よどみのうたかた

第5回

歯止めかからない少子化や人口減

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

厚生労働省がまとめている合計特殊出生率が、2023年は1.20になったという。統計開始以来最低で、昨年を0.06ポイント下回ったとも。低下は8年連続だという。日本では、人口を維持するために必要な出生率が2.07程度とされている。今回の数字は今後のさらなる人口減少を示すもので、大変な感じだ。

テレビのニュースみる限り、街の声は経済的な環境の厳しさを挙げる。収入が少ない、物価が上がっている、家賃が高い…、これでは結婚や子育てができない、と。

確かにそれはあるだろう。しかし、日本の出生数が現代において最も増えたのは食うにも困った戦後の混乱期だった。昨年の話でも、都道府県別にみると最低賃金や平均賃金が国内で最も高い東京が出生率は一番低く、北海道や宮城、秋田、京都、神奈川、千葉、埼玉などと続く。ちなみに、東京は1を下回り0.99となった。

一方で、出生率が高いのは最低賃金が47都道府県中45位の沖縄で、これに同40位で並ぶ宮崎、鹿児島などが続いている。もちろん、賃金以外にも物価や住環境などいろいろな要素があり、原因は簡単ではないことが想像できる。国も少子化対策に本腰を入れているが、全国均一な対策の難しさも感じられる。とはいえ、すべての都道府県で低下となっている。

日本をはじめ、東アジアでは婚外子が極めて少ない。要は、(結婚している)夫婦間の子供が大半だ。この点は欧州などとは状況が異なる。日本では未婚率の上昇も問題視されているが、この未婚や晩婚といった現象の是正が、出生率アップの前提といっても過言ではない。このため、国や自治体では、この辺りも含めた対策の乗り出している。

例えば埼玉県では「埼玉で、恋しよう」をキャッチフレーズに、県などが結婚支援事業「SAITAMA出会いサポートセンター」(恋たま)を展開している。県内3カ所を拠点に婚活支援に取り組み、この5年で400組が成婚したという。

未婚率の上昇や晩婚化の背景には、結婚に対する家族や社会からのプレッシャーの低減や見合い結婚から恋愛結婚へというスキームの変化がある。“恋たま”は、この恋愛結婚に向けた出会いの場を創出する公立のマッチング施策で、婚活パーティーのようなリアルイベントのほか、仮想空間でのイベントも実施している。

もちろん、課題の規模や進行スピードは、こうした取り組みをものともしない勢いだ。

静岡県では、未婚化や晩婚化に加え、若年層の流出という課題もある。中でも、政令指定都市であり県都でもある静岡市などで若者の流出が激しく、さらなる人口減少が心配されている。静岡は、食べ物も美味しく、温暖で景色もいい。移住したい都道府県ランキングなどではいつも日本一なだけに、皮肉な傾向だ。

県は、若年層流出の原因について、大学が少ないことなどを挙げる。大学が少ないから、高校卒業後は県外の大学に進学するため流出するのだ、と。しかし、県内の大学が集中する静岡市の流出が特に深刻であり、説明がつかない。まだまだ分析も足りないが、これまたさまざまな理由が複合的に絡み合っていることだろう。

出生率の低下は、こうした複雑な課題がさらに複雑に絡み合った結果としてあらわれている。しかも、日本だけの話でもない。

人口が増加している米国なども移民政策で維持している面がある。現時点では人口が増加している一部の国や地域も、出生率は低下している。出生数の低下とこれに伴う人口減少は全世界的な傾向といえる。

少子化や人口減少対策には、国や自治体が「異次元」の取り組みをみせはじめている。反面で、将来予測からは厳しい現実がうかがえる。もはや昭和のような拡大拡張路線は考えにくい。これからの時代の企業経営や家計には、規模の減少を織り込む必要があるかもしれない。それこそ、来年はこれぐらいの減少幅で抑えよう、といった具合だ。それが現実的なように思える。そして、その中で肝心なところをどう維持するのか、を焦点にする。

ただ、社員や家族やその他の利害関係者は、減少を前提にすることを許してくれるのか。そこは問題だ。
 

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