インタビュー情報

対談企画【災害と風評】

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東北大学・村尾修教授×ソルナ㈱代表取締役社長・三澤和則氏、取締役・大月美里氏   

対談企画【災害と風評】
今回は、都市防災の専門家である東北大学・村尾修教授と、風評被害を防止する事業を行うソルナ㈱代表取締役社長・三澤和則氏、取締役・大月美里氏に#防ぐ#をテーマに対談頂きました。

【村】 風評被害を防ぐという事業について、風評というと防災とも繋がりがありそうですが、どうしてそういったことを始めようと思ったのですか?

【三】 会社の設立は2011年なんですが、その前に実は入院していました。その入院中いろいろとインターネットをしながら時間を潰しているうちに、これからネット社会が進む中で、何か新しい今までにない困りごとが起こるのではないかと思ったんです。その困りごとに関して真正面から取り組めたらと・・・。

【村】 確かに、今までにない問題が実際に起きていますよね。最近、あるテレビ番組で見たのですが、ネットで炎上してしまった事例を扱っている弁護士さんがいて、その弁護士さん自身もネット上で炎上してしまって、強迫されたり、怖い思いをしたそうです。結局、怖いコメントを書いた人が直接誤ったそうですが、ブログやスマホなどの出現によって、一般の人々が情報を発信するハードルがどんどん下がっていって、まさしく新しい世界に突入している気がします。

【三】 1人1人が強力なメディアとなっていて、口コミが目視できるかたちになっているんですよ。
今、私達の業界で問題となっているのは、”情報型倒産“といわれるものです。今までの倒産は、売り上げがあがらないとか、融資が受けられないということが原因だったのですが、ここ5年、10年で増えているのが、ネットでお客様から悪口を書かれる、競合他社から嫌がらせを受ける、辞めた社員が会社の悪口を書くなど、そういうことが原因で人材も来ず、事務所も借りられなかったり、根も葉もないことを書かれたことで、倒産する企業が多いんです。

【村】 なるほど。まさしく、バイトテロがそれにあたりますね。経営者が管理できないところでバイトしている人が、悪ふざけをしている姿をネットで流して、、、会社としてはかなりのイメージダウンになりますよね。怖い社会です。

【三】 災害が起きた時にも、風評は起きますよね。

【村】 そうですね。災害と風評でいうと、記憶に新しいのはやはり2011年の東日本大震災でしょうか。原発に関しては、農作物などかなり問題になりましたし、まだ続いている海外向け水産物の禁輸についても話題になっていますね。

【大】 この前の熊本地震の際には、「ライオンが逃げた」という情報が流れて、惑わされた方が多かったみたいです。「友達のお父さんが自衛隊にいて」とか、「親せきが警察官でこんな風に言ってる」なんて、まことしやかに情報が流れたそうです。

【村】 普通でない状況におかれると、その情報に対して客観的に捉えることができなくなってしまうのではないでしょうか。そこで大切になってくるのは、大量に入ってくる様々な情報から的確な判断をくだせる情報リテラシーだと思います。例えば、食品の賞味期限がありますが、期限が2,3日切れていても、そんなに問題ないと、ほとんどの人が知識として知っているわけですよね。でも、原発のことについては、「どこまでが安全なのか」「国は大丈夫だと言っているが、本当なんだろうか」と、科学的根拠が曖昧だったり、身近ではないリスクに直面して、それに対する知識がないから、いろいろな情報に惑わされてしまうんです。ですから、やはり災害に対するリスクであれ、風評被害に対するリスクであれ、正しい知識と備えを、情報を受信する側も発信する側も持っておくことが大事ですね。専門家はリスクに関する科学的根拠を解明する努力を続け、情報を発信する側はそれを正しくかつわかりやすく伝え、受信する側も何でも真に受けるのではなく、一度立ち止まってその情報の真偽を考えて、情報に振り回されない姿勢が必要なのではないでしょうか。

【三】 では、地震が発生した場合は、どの情報を信じたらよいのでしょうか?

