よどみのうたかた

第25回

なぜか選挙の争点にならない重要課題

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

3月から5月にかけては地方選挙が多い。それらが集中する4年に一度の統一地方選は2023年に行われたので、次回は2027年ということになるが、それでも今年はミニ統一選といった感じで自治体の首長や議員の選挙が行われている。そうした選挙を見ていると、地方の課題や実情がよく分かってくる。

そもそも地方では、特別な事情でも無い限り立候補者が少ない。例えば静岡県でも、市町の首長選で立候補者が現職のみ(1人)となるケースがいくつも見られた。この場合は選挙は行われず、というか、無投票で当選が決まる。選挙になる場合でも“一騎打ち”とか“三つ巴”など呼ばれるが、2~3人の候補者で争われることがほとんどだ。

東京都知事選ほどではないが、静岡県知事選などでは候補者も乱立する。今年3月に行われた静岡市議選も激戦となったが、こうした都市部と“その他”では状況は大きく異なる。

状況の違いは選挙戦にも表れている。都市部以外では、最大の争点が“人口減少対策”や“経済の活性化”となる。このため、候補者の街頭演説でも、子育て環境の改善、観光客や企業の誘致といった公約が目立った。それはそうなのだろう。人口減少に伴い、地方の経済基盤は弱体化が続いている。市場も縮小し、外に市場を求めるにも人手がない。住民の生活をどう守るか、が最大の課題となるのも理解できる。ただ、少し気になった。重要課題はそれだけなのだろうか、と。

例えば、昨年まで静岡で大きな話題となり大きな議論にもなっていたリニア中央新幹線。リニアは静岡県内の最北部、南アルプスの地下をトンネルで通過する。駅などはできないが、そのトンネルの工事などで大井川の水量や水質に影響が出るとの懸念がくすぶる。そんな大井川に近い自治体の選挙では、リニア問題が争点にはならなかった。実は、昨年の知事選でもこの問題はさして大きな争点になっていない。

今後の課題という意味では、現在停止中の中部電力浜岡原子力発電所の再稼働問題というのもある。この原発に近い自治体の選挙では再稼働問題が争点にならなかった。これもリニアと同様、昨年の知事選でも争点にはならなかった。

いずれのケースも推進には地元の理解が欠かせない。知事選はともかく、近隣や影響を受けかねない自治体でも争点になっていないことからすると、2人とかの候補者のこれらに対する考え方が一致していたということかも知れない。あるいは、前述したような課題が深刻で“それどころではない”ということか。

とはいえ、こうしたテーマについての議論がないと、有権者のリーダー選びに民意が反映されないばかりか、こうした問題に対する意識も高まらないのではなかろうか。そんなことを感じた。

経済の活性化については、さまざまな主張がなされている。自治体によって持てる資源や特徴は異なるので、当然のことだ。その中で、あまり強調こそされていなかったが、観光振興が共通した戦略となっているように思えた。

ただ、ざっと見たところ、具体的な振興策は不明だ。多くは“地元の産品などの観光資源を前面に、都市部から観光客を呼び込もう”といった主張がなされていた。観光客が来れば地域経済は手っ取り早く活性化しやすい。地元の産品も消費される。お金も落ちる。観光客が訪問地を気に入れば、そのうち移住してくれるかも。そうすれば人口減少問題対策にもつながる。そんなことをおぼろげに考えているのかも知れない。

しかし、これを実現するのはなかなか大変だ。伝統的な観光地ならともかく、宿泊施設などが多くないエリアも多い。県内を代表する大都市、静岡市あたりでも観光客の誘致に力を入れようと、基本計画を策定した。が、計画があれば実現するというものでもない。

比較の対象ではないが、米ニューヨークでは地下鉄が24時間運行し、深夜までブロードウェーのショーが楽しめる。いわゆる“ナイトタイムエコノミー”が充実しているということになる。そうしたナイトタイムエコノミーを深耕する英国では、この分野の経済規模が7兆円を上回るとも。

このナイトタイムエコノミーなどは、静岡市中心市街地であれば実現できないこともない。すばらしい地場産の食材があり、すばらしい地場産の日本酒やウイスキーもある。それを提供する気の利いた店も多い。地下鉄はないが、コンパクトシティであることを考えれば、徒歩圏内で完結可能だ。

それでも実現は難しいだろうと思う。まだまだ田舎の行政がこうしたナイトタイムエコノミーの旗を振るには意識上のハードルが高すぎる。とともに、住民が果たしてそれを望んでいるのかどうなのかも疑問だ。

静岡では、観光客が集まる土日を定休日にしていたり、午後8時にはクローズする店も少なくない。地方における観光振興は、選挙で候補者が口にするようにはいかないだろうな、などと聞くたびに何度も感じたのであった。

 

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