第2回
一枚岩目指すも地域間で対立?
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
川勝平太知事の辞職に伴う静岡県知事選挙がいよいよゴールデンウイーク(GW)明けに告示される。
前回の本コラムで川勝氏の電撃辞職表明の顛末や今後の課題として残されたリニア中央新幹線問題などに触れたが、選挙が近づくにつれ、さらなる難しい問題が浮上してきた。それは、なんと地域間の分断・対立だ。
地域間の…という話は、行政区の規模が大きくなればなるほど出てきやすい。いわばよくある話だが、静岡県の場合はこれがとても根深く大きな課題ともなりそうだ。
実は、そんな予感は川勝氏が辞任表明した直後からしていた。静岡には1年半ほどしか居住していないが、それでもいまでは地域間対立の気配が感じられる。
4月初頭に静岡県内最大の街である浜松市の市長定例記者会見があり、そこで次期知事選に期待することを問われた浜松市長は「無用な地域間対立をあおらないよう望んでいる」と応えた。まだ立候補者も正式な名乗りを上げる前の段階だったが、県外から来た身にはこの発言の意味をあまりきちんと理解できなかった。この1年半の間には、目に付くような地域間の対立など目にする機会もなかったからだ。
川勝知事は、辞意表明の9日後となる4月10日には辞表を提出。そのあたりから知事選への立候補者も見え始めた。告示日は5月9日なのでまだ他の立候補者も現れるかもしれないが、4月22日時点では元総務省官僚で元静岡県副知事でもある大村慎一氏と前浜松市長の鈴木康友氏が立候補を表明している。
この両者が出馬会見でともに口にしたのは「オール静岡」という言葉だった。これにとどまらず、企業関係者や県内市町(静岡には村はない)の首長からも「オール静岡」という言葉がでてくる。これぞまさに合言葉だ。ところが、両者に対する支援者が決まりだすと、早くも対立の構図が見えてきた。
大村氏を担ぐのは県庁所在地であり政令指定都市でもある静岡市を中心とした中部地域の財界。対する鈴木氏を支援するのは県下最大かつ政令指定都市の浜松市を中心とした西部エリアの財界だった。県議会最大会派の自民系は大村氏を、第2会派のふじのくに県民クラブや立憲民主党、国民民主党、連合静岡は鈴木氏の支援にまわることが決まったが、ここにも地域間の対立がくすぶる。いわゆる単純な与野党対決にはなっていない感がある。
というのも、静岡市出身の大村氏支援を決めた自民党県連だが、浜松の支部は鈴木氏の支援を模索。自由投票も含めた妥協策を求める声も高まっている。浜松市出身の鈴木氏を推す野党も、静岡市を中心とする中部地域では大村氏支援を目指す動きがある。要は与野党ともに一枚岩になれていないのだ。
巨大企業が多い静岡県では、財界の力が非常に強い。中でも浜松市と静岡市の財界には世界的企業も多く、それらがそれぞれ違う候補者を担いでいる。もはや「オール静岡」どころではない。
静岡県は大きく3つ、あるいは4つのエリアに分けられる。その境目には、大井川と富士川という大河がある。概ね、大井川の西が「西部」、大井川と富士川の間が「中部」、富士川の東が「東部」で、東部の南側にある伊豆半島を「伊豆地方」とする場合もある。
それぞれの地域はもともと別の国として発展し、明治維新後の廃藩置県では別々の県となった。それが今は統合され、静岡県となっている。
日本の電力系統は50サイクルと60サイクルのエリアに分かれるが、その境目は富士川だ。このため、富士川の東と西ではサイクルチェンジを経由しないと電力の融通もできない。電力を供給するのも東は東京電力グループ、西は中部電力グループといった具合に異なっている。大井川は明治時代になるまで江戸幕府の軍事政策上橋がなく、往来が限定的だったことから言葉や文化、料理にも違いがある。
この違いがきっかけになり、どうにも相容れないところがある。同じ県内で都市間の不仲が取りざたされるケースは全国的に多々ある。しかし、この静岡県における地域間対立の根はなかなか深い。普段は対立しているようには見えないし、具体的な火種があるわけでもない。ところが、選挙ともなればすぐさまこうした状況になる。人口減少や産業の活性化、東南海地震対策を含む危機管理、リニア問題、浜岡原発の再稼働など、全県共通の懸案もあり、その対策や判断も急がれている。第三者目線でいえば、もっと政策面に目を向けるべき時だが…
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