【村】 地震が発生した直後には、緊急地震速報が流れます。各地にある地震計のネットワークによって、瞬時に強い揺れの到達時刻や震度を予想し、気象庁を通じて発表されます。震源の位置や地震の特性によって誤差が出ることもありますが、可能な限り素早く知らせるという趣旨で運用されています。
緊急地震速報が流れてから、強い揺れに見舞われるまでの10秒あるいは20秒でできることをして、被害を軽減しようというものです。怪我はしてしまったけど、命は助かったということもあり得るのです。

【三】 私、個人の話ですが、タワーマンションに住んでいるんですが、大丈夫でしょうか?(笑)

【村】 災害の種類によりますね。最近は免震構造などのマンションも増えているので、比較的地震には強くなってきたと思います。ただ地震にも色々あって、長周期の地震動を持つ地震は高層の建物を大きく揺らすんですね。ですから、そうした地震が来るとタワーマンションも必ずしも安全とは言えません。また、仮に地震によってそうしたタワーマンションが構造的な被害を受けなくても、エレベーターなどの設備に支障が出ると、大変ですよね。避難が難しい。また一段落して、復旧時の生活が始まったとしても、何十階など高い所に住んでいる人が一旦外に出て、部屋に戻ってくるのは大変です。そうしたことに対処するために、最近は例えば5階ごとに備蓄をしている事例などもありますが。

一方、津波や水害であれば、低層でない方が良いです。逆に火災の場合は、炎は上に行きますから危ないです。しかもそうしたタワーマンションの上層部で火災が発生すると、従来の消防設備だと難しいですし、避難経路の確保も以前より難しくなっていると思います。消防技術も建物の設備も、そうした新しい環境に対応するために進んでいるはずですが、災害時には、想定していなかったことがいろいろと起きますので、技術に頼らなくても被害を受けない術を持つことが重要です。社会のシステムや技術が進化すると、また新しい災害が生まれてくるので、課題も増えていくわけです。

【三】 今後、大きな地震がくると言われていますから、備えは大切ですね。

【村】 はい。小さい地震であっても、もしかすると次に本震がくるかもしれないですし、心の準備はしておいた方がいいです。情報に関していえば、「地震がくるぞ~」といって、こないと、オオカミ少年のようになってしまいますが、やはり、逃げた方がいい場合があるのです。

津波でも、仮にこなかったとしても、津波警報や注意報が出た場合は、逃げないより逃げた方がいいです。逃げないリスクと本当にきてしまって命が奪われるリスクを考えてほしいです。ただ一方で、東京など大都市で「明日地震がくる」といって活動を停止した場合、実際に起きた場合の損害と、実際は来なかったときの経済的な損害をどう考えるか、その辺りがとても難しい。

【大】 私達の分野であるサイバーセキュリティに関しては、海外と比べると大変遅れているのですが、防災に関してはどうなんでしょうか?

【村】 日本は災害大国と言われるほど昔から災害が多く、様々な教訓を活かしてきましたから、かなり対策は進んでいる国だと思います。国としての予算もありますし。
現在、わが国に被害を与えるだろう大きな要因が首都直下の地震だったり、南海トラフの地震だったりするわけですが、ある地域に被害を与えるのは災害だけでなく、外部からの攻撃もあります。歴史的には国を守るために、防災よりも防衛が先決だったという経緯があるわけです。

今世界中を見渡すと、紛争のリスクを抱えている地域も多々あります。そういう国では、防災よりも防衛に力を注ぐわけです。戦争のリスクが小さくなり、社会が安定し、はじめて災害に対する投資が行われます。日本を含め、防災対策がしっかりしている国というのは平和で成熟してきた国であるということなのです。

【三】 それは安心しました。

【村】 逆にお聞きしたいのですが、先程のお話だ、とサイバーセキュリティに関して日本は遅れているのですか?

