よどみのうたかた

第22回

「マルハラ」は希薄な信頼関係の裏返し?

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

「マルハラ」を知っていますか?

先日、とある会社との懇談会で、この「マルハラ」が話題になった。いわゆるハラスメントなのだろうか、という話だった。

「マルハラ」とは、ビジネスチャットなどでのコミュニケーション時などに、文末を句点「。」で終わること。そうしたメッセージは“威圧的だ”というものだ。受け取った側が威圧感を感じるということなので、パワハラ(パワーハラスメント)の一種ということになるのだろうか。 そこで調べてみた。一部の報道などによれば、研究者がアンケートを実施したところ若い女性の4割以上がメッセージ文末の「。」に威圧感を感じることがあるのだという。例えば「○○しておいて!」は期待されているように思えるが、「○○しておいて。」だと突き放されているように感じる、ということらしい。

かつては文章を書く際に、てん(読点「、」)が無いのはてんでダメ、まる(句点「。」)が無いのはまるでダメ、などといわれた。その教えが染みついている世代は、無意識に文末には句点を入れる。そうしないとメッセージが終わっていないような気になるのだが、イマドキのチャットなどではそうじゃないらしい。わが身を振り返ると、これまでのほぼすべてのメッセージの文末は「。」だった。

しかし、この「マルハラ」は困ったことではある。句点付きのメッセージが威圧の意図なしに送られているケースも多いだろうし、なにより文末の句点は正式な日本語だ。懇談会に参加した人の大半が「マルハラ」の存在を知らなかった。彼らもみな、これまではチャットの文末にも句点を付けいてたと口を揃える。と同時に、威圧の意図は無いとも。ちなみに懇談会では「大きな問題になるケースが出てくれば対応が必要」とか「そんな変な慣習は無視する」など、いろいろな声があった。

ネット上にあまたある情報サイトの中には、30種類以上の“ハラスメント”について概要や実例、対処法などを解説しているものもある。すでに、職場におけるハラスメントの防止対策は事業主に対して法的にも義務化されている。その中心的な対象となる事例はパワハラやセクハラなどだ。厚生労働省の対策パンフレットでは、「優越的な関係を背景としている」ことや「業務上必要かつ相当な範囲を超えている」ものが要注意だとしている。

具体的には、暴行や障害といった身体的攻撃はもちろんだが、脅迫や名誉棄損、侮辱、ひどい暴言などの精神的な攻撃、仲間外れなど人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個(プライバシー)の侵害などを挙げている。

これだけみると「マルハラ」は対応すべきハラスメントには該当しそうにない。ただ、威圧感を感じるという人は多いようだ。心理的なプレッシャーの程度はわからないが、多くの受け手が精神的な攻撃だと思うようなら、対応が必要になるのかも知れない。

しかし、変な話ではある。場合によっては、“チャットの文末には「。」を付けないのが望ましい”といったようなガイドラインとかをつくるのだろうか。

読点や句点は日本語の正式な役物だ。威圧的だから使わないようにする、という話はアリなのだろうか。威圧感を感じる人が一方で、句読点のない日本語の文書に違和感を感じる人も多いだろうし。チャットは文書ではない、という話もあるが、そのあたりの分け方も含め、コミュニケーション上の“新たな知識”や作法が必要なのかも知れない。それがないと、世代間の分断なども生まれかねない。知らないだけで意図せず威圧したり、威圧感を感じることにもなってしまう。

とはいえ、自分の感想を打ち出してこうしたルールの変更を求めるのはよくない。

以前、ショウワノートの表紙の昆虫がキモチ悪いと一部の顧客が声を大にしてクレームを唱えたことから、同社は昆虫の表紙をやめたことがあった。その後、反論が噴出して議論になった。昆虫が嫌いだ、という人はたくさんいる。ショウワノートの表紙には花などもあり、それを使えばいいのだが、中には自分が嫌いだから全てなくすべきだ、と考える人もいるということだ。現在は昆虫の表紙も復活しているとのことだが、あたりまえだ。みんなのものやルールに誰かのエゴが反映されるのはよくない。

その点、チャットなどが舞台となる「マルハラ」論争は、今のところ誰かと誰かのコミュニケーションの中での話ではある。送ったほうや受けたほうが違和感を感じるということであり、換言すれば信頼関係が希薄だという面もありそうだ。

 

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