語は、業界内では便利ですが、一般の人には難解です。
ただし、それを意識し過ぎて、全く使わなかったり、易しい表現に寄りすぎるのもダサイ文章になってしまいます。
数学の公式と同じで場合によっては、専門用語の方が一度覚えてしまえば便利ということもあります。
その場合は、その専門用語の注釈を記載し、文章中に何回も登場させることで浸透させるという環境づくりが必要です。
(例:マイクロシーベルトという単位などは、すっかり定着しました。)
一つの文を短く。
言いたいことを細かく切って短文を重ねる。 一度書いた文章を読み返し、短くできないかを繰り返し検討する。
→ これは、習慣化が大事です。
見出しを大切に。
眺めてもっとも興味を引く言葉を、部外者も含めて検討する。
→ 以前、『日本医師会と産経新聞との共同プロジェクトで「赤ひげ大賞」を創設』という記事を新聞掲載しました。 「新聞の見出しをどうするか。」で議論になり、当初は「かかりつけ医を顕彰」としましたが最終的には、 「赤ひげ大賞 創設 町の名医顕彰」に落ちつきました。 理由は、この方が字面が良い。読者に興味をもってもらえるだろうということでした。 プレスリリースにしても、掲載されることがゴールではなく、その先の受け取り手を意識することが大切です。
A4、3枚以内を目指す。
→ 最初の1ページ、いや冒頭の数行で、記事にしたいか否かが決まってしまいます。 逆に記者がもっと知りたいと思う内容であれば、問い合わせをしますので、 詳細の資料をプレスリリースとは別に用意して、いつでも出せるようにしておく方が良いと思います。
画像、写真、イラスト、グラフなどを用意する。
2. プレスリリース9つのコツ~ここを練れば、答えが浮かび上がる。
眺められる覚悟はあるか!
沢山送られてきたプレスリリースを記事にするか否かは、初見で決めていると言っても過言ではありません。 まず、日付。これは情報の新鮮度を見ます。 続いてタイトル。これは、先ほども言ったように、興味を引くだけのインパクトがあるかどうかを見ます。
タイトルで興味を持てば、その次に以下数行を読んで大体、その段階で記事にするか否かを決めています。 さらに知りたいと思えば、記者から逆に問い合わせをします。 このように1ページ目でほぼ決まってしまいます。 まずは、眺められること。つまり左脳ではなく右脳で面白いと思ってもらえることが大事です。
相手の顔は見えるか!
言い換えれば、読んでほしい相手を意識して書いているかということになります。
例えば、ある牛丼チェーン店が新商品を出すと仮定します。 「牛丼チェーン○○屋は、秋の新商品メンマラー油牛丼(※)を発売します。期間は○月○日からで、○○な味付けで、○○円です。」 と商品の写真を載せてプレスリリースを打つ。 消費者に向けて、新商品をアピールということであれば、内容は充分でしょう。
牛肉の産地は○○で、こだわりのメンマの味付けは、特別な技術を使って・・・など、
技術開発者レベルの細かな内容を書く必要はありません。
ただ下に、問い合わせ先を明記すれば結構です。
(※)は、もちろん、架空の商品名です。
ゴールは設定出来ているか!
プレスリリース毎の発信の目的(何のために書くのか)を再確認しておくことが大切です。
- テレビや新聞で取り上げられることによる露出拡大
- 露出拡大による知名度の向上
- イベントの集客力向上
- 新商品の販売促進
- 新技術開発による市場での企業価値向上
などの目的によってプレスリリースの表現は収斂(しゅうれん)されます。
先ほどの牛丼チェーン店の話で、「新技術の開発」や「新機種の導入」などは、 相手(読者)が消費者の場合は、「書かなくていい。」と言いましたが、相手(読者)が投資家であったりした場合は、 「新型の牛肉のスライサーを導入した。」と書いてもいいわけです。 日本経済の中で影響を与えそうなことを書くことで、 大口の投資家への貢献や新規受注といった目的が盛り込まれた意味のあるプレスリリースとなるからです。 また、「円高」に的を絞った場合だと「牛肉をどこから仕入れたか」という話を中心に据えた方が記事になるかもしれません。 そのようにゴールを設定した上で角度を変えた書き方が必要になります。
「一番」を絞れているか!
