第24回
よくわからない“トランプ関税”
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
それにしても、“トランプ関税”は困ったことだ。世界同時株安を引き起こし、為替も大きく変動。先行きもよく見えない。
米国のトランプ大統領は、かねてより「アメリカは長らく外国から搾取されてきた」といった発言をしてきた。一連の関税は、そうした状況を是正するための施策ということなのだろう。
しかし、これだけ世界を混乱させている割に、内容や根拠があまりよくわからない。関税をかけて数字的な帳尻をあわせよう、ということなのかもしれないが、米国自身が困ることにはならないのだろうか。
ちなみに、日本から米国に輸出されるものには2025年4月9日以降24%の関税をかけた。その10日には一転して上乗せ分を90日間停止することにしたが、取り消しではなく先行きは不透明だ。
いずれ24%の関税が復活するようだと、日本の対米輸出の実効関税率は20%ポイント程度上がることになる。2024年の対米輸出は21兆円を超えており、年間では4兆円以上の負担増が生じる計算だという。
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いわゆる上乗せ分の停止で当面は10%となるが、米国は海外からの輸入品に対して全面的に関税をかけた。ということは、輸出元が値引きするか、大幅にドル高にでもならない限り、米国内での輸入品の価格は上昇する。皮肉にも現時点では円高傾向でもある。
米国ではようやくインフレが鈍化傾向になっていたが、今回の施策で再びインフレ率は上昇することにもなりそうだ。日本のように、資源や食料の多くを海外に依存しているわけではないにしても、国内で産出しない、あるいは作れないものはある。それらの値上げは見込まれる。
たとえば自動車などは、完成車自体の輸入にはブレーキがかかっても、部品はどうなのだろうか。米国メーカー製の自動車は米国産部品だけでできているわけではない。日本から輸入した部品などを使っているケースもあり、そうした場合は米国車についても今回の関税で少なからずコストが上昇することになる。
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筆者は今月60歳の定年を迎えるが、そんな筆者が社会に出た1990年ごろにも日本と米国は貿易を巡ってもめていた。米国は再三にわたって牛肉やオレンジの関税を引き下げよ、と迫っていたし、その後も半導体や自動車などの分野で日米の不均衡是正がテーマになってきた。
そういう意味では、トランプ関税に至るまでのトランプ氏の言動も“なんだか聞き覚えがある”気がした。米国は、だいぶ前からあんな感じのことを日本に言い続けてきたのだ。それでも米国車はさほど売れなかった。余談だが、著者も一部を除き、仮に安くても欲しいと思ったことはない。
ただ、そんなせめぎ合いの結果、輸出入の障壁は下がり続けた。米国主導で自由貿易体制が世界のルールとして定着していったともいえる。この結果、経済は国境を越え、世界中の企業が協力しながらモノやサービスを生み出すようになった。
そんなことから、コロナ禍の時はどこかの国の工場が止まると他の国の工場が部品不足で稼働できない、といった現象も起きた。いわゆるサプライチェーンは、いまでは世界中に張り巡らされている。
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そんな中でのトランプ関税だ。サプライチェーンの再構築が世界規模で迫られるのだろうか。
1950年代に米国でプロダクト・サイクル理論というのが唱えられた。この中にある、企業が時間とともに安い労働力を求めて工場を海外に移転していくくだりを思い出す。
米国は今後、何もかも自国で作るという自給自足型の経済に向けて180度舵を切ったということなのだろうか。トランプ氏にそんな壮大で難しい戦略が描けるとも思えないが、方向性としてはそんな感じもする。さて、米国にはそれができるのだろうか。
日本にはそういうことはできそうにない。だからといって、米国輸出に頼らない方策に全面シフトするのは時期尚早だが、米国以外の新たな市場開拓は確実に求められてくる。
トランプ氏の支持率は、就任以来徐々に下がりつつある。株価も暴落しており、来年11月の中間選挙に向けこのままの方向性を堅持できるのか。その都度方針が激しく変わるのも困った話だが、いまはどうにもよくわからない。われわれにできることはあるのか。どうすべきなのか。予想も対策もできないのは困ったことだ。
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