よどみのうたかた

第9回

どうする“限界レベルの猛暑”

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

それにしても暑い。昨年も暑かったが、今年はいちだんと暑い。もはや危険な領域だ。これまで酷暑で取り上げられることが少なかった静岡でも、今夏は史上最高気温となる40.0度を記録したほか、連日熱中症アラートが発表された。熱中症による救急搬送も最多レベルで、死亡例も出た。

テレビや新聞によれば、この猛暑の背景には日本近海の海水温度の上昇があるといい、その原因は温室効果ガスなどの増加に伴う地球温暖化だ、と。何度も聞いた話だが、いよいよ気候の変動が始まった。そんな感じを多くの人が感じたのではないだろうか。

統計上ではまだよくわからないが、現場ではそうした変化が見てとれる。筆者は静岡に住んで2年弱なのでこれまでとの違いはわからないが、昨年あたりからこれまでなかったことがいろいろと起きているという。わかりやすいのは、農林水産業の現場だ。

駿河湾に面する漁港などでは、昨年あたりからカタボシイワシという魚が釣れるようになったという。四国や九州では馴染みのある魚だということだったが、現地ではこれまでは例外的にしか見なかったという。相模湾に面する熱海周辺では、グルカンを見かけるようになったという。これは沖縄の県魚。相模湾にいる魚ではない。

半面で、地元の漁師は「これまで獲れた魚が減っている」と嘆く。食べ物や料理は文化であり、これまでとは違う作物や獲物による置き換えがむずかしい。違うものが獲れても、そう簡単には需要が開拓できないようだ。

静岡市で100年以上続く農家では、名産のナスをはじめ、夏野菜が暑さで不作だという。加えて、「ダメになった作物を片付けようにも、暑さで作業員が危険だ」という。近隣の農家では、夜明けとともに作業するといった対応をとるケースもあるとか。しかし、人手不足に加え農業従事者は高齢化が進んでいる。もはや限界と言える状況だ。同様のことは建設業などでも起きている。日中の労働が危険領域にあるのだ。

気象庁も“熱中症アラート”のような注意喚起をしているが、注意喚起だけでは足りない。こうした中での作業自体、放置できるレベルではないようにも思う。

猛暑は日本だけの話ではないが、海外ではそうした“猛暑下の屋外作業”に対する規制を設ける動きもある。規制は嫌いだが、そうした作業が強いられるのを放置するわけにもいかない。企業などには特段の配慮が求められる。

帝国データバンクがこのほど実施した緊急調査によると、「猛暑による外出控えで商品・サービスの動きが停滞している企業がみられた。一方で、エアコンや飲料などの季節需要の拡大に加え、タクシー利用の増加などによりプラスの影響を受けている企業も複数あり、猛暑による経済効果が出ている」という。実に10 社に 1 社は「猛暑」で売り上げがアップした、とも。

日傘市場は、2019年から2023年までの5年間で4倍以上拡大し、特に男性用に限ると20倍以上と急伸したという。これだけ見ると、夏は暑く、冬は寒い方が経済には良い。ただ、暑さは限度を超えている。

食品や衣料、その他の量販店に行くと、店頭には“暑さ対策グッズ”がズラリと並んでいる。筆者もそうしたグッズをいくつか使っている。ただ、不十分だ。屋外でもっと強力に冷やせるものが欲しい。今後、暑さがエスカレートするならなおさらだ。

今夏もスポーツ大会や視察をはじめ、屋外の現場をいくつも取材したが、いつも危険だという思いがあった。だからといって、休むわけにもいかない仕事はある。不要だとは思わないが、不急ではある夏の甲子園(高校野球選手権大会)や夏のオリンピックなどの開催時期はこのままでいいのか。農林水産業や建設業ほか、屋外での作業が避けられない場合はどうするのか。仕組み面や対策グッズ面でのさらなる、しかも、早急な進化に期待したい。

もっとも、そのために燃料などの多くの物理的なエネルギーを要するようだと、温暖化に拍車をかけることになるのでダメだ。対策は極めて難易度が高い。

暑さにどう対応するのか。死傷者が増加しつつある災害だけに、“現場の暑さ対策”は待ったなし。そんなことをはっきり感じとれる夏が続いている。
 

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