伝えたいものを全部書こうとすると、おそらく大変な量になります。 特に大きな会社であれば一つの商品やイベントをとりあげるにしても、部署が多岐にわたります。 「うちの部署の内容も入れてくれ。」「うちも。」「うちも。」となると絞り切れません。
そこで、どうやって絞るかということになりますが、これはもう切り捨てるしかありません。 当然、罪悪感はあると思います。しかし、プレスリリースというのは、頑張った部署に対する表彰状ではありません。 世の中に出すための一歩にすぎません。 その一歩で関心を持ってもらえれば、それぞれの部署に誘導でき、それぞれに関わった人たちの出番となります。
例えば、クルマ。新型車が出たとします。一つのクルマに関わる人、何千という部品。さまざまな機能。 一体何を取り上げたらよいか。そこで行き詰まる場合が多いです。 特徴的な性能をとりあげることにしましょう。 「燃費、走行距離、スピード、デザイン、価格・・・」など沢山ある中で「燃費」だと思えば「燃費」一つに絞って差別化を図る。 その一つに興味を持ってもらえれば、他の機能、性能についても知りたくなる・・・というのが心理です。 ですから、「ひとつをきっかけに問い合わせがくる。」という循環をきちんとつくることが大事です。
本番の備えは出来ているか!
プレスリリース自体が本番ではありません。 プレスリリースがうまく出来た(記事として採り上げられた)とかいうことが問題なのではなくて、 先ほど説明した「設定したゴールに近づいているか」ということが問題です。 そのためには、記事として採り上げられた後のアフターケアが重要になります。
プレスリリースが採用される多くの場合、何の連絡もなく、いきなり次の日に記事になるということはありません。 担当者に確認を取りますが、その際にどれだけ熱心に語れるか、説得させられるか、が鍵になります。 つまり、ここでいう「本番」とは、プレスリリースを見て、記者から問い合わせが来たこの段階のことを指します。 このタイミングを逃さずにエネルギーを使ってください。
また、逆に記者に電話をしてみるのもありです。 知り合いの記者がいれば、是非、直接会って説明する機会を積極的につくりましょう。
書き手の身支度は済んだか!
アフターケアが本番だとお話しましたが、記者が気になるのは、プレスリリースを通して伝わる会社や書き手です。 「どれだけ本気であるか。どれだけ熱意をもってやっているか。」が問題になります。
一例として、最後にプレスリリース担当者が自分の名前を書くときには、フルネームで明記した方がより良いです。 結果的に、自分が何者であるかということを、出しゃばらずに、なおかつ誠実に伝えていると記者は感じるからです。 苗字のみの記載は、謙虚さの表れかもしれませんが、 自信を持って、「このプレスリリースは逃げも隠れもしない俺が書いている。」という熱意と誠意を伝えるためには必要なものでしょう。 加えて、プレスリリースを書いた時の想いを一言添えてもいいと思います。
惚れさせられるか!
プレスリリースの活用目的は、『記事化される → 問い合わせがある』そこで終わりではないはずです。
先ほどクルマの話を出しましたが、今一番売れているエコカーを記事にするとします。
そこで記者は、どんな人が買っているのかと想像し、メーカーに問い合わせてみます。
メーカー担当者からの答えとして「30代の夫婦が多いです。」と答えたとします。
それだけでも構いませんが、
ここで、一言「エコカーなので都心部と地方であれば、ガソリン価格の高い地方の方が売れています。」
という答えをもらえれば、記者としてはありがたいわけです。
「なるほど、エコカーの場合はガソリン価格と売上げが比例するのだ(※)」
という新たな付加価値が見つけられるからです。
(※)エコカーの話は、例であり、実際の事例ではありません。
つまり、プレスリリースに書かれていない情報を、 記者が直接、担当者に問い合わせたことによって、自分の記事に付加価値が付けられるわけですから、 その担当者に感謝をし、信頼関係が生まれます。 その結果、その人からの次回のプレスリリースを優先して読んだり、 何か情報が欲しい時は、「こちら(記者)の方から連絡してみよう。」と立場が逆転する現象が起こるわけです。
資料は十分か!
一番いいのは、裏付けとなる数値データです。先回りしてデータを用意しておくことが肝心です。 ここまでしてもらえると、記者にとっては、手間の省ける嬉しい情報なのです。
トップと共有できているか!
