第6回
民間の提案受け入れ課題解決に挑む自治体
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
高濃度の有機フッ素化合物「PFAS」が全国各地の地下水などから検出されている。
富士山や南アルプスの伏流水などが豊富で、きれいな水が自慢の静岡でも、このPFAS問題が浮上している。静岡市が行った調査では、静岡市清水区の化学工場付近の地下水から国の指針値の20倍を超えるPFASが検出された。
清水区三保にある「三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場」では、約10年前まで、PFASの一種で毒性が懸念されている「PFOA」が使用されていた。工場の敷地の周辺や元従業員の血液からも、それらのPFASが高濃度で検出されている。静岡の場合、発生源や原因が絞り込みやすく、エリアも限定的である。ただ、こうしたケースは稀だ。首都圏や近畿圏でも高い濃度のPFASが検出されているが、その多くは発生源も原因も分かっていない。というか、一説によれば原因などの特定は全体の98%で不可能だといい、現時点では調査も困難を極めている。そもそも、PFAS自体の有害性は実証されておらず、日本では暫定目標値があるだけで、法的な規制はない。
PFASは、水や油をはじき、熱にも強い。このため、焦げつかないフライパンや消火液、防水加工用の薬剤などに多用されてきた。5000種類程度あるとみられており、その全容は不明だが、そのうちの一種である「PFOA」や「PFOS」などについてはがんなどとの関連性が疑われており、国際条約で製造や使用、輸入などが禁じられている。
ということで、今では怪しいPFASは使用されていない、ということになる。が、これらの物質は「永遠の化学物質」ともいわれ、一度製造されて環境中に放出されると自然に分解されることはない。このため、除去しない限りいつまでも環境中に存在し続けてしまう。
疾病等との因果関係については世界中で調査・研究が進められているが、現時点では明確なものがみつかっておらず、日本などでは規制も対策も遅れている。最近は水道水から検出されるケースも増えている。日本では、水道水について1リットルあたり50ナノグラム以下という暫定的な目標値を掲げている。この目標値は世界保健機関(WHO)の目標値(同100ナノグラム)よりも低いが、目標値の数倍、数十倍という値が検出されている地域もある。もちろん、どれぐらいの量を摂取するといけないのかも含めて分かっていないため、この状態がどんなもんなのかは不明だ。
そんな状態なので、対策も難しい。静岡市では発生源とみられる化学工場と連携して調査や対策を進めているが、規制の関係もあり強制調査などもできずにいる。健康被害等が明確になり規制ができなければ、対策を指示したり補償もできない。被害が明確化するのを待っているような状況といえる。
ただ、市営の雨水を排水するポンプ場などから高濃度のPFASが検出されているため、市には対策が求められている。根本原因には手がつけられないだけに、なんとももどかしい対策だ。
そんな中で、市は面白い対策を始めた。
PFASの除去に名乗りを挙げた企業と、ポンプ場で実証実験を行うというのだ。市では、こうしたことに挑戦する他の企業にも門戸を広げる考えだ。ここで効果を確認し、実績も積めるというユニークな取り組み。もちろん、効果があれば、今後の発注にもつながる。ちなみに、静岡市の関係者によると、今のところ実証実験に名乗りを上げているのは1社のみだという。
PFASの除去は活性炭を用いる方法が一般的とされており、静岡市もこの活性炭を使う設備を設置しているほか、増設も行うことにしている。実証実験はこれと並行して実施。名乗りをあげた企業とは、7月から除去作業を開始する。実証試験では、薬剤を使用してPFASを分離・除去する方法の有効性を確かめる。この技術は同社が国際特許を有するものだという。
同市はPFAS除去以外でも、こうした外部からの提案を活かした社会課題の解決に積極的だ。市が企画提案する子育てや防災といった20の分野のほか、スタートアップ企業などが構想する海洋産業などの分野を対象に、広く提案を募集している。題して「知・地域共創コンテスト」。応募の期限は7月16日で、審査の段階からスタートアップ企業などと市でチームを作り、実現の可能性を探る。審査を通過した提案には1件あたり500万円の支援金を交付し、課題解決に繋げていく。
提案、応募は静岡市に限らず全国のスタートアップを対象する。社会課題の解決に挑もうというベンチャー企業や起業家にとってはいい機会だし、市にとってはこれまでにない技術や取り組みを実装する機会となる。
公共事業は、仕様を決めた上で入札・発注するのが通常のスタイルだった。静岡市の取り組みは、この世界に一石を投じる可能性を秘めている。
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