第12回
衆院選告示 いろいろある注目点
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
というわけで、衆院選が始まった。
「政治とカネ」の問題が最大の争点とされるが、安全保障や経済運営など差し迫った課題も多い。有権者はどんな審判を下すのだろうか。それだけではない。個人的にはいくつか注目してみたいことがある。
例えば地域の課題だ。衆院選は国政選挙だからなのか、地元の課題は争点になりにくい。若者の流出による極度の人手不足や過疎化、子育て支援などは多くの地域が直面する課題であり、国の課題でもあるのだが、それ以外の地域課題は小選挙区でもあまり争点にならない。
たまたま静岡に住んでるので敢えていえば、県内にはリニア中央新幹線の建設推進や中部電力浜岡原子力発電所の再稼働といったテーマがある。が、ほぼ争点にはなっていない。なぜなのだろうか。
よく見ると、その理由の一つがみえてくる。というか、理由は賛否が問える状況にはなかったのだ。
原発再稼働に対して関心が高いのは、浜岡原発のある御前崎市とその周辺。このあたりは静岡3区という選挙区になるのだが、この問題について明確に“再稼働反対”を掲げている日本共産党が候補者を擁立していなかったのだ。
日本共産党は、前回の衆院選(令和3年)では立憲民主党と選挙協力しており、重複を避けて静岡2区に1人を擁立しただけだった。が、今回は立憲と共闘しないことを決め、県内の全小選挙区に候補者を立てる考えを示していた。しかし、共産党が出ないとなると、選挙戦でも賛否が問われることはないのだろう。
ちなみにこの選挙区は、前回選挙で立憲が議席を獲得した。自民党候補は女性問題などでその後離党し議員辞職もした宮澤博行氏(小選挙区では落選し比例復活)だった。宮澤氏は今回も無所属で立候補している。自民党候補との間で保守票の分裂を心配する声もある。
さらに、静岡県といったらリニア中央新幹線だ。予定ルートでは、静岡県内をトンネルで通過する。その距離たるやわずか10キロちょっと。しかし、そのトンネルの真上が静岡を代表する大河、“命の水”こと大井川の源流部であるため、水量の減少懸念から県内を二分する一大課題となった。いまでも、県内では工事が行われておらず、ようやくボーリング調査が始められようとしている。
この問題に大きく関係するのは島田市などの大井川の流域市町。静岡2区というところだ。このエリアはお茶の国内有数の産地であり、リニア問題のカギを握っている。ところが、なんとここにも明確に“リニア反対”を唱える日本共産党が候補者を立てなかった。
もっとも、反対を唱える候補がいたとしても、実際に争点化するのかは怪しい。今年春の静岡知事選では日本共産党の候補者も出馬し、原発再稼働やリニア推進に反対を唱えたが、最大の争点は中部VS西部、浜松VS静岡といったような地域間の対決みたいな感じだった。
というわけで、“地元の課題”は争点としては微妙な感じなのだった。
一方、選挙運動については注目してみたい動きがある。それは、いわゆる組織票の力だ。
県内の某エリアには非常に強力な企業集団があり、この“一団”がとある候補を応援している。そのエリアでは、前回の衆院選で当選した自民党候補が今回も優位に選挙戦を進めると考えられているが、その“一団”は前回選挙で敗れた対抗候補を応援しているのだ。
前回は得票で2倍強の差をつけて当選した自民候補だが、さて今回はどうか。
しかし、企業経営者が先導し、当該企業や関連会社、取引先まで巻き込んで票をまとめるというのはどうなのだろう。
もちろん、誰が誰に投票したかなどわからない。会社の推挙があっても、それぞれの考えで投票はなされるはずだ。とはいえ、である。
小選挙区は政党選択というよりも個人を選ぶ傾向が強い。自民党は裏金問題で逆風下にあるため一概にはいえないものの、選挙結果が逆転したり、前回よりも差が詰まるようだと、“一団”による票まとめの効果があったと考えられなくもない。
一方で、得票に特段の変化がみられなかったような場合は、社員が企業の推挙に影響されずに投票したということになるのかもしれない。それは、某カリスマ経営者の求心力低下を意味するものだったりして…
まあ、そういう選挙への取り組み方は、そもそも決して褒められたものではないのだが。