プレスリリースについて、記者が一番多く質問を受けるのが、実は「社内での対応」です。 これが最も面倒くさい話です。 これがスムーズにいけば、プレスリリース配信までの期間も短縮出来ます。
そのためにしておかなくてはいけないことは、前もってプレスリリースは、 会社の使命や利益を考慮したうえで書かれたものであることをきちんとトップに説得、共有しておくことです。 これによってトップとプレスリリース担当者のコンセンサスが取れている状態となり、プレスリリースの権限が明確になります。 いろいろな部署が何か言ってきてもこれで大丈夫。担当者の仕事がやりやすくなる環境をつくっておくということです。
まとめ
プレスリリースというのは、扱い方次第ですが、 会社としてニュースを発表して記事に取り上げられるまでが役割ではないはずです。 一度、(記者と担当者という)循環を作ってしまうと、 今度は、記者の方から「何か新しい情報ないですか。」と尋ねるようになります。 つまり、プレスリリースを発行して記事にしてもらうように「お願いする」立場から、 「お願いされる」立場へと逆転するということです。
プレスリリース広報担当者としては、「ゆくゆくは、自分がメディアを動かす。」ぐらいの心意気でやってほしいと思います。
プレスリリースの書き方「表現者に必要な5つの覚悟」編
1. プレスリリースを担当する「表現者に必要な5つの覚悟」
企業でプレスリリースを担当している皆さんは表現者です。 そこで、まずは表現者に必要な「覚悟」ということについて、項目を5つ挙げさせていただきたいと思います。
伝えることは人を「想う」仕事
第1に、伝えることは人を「想う」仕事。たんに「思う」のではなく、 「想う」(ある対象に向かって心で考えること/学研『漢和大辞典』)というイメージです。
2011年3月11日に起こった東日本大震災では、当初、津波のニュース映像が非常に衝撃的でした。 テレビも新聞も一所懸命に、津波の映像や写真を流しました。 最初はあくまで「伝えたい」という思いからでしたが、各メディアは、 そういう行為がさまざまな人々を傷つけているということに、次第に気が付き始めます。
事実、地震あるいは津波のニュースを観て嘔吐してしまったとか、 朝に会社に行けなくなってしまった、という方が東京にもいらっしゃいました。 どういうことかと言いますと、たとえば阪神淡路大震災の時に関西にいた方にしてみれば、 今回の震災のニュースを観て、当時の悲しい思いや辛い思いが蘇ってくる。 そのため「地震や津波の映像には目も向けられない」、「ニュースそのものを観たくない」といった、 PTSD(心的外傷後ストレス障害)という心の傷に苦しめられてしまうのです。
つまり、ニュースを報道すること、あるいはプレスリリースを発表することには、 「諸刃の剣」という面があるわけです。 だから「自分たちが伝えようとする、たった一行、たった一言に、 隠された刃物があるかもしれない」というぐらいの覚悟が、表現する側には必要です。
取材とは「自分を納得させる過程」
第2に、取材とは「自分を納得させる過程」です。
皆さんも、プレスリリースを書くときには、社内の担当者に取材して話を聞くはずです。 あるいは、ご自身が開発したものをプレスリリースに落とす時も、 自分がいつ何をやってきたのかについて、周囲の方に裏を取ったりすると思います。 それらを含めて、取材とは、自分を納得させるための過程です。 自分が理解できないことは、いくら書いても伝わりません。
これも震災との関連で言えば、たとえば中部電力の浜岡原発が、首相の判断で運転を停止することになりました。
なぜ、浜岡原発を止めなければならなかったのでしょうか?
