第7回
変化に対応しようにも人手が…
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
静岡市内に住んで1年半になるが、自宅のある埼玉県南部よりも冬は暖かく、夏は涼しいところが気に入っていた。しかし、ここにきてなんだか暑い。まだ(執筆時点では)梅雨明け前だが、7月上旬には市内で最高気温が40度を突破した。この日は全国的に暑かったが、静岡の気温は全国で最も高く、市の観測史上最高記録も更新した。3日ほど前に更新したばかりの記録のさいどの更新。夏の最高気温という意味では全国トップクラスの埼玉県民でもビックリだ。
気象当局の話によれば、いろいろと特殊な事情が重なっての結果ではあるようだ。が、その後も特殊事情が続いているのか、静岡とは思えない酷暑が続いている。地球は温暖化しているというが、当初は特殊でも、常態化すればそれが普通になる。こうやって、特殊な暑さが次第に日常化していくのだろうか。
そして、こういうことが続くと、いろいろなところに変化というか皺寄せがいく。農産物などにはそれぞれに適した日照や気温、降水量などがあるし、海産物などでも天然物はもちろん、養殖にもいろいろと影響する。
今年の異常気象の根本原因として、日本近海の海水温の上昇があるといい、しかもその海水温は例年より5度程度高いのだという。2〜3度変化すれば異常気象につながるとされるだけに、5度違えばもはや未体験領域だ。漁業関係者からは「魚が獲れない」とか「これまで見たことない魚が獲れる」といった話が多い。
山梨県の中央部、甲府盆地周辺は国内最大の桃やぶどうの産地だが、このエリアの平均気温上昇で、ぶどう栽培に適した気温の範囲とのズレが生じ始めているという。品種を変えたり、暑さに強くなるよう品種改良して生産量は維持できるというが、ワインなどに用いる一部の品種については、南アルプス方面の山間部に移植するなどして栽培する例もある。もっとも、変化があまりに急激だったり、バラツキがある場合は厄介で、対応も難しくなるという。
そんな大きな変化の中で、対応する社会の力は弱っている。これは大きな問題だ。
第一次産業を担う地方では、人口減少が顕著であり、しかも未曾有の高齢社会が進行している。農業従事者の平均年齢は70歳に迫っており、人手もない中では変化への対応も困難だ。そんな実情は、能登地震の復興過程からも垣間見える。
今年(2024年)の元旦に能登で大地震が発生してから半年になるが、復興は大きく難航している。道路網など交通アクセスの問題などもあるが、ここでも最大の課題は人手不足だろう。特に第一次産業は復興そのものが岐路に立たされている。
現地の自治体は、被災した田んぼの水路を復旧するなどの作業を進めるが、農家はその後の農作業を心配している。現地では“集団営農”というスタイルで農業を続けてきた。田植えや稲刈りのような作業時にはみんなで助け合いながら進めるもので、米農家では全国的に行われている。多くの住民がいまだに震災による1次避難とか1.5次避難をしたまま戻れない状態が続いており、「圃場や水路が修復できても、協力して機械を使ったり各種作業をする人がいない。ひとりではできない」という。
この能登での話は災害に起因するものだが、人手不足という実情は全国的に共通している。農業従事者の平均年齢を考えると、今後ある時期からは引退する農業従事者が急増することだろう。若者はそもそも少なく、後継者はさらに少ない。みんなで調和を保ちながら進められてきた“集団営農”は存続の危機に瀕しているようにもみえる。これは日本の農業の存続にもかかわる大問題だ。
AI(人工知能)やドローン、ロボットなどを活用したスマート農業は急速に進み、一部は実装され始めている。ただ、隅々まで行き届くにはまだまだ時間も費用もかかる。ましてや、引退を意識した高齢農業従事者に、それらへの投資や活用を促すのもたいへんなことだ。
“向こう三軒両隣”で進められてきた“集団営農”だが、今後は隣町とか自治体の枠をも超え、より広域でなんとかこれを維持できないものかとも思う。そのためには、従事者同士のマッチングや日頃からの従事者同士のコミュニケーションも必要となるが、そのためのデジタル技術の活用はスマート農業に一挙に変革することに比べれば費用面でも技術面でも容易だ。課題解決とはいかないが、緊急避難の一助ぐらいにはなるかも知れない。
農業は地域によって繁忙期が異なるため、農業機械のレンタル事業などは広域での事業化が可能となる。需要のピークを分散させることで機械の稼働も高められることから、実際に成立している。人手についても、そうした工夫ができれば、とりあえず“集団営農”の広域版はできそうだ。とはいえ、仕組みができても実際に活用されるのかはソフト面の対応が肝要。それ以前に、人口減少や高齢化、後継ぎ不足といった根幹にある解決にはつながらないのだが…
- 第15回 「ホワイト社会」ってどうなの?
- 第14回 社会に変革迫る人口減少
- 第13回 コロナ禍は終焉も変化は続く
- 第12回 衆院選告示 いろいろある注目点
- 第11回 大災害時代、備えは普段から
- 第10回 同時期に米大統領選さえなければ…
- 第9回 どうする“限界レベルの猛暑”
- 第8回 AIで深刻化するデマやフェイク情報
- 第7回 変化に対応しようにも人手が…
- 第6回 民間の提案受け入れ課題解決に挑む自治体
- 第5回 歯止めかからない少子化や人口減
- 第4回 静岡に新知事誕生もリニア推進には課題山積
- 第3回 進む犯罪の“DX”、進まない対策
- 第2回 一枚岩目指すも地域間で対立?
- 第1回 電撃辞意の静岡県知事、その理由は意味不明