第14回
社会に変革迫る人口減少
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
その名の通り、静岡に静岡ガスというガス会社がある。意外に思う人もいそうだが、同社は都市ガス販売量が東京ガス、大阪ガス、東邦ガスに次いで全国4位の大手だ。
その静岡ガスが、魚の陸上養殖に乗り出す。ハタの仲間で高級魚として知られる「クエ」と大きくなる同「タマカイ」を交配させた『クエタマ』を育てるとともに、養殖に使用する水の質を維持するために海藻「海ブドウ」も栽培する。
タマカイは適水温が27度と高いが、静岡の温暖な気候がこれを実現可能にする。極端に低温となる場合は加温するというが、そこもガス会社だけにお手の物だ。静岡は海産物が豊富だが、魚はマグロやカツオ、サバやアジなどが中心で、スーパーなどでもハタの仲間は稀。『クエタマ』なら天然物や海上養殖物との差別化にもつながる。高価で付加価値も高い。
ハタの仲間は刺身もいいが、鍋も格別。鍋となればガスの消費にもつながりそう。いろいろと熟慮した展開といえそうだ。
それにしても、なぜガス会社が養殖なのか。背景には人口減少がある。同社のようなインフラ企業は人口減少の影響をダイレクトに受けることになる。現状ではガスの供給エリアを拡大するなどの取り組みで企業としての成長が見込めるものの、人口減少が続けばそれもやがて限界が来る。人口減少は今後ますます深刻化することから、養殖事業はそうした将来を見越し、主力事業を補うものとして検討されたという。
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日本における人口減少は実は現状でも深刻な状況下にある。長寿化が進んだことで見えにくいが、今年(2024年)元旦に発表された統計によると、昨年生まれた人は前年より4万3482人減の72万7277人。これに対して、亡くなった人の数は同6886人増の157万5936人だった。その差が減少分となる。
生まれる人の数が現状のまま推移しても、亡くなる人の数は今後増え続ける。“団塊世代”(1947~49年生まれ)は年間出生数が260万人を超えている。現在75~77歳ぐらいだが、10年内には平均寿命に達する計算だ。その頃には、年間150万人といったペースで人口が減ることになるのだ。
人生100歳時代というが、人の寿命の伸びはいよいよ鈍化している。これ以上の長寿化には、生命科学上の新たな発見が必要だが、当面は切り札のようなものはみえない。海外のつい最近の論文にもあったが、飛躍的な長寿化は見込めそうにない。
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そんな中で、というか、話はちょっとそれるが、かくいう筆者は昨年末に父を亡くした。90歳だったので長寿だったのかもしれないが、親族が亡くなると、いろいろと大変だ。
初めての経験であり、何度もあるものではないのだが、こうした際には葬儀などのほかにも膨大な行政手続きが求められる。今年末に一周忌となるが、相続手続きが完了したのはつい先日のことだった。ちなみに、相続税を収めたわけではない。相続した額が少なかったので。
ただ、あの膨大な手続きは問題だと感じた。あれは仕事をしながらできるものではない。
筆者の場合、自宅のある埼玉と仕事場のある静岡を行き来しながらだったせいでなお大変だった。が、実は同じ境遇の人も多いことだろう。特に、実家が地方にあるという人は多い。亡父の世代は地方から都会に多くの人が移住した。こうした人流は今も続いているからだ。
加えて、自治体によっても大きな違いがあることに驚かされた。一方は嫌がらせかと思うほど不親切な対応で、一方はワンストップでナビゲートする体制を整備。いわば伴奏型の手続きだった。この伴奏型の手続き体制がある自治体に聞くと、「人手不足でそうでもしないと窓口が混雑して対応できない」という。くしくも、今後ますますこうした手続きは増えるはずだ。前述の通り、亡くなる人は今後ますます増加する。不親切な自治体も、あれで済むのは今のうちだろう。
それ以前に、手続き自体の効率化を考える必要を感じた。あの種の手続きのために、残された人が膨大な労力や費用を費やし、自治体などの行政機関は多くの人手=税金を費やしている。これはいかがなものかと思う。
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