われわれは「大津波が砂丘の堤防を乗り越えたら、とてももたないだろう」とか、 「浜岡原発は東海地震の震央部に位置しているから危ないだろう」ということは、何となく理解しています。 ところが「原発は、地盤が頑丈で地震が起きても安全な場所に建っているのではないか」と、単純に思っているのも事実。
その1つの物差しが岩盤で、基準がいろいろとあるそうなのですが、ひとくちに岩と言っても、硬い花崗岩や脆い泥岩もある。 だから、浜岡原発の下にはどんな岩盤があるのかということを含めて、首相が判断を下すうえで、さまざまな要素があったのでしょう。 それを、われわれ国民は知りたいと思っています。 それゆえ記者が取材をして納得すれば、記事を通じて国民も 「そうか、やはり浜岡原発は止めなければならなかったのか」ということがよくわかる。
その一方で、「原発を止めたら大変なことになる、日本経済はどうなるかわからない」という話もあります。 しかし、取材を通じて記者が納得したのであれば、 「こういう事情があったから、浜岡原発は止めなければならなかった」と堂々と主張できるのです。
同様に、皆さんがプレスリリースで書かれることも、それがうまく相手にアピールできるのは、内容をよく知っているからです。 自分がプレスリリースの内容に自信を持ち、すべてのことを理解したうえで説明できるからです。
表現は美しくなくてはならない
次に第3の覚悟は、表現は美しくなくてはならないということです。
表現されたものは、見た目はもちろん、心映えも美しくなければいけません。 「心は見えないけれど、心遣いは見える。 思いはわからないけれど、思いやりは見える」という、震災後に繰り返し放送されている公共広告機構のCMに出てくる、 あの宮沢賢治の言葉をここで思い出してほしいのです。
表現者の心は見えなくても、心遣いは表現を通じて見えるもの。 同様に、表現者の思いは見えなくても、思いやりは表現を通じて見えてきます。 だから、その「見える」部分を、われわれは美しくしなければなりません。 心も美しく、そして見た目も美しければ、その伝わる力は何倍にもなっていく。 つまり、心に響いてくる度合いが違ってくるのです。
そのためには、レイアウトや文字のフォント、余白の使い方などさまざまな要素がありますが、 表現者は「美しさ」を心がけなければいけません。
イメージする想像力が「プラスアルファ」を生み出す
そして第4が、イメージする想像力が「プラスアルファ」を生み出すということ。
たとえば取材の中で、想像力を働かせていろいろなことを聞いていくと、プラスアルファの何かを引き出すことができます。 話が少々それますが、以前、サックスプレーヤーの平原まことさんとピアニスト・作曲家の宮川彬良さんが、 震災支援のために行ったコンサートを聴きました。 そこで、「あんたがたどこさ」が演奏されたのです。
あんたがたどこさ
肥後さ
肥後どこさ
熊本さ
熊本どこさ
船場(せんば)さ
船場山には狸がおってな
それを猟師が鉄砲で撃ってさ
煮てさ 焼いてさ 食ってさ
それを木の葉でちょいとかぶせ
という、あの童謡です。
さて、猟師が狸を鉄砲で撃ち、煮て、焼いて、食って、 そのあと木の葉でちょいとかぶせたという、「それ」とはいったい何なのでしょうか――。
宮川さんと平原さんは、歌の中で「それ」と省略されたものとは何かを想像し、サックスで表現しました。
ここでその表現を直にお伝えすることはできませんが、 要は、猟師が食べたものが口に入り、胃を通り、直腸を通って排泄されたものを、 木の葉でちょいとかぶせた、というところで曲が終わっています。
こういう解釈が良いか悪いかということではなく、いろいろな対象に想像力を働かせることで、 いかに新しいものが生み出されるのかという1例として、ご紹介させていただきました。
クリエイティブな創造力が「新たな知恵」を拓く
最後に第5が、クリエイティブな創造力が「新たな知恵」を拓くということです。 産経新聞社では2010年から「創作漢字コンテスト」を主催していますが、過去の応募作品の中に、
「雨」+「、、」=「どしゃ降り」
「門」+「父」=「門限」
「電」の「甩」の部分から「+」と「-」を取って「節電」
などの例がありました。
あることにイメージを巡らせる想像と、新しいことをクリエイトする創造とは表裏一体。 想像力はクリエイティビティ(創造性)を生み出すということです。 また、新しいものをゼロから作るのではなく、すでにあるものからイメージを膨らませて、 新しいものを作ることも、想像力のなせる業だと言えます。
したがってプレスリリースについても、これまで先輩方が作られたものの良い部分を残しつつ、 クリエイティブな発想を採り入れていくという発想が必要だと思います。
ここまで、前振りとして、表現者に必要な覚悟について5つのポイントを挙げさせていただきました。 では次に、皆さんからお送りいただくプレスリリースに、実際に目を通している担当記者の記事作成の様子についてお伝えします。
2. 新商品担当記者が応援したくなる「理想のプレスリリース」とは?
