よどみのうたかた

第18回

ますます悩ましくなりそうなSNS

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

SNSなどでのフェイク情報が問題になって久しい。著名人に成りすましてカネをだまし取る投資詐欺などは、ある意味で象徴的な事例だろう。

いわゆる“オールドメディア”では、こうしたことが起きにくい。新聞や雑誌、テレビなどではメディア側がそうした偽情報をチェックした上で発信するし、万一偽情報が発信された場合は、それが意図のない不注意によるものだったとしても、誰かが責任をとるような結果になるためだ。

SNSなどは掲示板のようなもので、そうした発信情報のチェック機能がないことも多い。ここが問題視されている。オールドメディアのように、偽情報などはSNS運営者がチェックせよ、と。

しかし、程度にもよるのだが、この件には当然賛否両論がある。というのも、SNSを利用している人は多いと思うが、みなさんがアップロードする投稿がいちいちチェックされるということにもなるためだ。

個人的な投稿の内容がなんらかの基準に照らして審査されるとなれば、気分も悪い。そんな検閲みたいなことをしてくれるな、と。ただ、公開情報というのは本来そういうものだ。オールドメディアを通じて情報を発信する場合は、それが例え広告であっても、発信者の思い通りにはならない。

SNSが個人や仲間の間で使用されているうちはまだいいのだが、SNSは不特定多数の人々に情報発信することにもなる。このため、利用者が増え、影響力が高まる中で、SNS運営者にもオールドメディアのようなファクトチェックを求める声が世界的に高まっている。そんな世界的な世論が形成される中で、「Facebook(フェイスブック)」や「Instagram(インスタグラム)」などを運営する米SNS大手のメタもSNSのファクトチェック乗り出していた。

米メタは新年早々、このファクトチェックの中止を突如表明した。正確性に関するコメントをユーザーにゆだねる「コミュニティノート」という方法に変えるという。

この方針転換に対し、米国のバイデン大統領は「アメリカの正義に反している。本当に恥ずべきことだと思う」と述べ、痛烈に批判した。

バイデン大統領は、ヘイトスピーチや偽情報の発信、拡散を防ぐため、メタなどのSNS運営企業に対してファクトチェックなどの対策を求めてきた。昨年の米大統領選をはじめ、日本国内でも東京都知事選や衆院選など注目度の高い選挙の際にはSNSで拡散される情報が大きな問題となった。その対策は今後も問われることになる。

目下の焦点であるファクトチェックはSNS運営者による投稿内容の管理であり、言論の自由とかアメリカの正義を守るものではない。むしろ脅かす可能性もある。が、フェイクや偽情報の排除はそれ以前の問題だ。そもそも、諸悪の根源はSNS運営者ではない。迷惑な、あるいは無責任な偽情報の発信者だ。規制は“諸刃の剣”でもあるが、それだけの情報拡散ツールを公開するのであれば、偽情報のチェックぐらいはすべきじゃないか、とは思う。

じゃあなぜファクトチェックをやめるのか。それはみなさんもご存知のトランプ次期大統領の方針に沿うためだ。トランプ氏は、自身の投稿が運営者に規制されたこともあり、ファクトチェックには否定的。まさにしょうもない理由なのだ。

トランプ氏の発言がなぜファクトチェックに引っかかったのかはこの際ふれないが、ぜひ調べていただきたい。国連の人権高等弁務官事務所も「フェイクや偽情報の規制は検閲には当たらない」と指摘している。トランプ氏の大統領就任で、デジタル空間の悪徳情報管理は再びコンセンサスを構築し直すところまで引き戻されることになる。

トランプ大統領の登場は、多岐に渡り世界に大きな影響を及ぼす。新年1月10日に米デトロイトで開幕した伝統のあるモーターショーには、世界中のメーカーがEVを出展した。が、会場では、トランプ氏が補助を見直す可能性のあるEV関連をめぐり、米国メーカーを中心に懸念の声が渦巻いた。自動車メーカーは、いまや世界にまたがるサプライチェーンを背景とする。海外からの輸入関税引き上げについても多くの出展社から不安の声があがった。

日本でもトランプ大統領の登場でいろいろと影響が出る。前述の分野に限っても、SNSは米国企業が軸になっているし、自動車は米国が最大の市場だ。

昔から言われ続けていることだが、米国とは最大限上手にやる。その一方で、自力で自らを守るための仕組みや方策をタブーなしに考えるいい機会が到来しているように思う。

 

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