第23回
公私にわたる年金問題⁉︎
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
4月上旬生まれの筆者は、来年度に入るとすぐ60歳の定年となる。定年といっても、退職するわけではない。以前のように定年退職する人は少ないことだろう。企業に属している場合、65歳までは引き続き嘱託状態で勤めることが多いのではないか。
その後も、多くの人が勤めている。あえて請求でもしない限り年金は65歳からだし、平均寿命は80歳代の半ばまで伸びており、経済的にもなんとなくそうせざるを得ない面がある。
そんな中で先日、60歳を前に赴任先の静岡から東京の本社に異動する人の送別会を開いた。聞けば“主賓”は、東京に戻った1か月後に定年となり、これを機に退職するという。定年延長とか、定年後の再雇用とかは選ばなかったということか。そんなことから、送別会参加者の興味は“主賓が定年退職後にどうするのか”という点に注がれた。
主賓曰く、特に働かないという。40年前ならそれもさほど珍しくはなかった。女性の平均寿命が80歳を超えたのは1984年。男性の平均は、まだ75歳に達していなかったし、60歳以上の求人も少なかった。しかし、現在はいろいろ変わった。寿命も延び、将来の経済的な不安も多い。なかなか定年退職できない事情もある。
◇
ただ、企業に属している人が65歳まで引き続き勤めることにはメリットもある。これは以前から思っていたことだが、例えば筆者の場合、60歳で定年退職すると厚生年金が満額もらえない。
厚生年金はよく2階建ての建物に例えられる。国民年金と同等の基礎年金部分と、従業員と企業が一緒に支払ってきた2階部分があるためだ。このうちの基礎年金部分は20歳から60歳まで40年間保険料を納付することで65歳から満額受給されることになっている。一方、二階部分は会社に属している期間に天引きで納付している。40年間納付すると満額だが、納付の年齢上限は70歳。会社に属する間は天引きが続く。40年を超えて納付した場合は年金が加算されることになっている。
しかし、大学卒の場合、新卒で入社しても厚生年金を納付したのは22歳からとなる。途中で会社に勤めていない時期がなかったとしても、60歳で定年退職し、その後勤めないなら、厚生年金の納付期間は38年。満額にならないのだ。基礎年金部分も、学生時代に納付が猶予されていた場合は厚生年金と同じ38年間の納付となり、こちらも満額にならない。これは大変だ。
ところが、65歳まで勤めると25歳以下で入社していれば納付期間は40年を超え、厚生年金が満額になる。基礎年金部分は納付期間は60歳までとなっているが、厚生年金を納付している場合は60歳以降に基礎年金部分の不足分が充当される“経過的加算”があり、20~25歳の間に納付の猶予を受けていた場合でも満額となる。筆者の場合、このケースに該当する。つまり、65歳まで勤めると、満額にはなる計算だ。
年金があれば老後は大丈夫、という時代ではない。だからこそ、せめて満額もらいたい。そう考えるなら、この辺りを念頭にした生活設計が求められることになる。
もっとも、厚生年金は納付期間のほか年収などによっても受給額が変わる。自分の年金がどんな状況なのかは一度しっかり確認する必要がある。
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年金をめぐってはいろいろと課題がある。前述のような厚生年金の満額受給というのは恵まれた話だ。個人事業主などでは状況が異なるし、企業に属している場合でも年代によってずいぶんと状況が違う。
目下大きな課題として年金改革の焦点となっている「就職氷河期世代」は、平均的に非正規雇用の期間が多く、4割近くは将来もらえる年金が月10万円未満になるとみられている。この月10万円というのは生活保護レベルと考えられ、経済環境がこのまま推移すると今後ある時期には多くの生活保護者を生み出すことにもなる。
このため、この世代の年金、中でも基礎部分をなんとかして引き上げ、年金格差に起因する貧困を防ぐべきだという声がある。厚生年金の一部を基礎年金部分に充当しようという年金改革の狙いは、こうした将来の受給額引き上げによる貧困回避を目指すものだ。
年金は多くの人にとって老後の生活の経済的な主柱だ。超高齢社会を迎え、解決が求められる将来の課題も多い。自分の高齢化もあるが、自分のこととともに制度全体のことも真剣に考えるべき時がきている。
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