まずは、「フジサンケイビジネスアイ」の新商品面について説明します。 新商品面は、他のページと雰囲気が異なり、写真がたくさん掲載されています。 発売の前後1カ月ほどの新商品を紹介しているコーナーで、真ん中の大きめの記事も広告ではなく、すべて担当記者が選んで掲載したものです。
「フジサンケイビジネスアイ」の新商品面は1週間に3~5ページ掲載されますが、 そこで取り上げられた記事は「産経ニュース」および「SankeiBiz」の新商品カテゴリーに加えて、 毎回ではないものの「Yahoo!ニュース」にも掲載されるという特典がありますので、 プレスリリースをお送りいただく企業様にも非常にメリットが大きい面です。
1日200件のプレスリリースを30件に選別する基準
実際に、新商品面の記事をどう書いているかというと、皆さんからお送りいただいたプレスリリースを元にしています。 担当記者が1日にいただくプレスリリースの数は約200件で、その内訳はメールが約100通、FAXが約70通、郵送によるものが約30通。 企業様に直接ご来社いただき、商品の説明をお願いすることも、週に10件ほどあります。
プレスリリースは、多ければ多いほどありがたいのですが、そのすべてに目を通すことは非常に難しいのも事実です。 そこで、担当記者独自の基準を設け、約200通のプレスリリースを30件程度にまで絞ります。
プレスリリースを選別するうえで、大きな判断材料にしているのはプレスリリースの1ページ目で、メールであれば見出しです。 プレスリリースの1ページ目を人に例えれば、「見た目」にあたり、 「どんな容姿なのか」から「清潔感があるかどうか」に到るまで、そこから受ける第一印象はさまざまです。 これをプレスリリースに置き換えると、読みやすく、 どのような企業がどんな商品を出しているかが一目でわかるような見出しに、興味を引かれます。
実は、担当記者がプレスリリースを選別する所要時間は1件あたり3~5秒程度。 そのため、とくに商品名が太字で書かれていたり、写真が1ページ目にあると、目が自然とそこに留まります。
最終選考に残るプレスリリースの条件は何か
このようにして200件のプレスリリースを30件程度に絞ったあと、そこからさらに10件程度に選別します。 もちろん、最初に選別した30件のプレスリリースは、「気になる存在」としてじっくり読みます。
ところが最終的に紙面に掲載される新商品は、多くても10件程度。 そこで重視しているのが内容で、新商品の機能やデザインはどうなっているのかという点です。 そのためプレスリリースの体裁が整っていても、内容が良くなければ最終的な掲載は難しくなります。
また、たとえ商品がとても魅力的で、プレスリリースがわかりやすいものであっても、 問い合わせ先の電話番号が書かれていないために、掲載を断念せざるを得ないこともあります。
さて、担当記者が新商品の紹介記事を書くうえで、ポイントにしていることが3つあります。
- ● その商品が、読者にとって魅力的であるか
- ● 固有名詞に間違いがないか
- ● いかに短時間で仕上がるか
また文章作成のうえで大切な事柄は、ニュース記事も新商品紹介記事も同様で、 「5W1H」(いつ、どこで、だれが、何を、なぜ、どのように)に「How Much」(いくら)を加えた、 「5W2H」を念頭に置くことです。
それから、新商品紹介記事には必ず載せなければならない要素が6つあります。
それは①社名、②商品名、③価格(税込み、税抜きの表記を含む)、④発売日、 ⑤掲載用の問い合わせ先(電話番号)、⑥企業ホームページのURLで、 これらを最初に記載してから残った文字数で、商品の紹介文を書くことになります。
さらに欲を言えば、以上の6点に加えて、プレスリリースに下記のような情報が網羅されていると、作業が非常にスムーズに進みます。
- ● 商品の特徴が2、3点明記されている
- ● 商品の紙焼き写真、または画像データが貼付されている
- ● プレスリリースを発表した日付けが記載されている
- ● (一般ユーザー向け以外に)報道関係者用の問い合わせ先がある
- ● 商品紹介のあとに、会社概要が記載されている
- ● 決算期も明記されている
- ● 商品などのブランドのシンボルまたはロゴマークが掲載されている
- ● 新商品が既存ブランドから出る場合、そのブランドについての説明がある
- ● 商品の価値などについて、公的機関などの発表による数字の裏付けがある
