森美術館からものつくり大学への依頼は国宝“待庵”※の原寸再現! 今回は、そんな大変貴重な産学連携事例をご紹介します。
【産学連携事例】~ものつくり大学×森美術館~
通常、国宝の建築物を原寸で再現することは希。また、その制作を学生に取り組ませること自体も珍しいといいます。今回は、そんな大変貴重な産学連携事例をご紹介します。
六本木ヒルズ・森美術館15周年を記念して開催された「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」。そこに展示する国宝〈待庵》の原寸再現をものつくり大学に依頼した森美術館。
■依頼した森美術館ご担当者に伺う
―なぜ、ものつくり大学に依頼したのでしょうかー
『2007年の「ル・コルビジェ展」で展示したカップ・マルタンの休暇小屋の原寸模型をものつくり大学の先生が視察にこられたのがもともとの関わりです。その後美術館のスタッフが大学を訪問した際に実習で茶室の精工な原寸模型も製作されていることを知っていたので、技術力の高さには確信がありました。
展示模型を実現するにあたっては、極力本物の雰囲気に近づけるため現地の視察含めた詳細な調査と材料調達から制作までの一貫した実務管理が必要になりますので、大学への委託研究として協力しながら進めるのが最適と考えました。また、美術館としては、展覧会がそうした研究の発表の場として、アカデミックな機能を果たすことも目論見としてはありました。』
―出来上がるまで、また出来上がった時の感想を教えてくださいー
『時間や予算が限られる中、本当に展示が実現できるかという不安はありました。途中段階では屋根を省略する案なども検討しましたが、先生方や生徒の皆様の努力に助けられ完全な形で再現することができました。完成した際は外観もそうですが、特に内部の佇まいが見事に再現されていることに感激しました。』
―鑑賞にいらしたお客様の反応はどうでしたかー
『京都に現存する待庵は内部には入れず、写真撮影もできないという事もあり、内部に入れ、かつ写真撮影可ということは大変好評でSNS等でも拡散され、連日順番待ちの行列ができていました。2畳という極小の空間を実際に体感すると予想以上の広がりを感じたり、窓の位置や各所のディテールに利休の思惑を想像したりしながら楽しんでいただけたと思います。実物を精巧に再現したからこそ伝わったものは大きかったと考えています。』
■完成までの道のり
再現にあたり、 ものつくリ大学の教職員および職人でもある非常勤講師らが、 学生40名に対し、伝統工法から30プリンターの使用方法まで指導していきました。 まず、実測図をふまえて図面を制作。 さらに、会場での展示替期間が短いため、 学内で木 ・ 竹材及び石材加工、建具や和釘及び鬼瓦の制作、 塗装、 土壁の施工方法の検証。そして、 仮組後搬入のため一度分解し、その後展示室内で再び建て方を行い、 土壁を塗るという工程で制作していきました。
『美術館展示室内での作業期間が短いことが制作の難易度をあげましたが、大学にて十分な準備とシミュレーションを行いました。学生をはじめ我々指導側も、いつも以上に作りながら考え、考えながら作るという貴重な体験になったと思います。』(担当教授より)
■ものつくり大学の取り組み
そもそも、ものつくり大学では、 2010年よリ、世界的名作と称される住宅や工業製品などを原寸で再現し本物のものづくりを手触りで体感する「世界を変えたモノに学ぶ ・ 原寸プロジェクト」という教育プログラムがあり、 今回もその一環として行われました。
■人材育成にもつながる産学連携
学生を参加させる産学連携は少なくありません。しかし、今回の様な大がかりな製作に多数の教授と学生が参加したプロジェクトは多くはないと感じます。学生達は、やり遂げた自信と経験で将来に向けた希望を感じたのではないでしょうか。
こうした産学連携が実現すると、企業と大学のメリットだけでなく、人材育成という新しい形の産学連携が生まれます。今後もこうした事例が増えることを期待します。
※《待庵》は、 現存する日本最古の茶室で、千利休作と伝えられており国宝に指定されています。
【お問い合わせ】
さらに詳しい内容は、一般社団法人産学連携推進協会へお問い合わせください。