【大】 そうですね。セキュリティの中でもハイクラスの専門家は、日本は非常に少なく人数にして3桁程度と言われていますが、お隣の中国は政府直下で20万人、民間で10万人、北朝鮮でも8000人規模と言われています。

【三】 中国や北朝鮮はリーダーの主導権が強いので一気に整っていきますが、日本は、なかなかそうはいかないのが現状ではないでしょうか。

【村】 そういえば、ソルナさんの事業として炎上検定というのがあるそうですね。

【大】 はい、企業向けですが、ネットのルールを学んでもらうeラーニングです。社員の不用意な情報発信による、様々なリスクについての知識を習得できるようにします。社員によるリスクのある書き込みを「しない・させない」教育で、社員も会社も守っていこうという主旨で行っています。

【三】 今は、誰もがスマホを持っている時代で、簡単に情報発信ができます。車で言えば、運転免許を持っていないのに、高速に乗っているようなものですよ。教育無しに入り込めしまうわけですからね。

【村】 うーん、技術の進化によって、ある必然的な方向に社会が向かっている気がするのですが、一方で利用者のリテラシーが追いついていないということですね。管理というか、コントロールが難しいですよね。

【大】 日本人は実害がないから何を書いても大丈夫だ、と考える人が多いんですよ。ある方がおっしゃっていましたが、ネットは顔が見えないから、攻撃しても自分の心が痛まない。でも、直接、暴言を吐くと相手を傷つけているという手ごたえを感じる・・。

【村】 私も以前はあるトピックについて掲示板を興味を持って見ていたことがあるのですが、何かスレッドが立ち上がっても、必ずある方向から攻撃がきて、対立する構図が見えてきました。それから、もう嫌だなと思って見なくなってしまいました。

【三】 私としては、パンドラの箱が開いたのだと思っています。元々人間の中にあるものが形となってネットにあらわれただけなのかなと。人間にはそもそもそういった部分があって、今までは身内の中で済んでいたものが、ネットの書き込みという形になって。そういったネガティブなものが浮き彫りとなり、「人って怖いよね」なんて議論になりますが、私としては、いやいや元々そうだろうと。ネットは鍵であって、箱を開けただけに過ぎないと思っています。

【村】 なるほど。大本は人間の本性ということですね。

【三】 はい、私は、ネットは悪くないと思っています。人の内側にあったものが開放されて、出た場所がコミュニティとして作られてしまったと。悪口や暴言を吐く人は、日常でも、家族や友人などに言っていると思います。でも、そこにプラスアルファで、ネットという強力なツールができてしまったということだと思います。

【村】 パンドラの箱というお話がありましたが、今まさに誰かが管理をしたり調整をしたりするのが難しい時代に突入したのかも知れません。既にネットについての問題は様々ありますから、ソルナさんの事業はこれからの時代に益々必要になってくると思います。
今日は、#防ぐ#というキーワードでお話させて頂きましたが、災害も風評被害も、いつ自分の身に降りかかるかわかりませんから、正しい知識を持つことと、事前に備えておくというのは共通して重要なことだと認識しました。

【三】 そうですね。自然の脅威もサイバーという空間も目にみえませんから、実態のある私達、人間が正しく発信されるものを見極め、備えておくことが大事ですね。今日はありがとうございました。

【大】 ありがとうございました。


東北大学 災害科学国際研究所 村尾修教授  

日本だけでなく海外での災害に関する被害を調査し、今後起こりうる災害に備えた被害抑止や被害軽減のための対応についてなど研究を行う。
2002年日本建築学会奨励賞
2011年こども環境学会 子どもが元気に育つまちづくり
東日本大震災復興プラン国際提案競技銀賞(優秀賞)
2014年日本建築学会賞(論文)

ソルナ株式会社
代表取締役社長 三澤和則  取締役社長 大月美里

Webにおける危機管理専門家として、WebのメカニズムからWebトラブルの原因となる人の問題にも言及し、危機管理カンファレンスでの情報提供や、各種講演会、法人向けコンプライアンス研修など、有事の対策はもちろん、リスクを未然に防ぐためのコンサルティングを提供。

【お問い合わせ】

(社)産学連携推進協会 岩田

eメール:customer@kyoju.net

電話番号:03-6869-1496

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