たとえばプレスリリース中に会社概要があると、商品だけでなく企業に対する興味も高まり、 「フジサンケイビジネスアイ」で言えば、成長企業面などの他の記事に採用されることもあるのです。 担当記者にしてもデスクにしても、すべての会社を存じ上げているわけではありません。 だから、プレスリリース送付を、会社を売り込む絶好のチャンスだと捉えてください。 担当記者自身が、プレスリリースをいただいた会社を個人的に応援したくなったり、ファンになることも少なくありません。 その意味でも、会社概要をぜひ記載してください。
また、「いまのトレンドやニーズに合わせた商品」というような抽象的な表現では、 具体的に新商品のどのような部分が、どんなトレンドやニーズに合っているのかわからない場合があります。 その意味で、できれば公的機関などの発表による数値やデータの裏付けがあると、 プレスリリースの説得力が非常に高まります。
3.プレスリリースは、紙面の向こうにいる人への「ラブレター」
メディア内に「人の良さそうな50代前後」の知人を作れ
プレスリリースを書く時には、誰に読んでほしいのか、どの媒体のどの面に掲載したいのかを意識する必要があります。 その際、誰宛てにプレスリリースを書いたら最も有効なのか、ということも考えなければなりません。
新聞の場合でいうと、責任者として編集長がいます。 たとえば「産経新聞」では、1面から総合面や国際面、経済面、社会面、文化面、テレビ面まで合計32ページあるとして、 その日ごとに各面の担当デスクがついています。 ちなみに、先ほどの新商品面は、その日その日にではなく、前もって制作しておくページ。文化面も同様です。 デスクは日々その日の新聞を作っている人物ですから、非常に忙しいですね。
プレスリリースを、新聞社の誰宛てに出すのが一番いいかというと、編集部の中で知っている人物です。 その人物宛てに、「今度こういうプレスリリースを出したいのだけれど、誰宛てにしたらいいだろうか」と聞いてしまうのがベスト。 どんな仕事でもそうなのですが、自分がアプローチしたいと思っている相手の組織の中に、そういう人物を作っておくことが大事です。
実際、広告代理店やPR会社の皆さんが何をしているかというと、単純な話で、 新聞社などのクライアントに朝出勤し、同所帯になって仕事をしているのです。 産経新聞社の場合でも、記者として入社するとすぐに警察担当になります。 例えば、●●警察署が最初の担当だとすると、朝、産経新聞の支局ではなく同署に出勤します。 警察官と同じ生活を送り、その中で原稿を書くわけです。市役所担当の記者の場合も同様です。
だから、新聞社が主催・共催のようなセミナー・交流会などの機会で、メディアの中に知り合いを作っておくことが一番早いと思います。 それも、たとえば「iPhoneのアプリを新商品面に出したいのだが、できればニュースとしてIT面などでも取り扱ってほしい」という場合、 どこの誰に話をすればいいのかという事情がわかっている人。 こういうことは、若い人に聞いてもなかなかわかりません。 優しく人の良い、50代前後の人を1人つかまえておくことをお勧めします。
「報道関係各位」ではなく「○○新聞△△局××様」と固有名詞を
一方、他のメディアも含めて、そういうつながりがない場合、どうしたらいいのでしょうか。 それは、掲載を目標とする媒体に適応してしまうことです。 先ほどの「フジサンケイビジネスアイ」の新商品面を目標にするなら、 最初から新商品面に沿ったプレスリリースを1つ作ってみてはいかがでしょうか。
とはいえ、担当者の選考基準から外れてしまうものを1ページ目にするわけにはいかないので、 「フジサンケイビジネスアイ」新商品面専用のプレスリリースは2枚目ぐらいに置いておく。 その2枚目を開いてもらうために、プレスリリースの1ページ目をきちんと作らなければならないことは言うまでもありません。
それから「これは絶対に経済面に、このぐらいのスペースで載せたい」という希望があったとします。 産経新聞で例えると「産経新聞」および「フジサンケイビジネスアイ」両紙の経済面の責任者が○○経済本部長です。 ○○という名前を知っておくだけでも、産経新聞グループの経済面については少しやりやすくなると思います。
