第13回
コロナ禍は終焉も変化は続く
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
新型コロナウイルス感染症が季節性インフルエンザと同等の扱いになってから1年半。コロナ禍はすっかり過去の話になった感じだ。一見したところでは、マスクをしている人も減ったし、街に出る人も戻った。
一方で、出張や接待は戻っていない。忘年会とかもコロナ前よりは減っているような気がする。それらは、コロナ禍を経て“無くても問題はない”ということが判明したのだろうか。
コロナ禍で定着した感のある通販は、コロナ禍の収束で一段落するのかと思いきや、いまだに伸びている。購入対象のモノが決まっているなら、通販は便利で安いことも多い。特に伸びているネット通販は、コロナ禍で利用者が急増。そのまま定着したということだろう。
コロナ禍で伸びたものはネット通販もそうだが、サービス分野に多い。半面で、通販が増えても、個々の商材の市場が拡大しているわけではない点が悩ましい。
通信で売れるものとして上位に入る日用品は、ネットでは売れていても市場規模は人口減少などもあってさほど拡大していない。要は購入する場所や方法が変わったということになる。
ただ、子細にみるとコロナ禍を経て市場が拡大しているモノもある。例えばキャンピングカーはその一例かも知れない。釣り具などもコロナ禍を機に市場が拡大したというが、釣り具は戦後の経済成長期に大きく拡大した時期があり、その後は長期にわたって市場が縮小。近年になって回復基調がみられるに過ぎない。その点、キャンピングカーは新しい市場といえる。日本RV協会の調べによると、2019年には526億円だった市場規模は2023年に1050億円を超えた。この5年で倍増している。
キャンピングカーは完成車をビルダーとも呼ばれるメーカーが改造して製作する。ビルダーには、中堅・中小の自動車の販売会社や整備工場、建築工務店、住設販売会社などの事業者が多い。付加価値は高いが、多品種少量生産で量産に向かないことや市場規模の関係で、大手自動車メーカーには参入が難しい分野でもある。
災害時の一時避難にも利用が期待されており、市場は急拡大が続く。自社の持つ技術や販路、アイデアが生かせることから、参入した中小企業にとっては期待の新分野でもある。
ただ、急拡大は新たな課題を生むことが多い。
先日、静岡県内のとある漁村に出向くと、現地はキャンピングカーであふれていた。週末だったが、おそらくオーナーズクラブの集会か何かあったのだろう。
その漁村の近隣にはオートキャンプ場もあるのだが、そこはガラガラ。漁港や海岸線にある無料の駐車場は大混雑で、小さな漁村は完全なオーバーツーリズム状態だった。オーナーらはその駐車場で週末を過ごしたことから、2日間にわたって一帯は占拠されたも同然。土日で納品がない商店からはモノが消え、駐車場で寝泊まりしていることから夜通し騒音が絶えなかったという。
キャンピングカーは一般的な乗用車に比べると大きい。駐車スペースは2台分が当たり前。一様に、椅子やテーブルも広げていた数十台がこの調子だったことから、特需はあったものの、地元住民の評判は大変悪かった。
あるアンケートによると、キャンピングカーの購入者は用途について「旅行」や「ペットとの旅行」といった回答が75%を超えていた。「キャンプ」や「アウトドア」はそれぞれ数%だった。キャンピングカーとはいえ、実態は“駐車場での車中泊が快適な車”ということかも知れない。冒頭の出張や接待の減少と同様、節約志向が感じられなくもない。市場拡大が楽しみなキャンピングカーだが、街や村に大挙して押し寄せるようだと、そのうち“公害”になることだろう。
半面で、商機もあると感じた。日本には、安価、または無料で利用できるキャンピングカー向けの施設、オートキャンプ場のようなものが少ない。キャンピングカー大国の米国では、そうした施設が随所にある。電気や水道、炊事場、ショッピングセンターまで完備していることが多い。日本にはまだ大規模なものがない分野だが、車両が増えれば市場が成立する可能性もある。
“公害”の防止と観光客の誘致をなんとかこじつけることはできないものか、と思う。生産数量の拡大が、行き場を失った車両の増加に結びつくようではいけない。