よどみのうたかた

第3回

進む犯罪の“DX”、進まない対策

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

SNSを観ると、あやしい広告がやたらと目につく。筆者はフェイスブックぐらいしか利用していないが、著名人や有名大企業の広告やら勧誘やらが掲出されている。この中には、最近よく報道されている不正な広告が多々混じっていることだろう。

以前、大手百貨店の免税店が激安でロレックスなどを販売するかの広告が出ていたのを思い出す。これは偽通販サイトということだったが、巧妙な上に何度も大々的に掲出され、多くの被害者をだした。

この詐欺事件の際には、主な対策として販売者(本件の場合は百貨店)に確認することなどが推奨された。ただ、被害者の後日談などによると、百貨店もそうしたセールの存在確認に手間取り、返答までに時間がかかったとの話もある。偽サイトが購入期限を“本日○○時まで”などと設定している場合、消費者心理としては“即座に否定”されなかったこともあり、詐欺被害に遭ったというケースもある。

その百貨店もいまは、同社のサイトのトップページに「当社および当社店舗名を名乗る不審なショッピングサイト・広告について」と題する文書を掲載し注意を喚起している。同社に限らず、実に多くの企業がこうした注意喚起を行っている。それでも、SNSなどによる詐欺は横行している。

最近も著名な経済アナリストやエコノミスト、企業経営者、学者を“起用”した投資勧誘詐欺事件が問題になっている。フェイスブックでもよくみかけるが、これなどは見るからにあやしい。しかし、繰り返し掲出されるので、登場人物も公認しているのかと思いきやそうではなかった。

どうやらSNS運営企業側が削除しない、というのだ。だいたいこの種のSNSを運営する企業は海外にある。フェイスブックでは、次々と削除している、と説明しているようだが依然として一掃される気配はない。日本はこの種の詐欺被害が他の主要国に比べると多いというが、その背景には海外の運営会社が“後回し”しているからではないかと疑いたくもなる。

ただ、運営会社がどうあれ、どんな詐欺広告に触れようと、引っ掛からないようにしなければならない。個人の立場で身を守る術を獲得することが肝要だ。とはいうものの、詐欺はサイバー空間の中でますます巧妙化している。これは難儀だ。

以前。たぶん2000年ごろだったと思う。中国で偽ブランド品が横行した時、日本の大手バイクメーカーが偽物対策に腐心していたのを思い出した。この際は、中国にも同名の偽物メーカーまであり、新聞広告も出していた。これは現在の日本では考えられないが、こういうことは海外では起こり得る。サイバー空間に国境はない。世界標準の“護身術”が必要だ。

それにしても確認手段が乏しい。それは大きな問題だ。以前のように日本語がおかしい、といったこともなくなってきた。とりあえず通販や投資を募る偽サイトが問題視されているが、場合によっては選挙などの際にも不正が心配される。いまやSNSをはじめとするデジタルツールは万人が利用する主力ツールだ。

それでさらに思い出したが、筆者がいる静岡は知事選の真っただ中にある。この知事選の争点はリニア中央新幹線静岡工区への対応や中部電力浜岡原子力発電所の再稼働問題などさまざまあるが、伊豆地方の過疎化対策や人口減少への対応、地域経済の活性化などもある。

政令指定都市である静岡市のような大都市でも、少し郊外に行くとシャッターの降りた商店などがやたらと目に付く。街は急速に元気を失っているといえそうだ。

そしてそれらの街では買い物にも苦労する。パソコンを買おうにも電器店がなく、市街地に行かねばならない。そういうところでは、通販が多用される。

静岡では、随所で高齢者向けのパソコン教室やスマホ教室が行われているが、受講者に聞くと、家族との連絡などに加えて通販の利用が用途として挙がる。コロナ禍ではワクチン接種の予約がSNSで行われ、スマホは高齢者にも浸透した。そんな中だけに、サイバー空間に潜む危険は高齢者層にも迫っている。“護身術”だけで偽サイト問題は防げそうにないと感じるが、リアル店舗がなければネット通販の利用も避けられない。最近は問い合わせ先に電話番号がないケースも多い。そういったものがネット上に置き換えられる半面で、不正や犯罪の“DX”も進んでいる。
 

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