東京都羽村市に「福島屋」という社名の食品スーパーがある。地域密着経営を貫き、宣伝もほとんどしないため、地域外の人々にはあまり知られていない。しかし、現在は羽村地区に9店舗を有し、年商44億円、従業員数がパートを含めて350人のれっきとした中堅企業である。
同社の設立は1980年。それまでのコンビニエンスストア経営から撤退し、今日の食品スーパーに業態を転換した。その理由は、コンビニ経営の限界と、現会長である福島徹氏の食への強いこだわりである。
◆大手と差別化
福島氏は市場調査を入念に行い、後発でありながら、大手食品スーパーとの徹底した差別化経営を考案したのである。
まず商品面では、安全・安心に徹底的にこだわる産地業者との協働による商品づくりと店舗づくりを実践してきた。
また経営面では「企業の最大の商品は従業員」「顧客が最も求めているのは親切丁寧な対応をしてくれる従業員」を経営の柱に、従業員重視の経営を行ってきた。
これらの積み重ねが大きな実を結んだ。店舗で取り扱う商品の大半は、生産者の顔が見える「産地直送品」であるばかりか、産地業者との協働でプライベートブランド(PB、自社開発)商品をなんと200品目も開発している。
ちなみに、店で売られる総菜の80%、またベーカリー(パン類)の90%が、今やPB商品である。
◆地域性を重視
また従業員重視の経営でも創意工夫にあふれている。専門能力を身に付けた従業員をたたえるマイスター制度を導入して従業員教育に注力する一方で、パートやアルバイトを含む従業員全員で試食を繰り返して販売商品を決めている。
こうした従業員教育と現場への徹底した権限移譲・経営参加システムにより、全従業員のモチベーション(士気)は飛躍的に高まったという。
事実、従業員のモチベーションのレベルの高さが顕著に表れる企業業績を見ると、同社は設立以来30年以上にわたって黒字経営であり、自己資本比率も80%を超え、実質的に無借金経営である。
また、当社はこの間、地域貢献を実践するため、さまざまなイベントを行っている。そのひとつが、料理教室の開催である。これは、地域住民を対象に毎月1回以上開催しているもので、地域の評判が高い。先だって行われたイベントは「あんこづくりの講座」「親子パン教室」「自家製漬物講座」などである。
「お店とは、売り場や買い場ではなく、地域住民が楽しんでいただく場、交流していただく場、生産者と生活者をつなぐ場」。これが同社の経営姿勢だ。
【会社概要】アタックスグループ
顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。
「フジサンケイビジネスアイ」