よどみのうたかた

第19回

うかがい知れない部下の心理

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

フジテレビの不祥事が大きな騒ぎになっている。少し前にはジャニーズ事務所や日大アメフト部でも騒ぎがあった。これらはいずれも、一部の人権侵害や違法薬物などコンプライアンス(遵法)面の問題が発端になり、ガバナンスのあり方が問われた事例だ。

組織的な不祥事である場合はもちろんだが、発端は個人的な不祥事であっても、組織がその事実を隠蔽したり、その素振りが見えたりすると、組織風土も含めて攻撃の対象となり、組織の存続に関わるほどの大問題となる。

株式会社や学校には多くの利害関係者がいる。たとえば株式会社の場合は、株主や顧客、従業員などだ。会社はそれら利害関係者のためにある。その役割をきちんと進めるための考え方や仕組みをコーポレートガバナンスなどというが、一連の不祥事は、この利害関係者のためにならないことが行われていた、ということでもある。

少しズレるが、こうした大問題の際に最近よく思うことがある。このコーナーでも再三にわたって触れているデジタル情報の台頭だ。

最近は、さまざまな情報が流出するとSNSなどを介して広く拡散する。特に、不祥事などはこうして広まったものが大ニュースとなって世間を賑わしていく。

不祥事は昔からある。逆に、昔はそのあたりのルールがあまりなかった。というか、みんなルーズだったことから、今の基準に照らせば不祥事だらけだったともいえる。看過できないことが起きると、組織内でだれか声を上げることはあった。しかし、以前はこれを社会に問い、外圧で組織に変革を迫ろうとしても、なかなかうまくいかなかった。

そうした不祥事報道の受け皿といえば、かつては週刊誌などだったが、週刊誌の編集当局や取材陣の見識やいろいろな事情で何でもかんでも報じるわけではなかったからだ。いろいろな意見があるものの、実態からすれば、根拠のない情報やフェイクなどが報じられることも少なかった。それも当然だ。発行元は責任をもって発信する必要があり、情報に異論があれば批判や訴訟などのリアクションにさらされることになる。

その点、SNSなどは違う。だれもが要件を書き込んでボタンを押せば世界に向けて発信できるうえ、発信者が責任を負うケースは稀だ。

ただ、良くない事実が公のもとに引き出され、改善されていくならいいと思う。ただ、そうした事実関係などにまつわる話は、改善の是非に関わらず、まだいいのだ。ものすごく気になるのは、部外者の論評や評価である。

部外者もいろいろだが、事実関係もさることながら、主観的な“感想”を発信していく。そういう投稿が多々ある。これがまとまることで、強力なパワーを持つことになる。しかも、こうした声は無軌道だ。そこに危うさと怖さを感じる。発信者が部外者で、見知らぬ誰かが発信した情報に加勢するのも部外者、といった場合、そのムーブメントが正しい情報と良心に基づくものであることを祈るしかない。

30年以上前だが、ある有名企業の創業者のひとりが週刊誌で“パワハラ経営者”として揶揄されたことがある。確かに、そのころのオーナー経営者はみな、何かにつけてすごかった。従業員もしかり飛ばすのも日常茶飯事だったと記憶している。この一断面だけを今、部外者がみればパワハラだと認識しても不思議ではない。

もちろん、振り返ってみると、しかり飛ばされた当事者は辛かったと思う。しかし、その企業は成長企業の代表格ともなり、創業者の人柄や、なによりその“経営哲学”がよく知られるようになると、そうした話は影を潜めた。潜めたというか、パワハラのためのパワハラはむしろ企業成長の糧(かて)であり、存在していなかったのだろう。

その企業だけでなく、名オーナーと言われる創業経営者はみな、深いコミュニケーションを大切にしていた。これがお互いをよく知ることにもつながった。その“結果”として、お互いの趣向や置かれた状況を認識し合う組織を築いた。いわば家族のような濃密な人間関係のある組織だ。出光興産などは現在でも、会社を「大家族」と称している。

しかし、組織内にこうした人間関係を築くのはもはや難しい。仕事の後に会食に誘うこともはばかられる時代だ。会社の経営者やマネジメントに携わる人々は、部下がどういう状況下で何を思っているのかをどうやって知るのだろうか。

企業は人なりというが、人手不足の折、どの組織にとっても人は最大の資産だ。

ある日突然、辞めてしまった。ある日突然、へんな内部告発がネット上に飛び出した…では困るのだ。そうなれば、それが事実かどうかにかかわらず、会社は大きく揺さぶられかねない。

SNS時代となり、膨大な情報が24時間流れている中で、いま企業に問われているのは、情報の真偽を的確に見分けられる危機管理マネジメントであろう。訴訟大国とも言われる米国では、この分野に最も優れた人材を配置する。

冒頭のフジテレビであれ日大であれ、企業としての、学校法人としての危機管理能力が問われているのだ。こうした事例はある意味、日本の企業のマネジメントの在り方を見直す機会でもある。

もはや名オーナーの一言に頼れる時代ではない。最大の資産である人材をどう守っていくかは、企業としての危機管理マネジメントの研鑽にかかっている。

 

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