ところが、皆さんが作られたプレスリリースを見ていると、冒頭にはだいたい「報道関係各位」という宛先が書かれています。 ここをたとえば「フジサンケイビジネスアイ 編集局プレスリリース担当 ○○様」とすれば、 プレスリリースを受け取った本人も嬉しいのではないかと思います。 仮にあなたが編集担当者で、宛名にあなたの名前が書かれていたら、あなたはそのプレスリリースを見ずに捨てるでしょうか。 そういう意味でも、手間暇がかかるかもしれませんが、プレスリリースの宛名に固有名詞を書くのは非常に有効です。
逆に、連絡先としてプレスリリースに書かれている担当者の名前が、 「広報部 田中、鈴木」などのように名字止まりであることが少なくありません。 個人情報保護のためにそうしているのかもしれませんし、「プレスリリースとはこういうものだ」と漠然と思われているのかもしれません。 でも、ご担当者が「田中正男さん」なのか「田中正子さんなのか」、つまり男性か女性かということだけでも、担当者が受け取るイメージは違います。 ですから、差し支えがなければぜひ、ご担当者のお名前はフルネームで書きましょう。
それから先ほどの内容で、プレスリリースの1ページ目に写真があると、目に留まりやすいとお伝えしました。 これは本当に難しい話かもしれませんが、担当者の顔写真が入っていると、プレスリリースを見ても非常に親近感が増すものです。
新聞で、お茶の間から最も縁遠いイメージを与えるのは、写真が1枚もない紙面です。 逆に、写真がたくさんある紙面は読者に親近感を与えます。 なかでも人物の写真は、それが大きかろうが小さかろうが、自然と親近感が湧くものです。 その意味で、プレスリリースに担当者の顔写真があると、それだけで距離がずいぶん近くなります。
読者・消費者に思いを馳せた「ラブレター」を書け
それからプレスリリースは一般に、専門の媒体向けではなく、 新聞で言えば「産経新聞」を始めとする4大紙のような一般紙を意識して書いたほうが良いと思います。
いずれにしても、プレスリリースはいったい誰に向けて書かれるべきなのでしょうか?
直接的には、新聞社のプレスリリース担当記者宛てに書く、というのが正解ですが、実はそうではありません。 先ほどお話した、「フジサンケイビジネスアイ」新商品面担当記者に読ませるためでなく、 その先にいる一般読者、すなわち消費者・国民に向けて書くものです。 あるいはBtoBの話題であれば、顧客になりうる企業に向けて書くことになるでしょう。 そういう目線で考えるとするならば、プレスリリースの1ページ目はなおさら「親しみのある顔」を意識しなければなりません。 となると、先ほどお話ししたように、宛名に固有名詞を盛り込むことと、 差出人のフルネーム表記、顔写真の貼付は大いに検討に値するのではないかと思います。
プレスリリースは読者や消費者に向けて書かれる「ラブレター」だと考えてみてください。 皆さんがラブレターを書くときには、自分の思いが相手にきちんと伝わるように、細かいことまで考えて文章を練りますよね。 そしてラブレターを出したあとは、自分の思いが相手にどう伝わっているのかを確認したくてたまらなくなる。 そのように、企業のプレスリリース担当者の皆さんは、自分の書いたプレスリリースが新聞に掲載されるのか、 されないのかを確認せずにはいられない気持ちになっているはずです。
少々こじつけに近いかもしれませんが、「ラブレター」という言葉の、「ラ」はライブ感。 文章は瑞々(みずみず)しくなければいけません。つまり、プレスリリースにニュース性があることが重要です。
また「ブ」はブレない、つまり「これは良い商品だ」という明確な主張があること。 それだけに、講演の冒頭でお話したように、自分でしっかりと取材をして確信を持ったうえで書かなければ、文章に説得力が出てきません。
次に「レ」は礼節です。これは読者・プレスリリース担当記者に対する礼節であり、ホスピタリティーでもあると思うのですが、 プレスリリースはわかりやすく丁寧に書かれなければなりません。 加えて、プレスリリースの問い合わせ先として、一般消費者向けと報道関係者向けの2つを併記されることがあると思います。 しかし、その線引きがうまくいっていないと、プレスリリース担当記者が困ってしまいます。 そういう意味でのホスピタリティーも期待します。
そして「タ」は言うまでもなく、楽しさ。 プレスリリースを見てワクワク、ドキドキするという楽しさがほしいところです。
最後に「―」は余韻です。 プレスリリースを見た記者の心の中に何かが残る、そういう余韻が極めて大事です。