渋谷、広尾など都内一等地や京都、札幌に13のワインショップを構えるヴィノスやまざき。日本酒の取り扱いで培った蔵元との信頼関係をワインの輸入にも生かし、埋もれた良質ワインの発掘に成功。静岡の酒店が一躍、全国区になった。ただ、開業当初は苦労の連続だったことはあまり知られていない。
産声を上げたのは1913年。一般家庭にみそやしょうゆ、酒などを配達する、ごく普通の個人商店だった。その後、近所のおでん屋台などに酒を卸す事業を展開したが、不衛生な環境もあって卸先が激減。さらに、市の中心部に位置していたため、帰宅途中の会社員などの需要が見込めず、後にはディスカウントショップも台頭。経営は長らく窮地に立たされていたという。
◆地酒の経験役立つ
転機は「地酒は取り扱わないのか」という顧客の何気ない一言だった。約30年前、当時無名だった新潟の越乃寒梅を発掘。蔵元は「地元で売れればいい」と門前払い状態だったが、「返品せず、責任もって売り切る」「売れ残ったらわれわれも苦しいが蔵はもっと苦しい。蔵に良い酒を造り続けてもらうために全力で売る」などと当時としては斬新な契約方法で口説き落とした。その後、八海山(新潟県)や久保田(同県)など今や全国に名をとどろかせる日本酒の蔵元と次々に契約。「磯自慢」など静岡の地酒育成にも貢献してきた。
94年にワイン輸入を本格的に始めてからもこの経験を生かし、無名の銘柄の発掘にこだわった。「たとえ無名でも、キラリと光るワインを」という種本均社長の方針のもと、社長と社員たちは海外に渡って延べ200カ所を超えるワイン蔵元を訪ね歩いた。
◆南仏で交渉重ねる
南仏のラングドッグ地方は「安かろう悪かろう」のイメージが定着するワインの産地。大量生産にこだわる蔵元が多かったが、種本社長らは良質ワイン生産に挑戦する意欲を持つ2代目蔵元に目を付け、交渉を重ねた。現在も販売する1000円台後半の赤ワイン「シャトー・レゾリュー」もその一つだ。こうして産地やブランドの知名度を問わず、直接取引ができ、高品質を維持できる蔵元を地道に開拓。これまでに契約したワイン蔵元は、仏など世界10カ国で100カ所以上にのぼる。また、蔵元が直接顧客の意見や感想を聞ける機会を設けるなどの努力により、蔵元と信頼関係をうまく築くことにも成功している。
一方で、コストダウンにも熱心に取り組む。高品質で高価格なワインの需要がある半面、「日頃の食事に合う気軽なワインを買いたい」との声も数多く耳にしてきたからだ。静岡市の国際貿易港である清水港が自社店舗から近いことから、温度、湿度管理ができる倉庫にワインを置くことを決断。ここから直接消費者にワインを配送するなど、徹底的に中間コストを削減した。店頭に並ぶワインは他店に比べ1000円ほど安い、1000~3000円台が中心の品ぞろえにこだわっている。
◆ウェブ展開も強化
今後については「ワイン、日本酒の蔵元の思いや、取扱商品へのこだわりを理解してもらうことが前提」(種本社長)としながらも、ウェブでの展開に意欲をみせる。現在、ウェブ経由での売り上げは全体の3%と低いが、転勤して店舗に出向くことができなくなった客の取り込みを図り、売り上げ拡大につなげたい考えだ。(飯田耕司)
◇【会社概要】
ヴィノスやまざき
▽本社=静岡市葵区常磐町2の2の13 ((電)054・251・3607)
▽創業=1913年
▽資本金=1000万円
▽従業員数=89人
▽事業内容=ワインの直輸入・卸・小売り、ワイン、日本酒専門店の運営など
≪インタビュー≫
種本均社長
■品質維持 顧客から高い支持
--ワインは当初、静岡のみでの展開だった
「1994年にワインの本格輸入を始めた当初は、静岡でワインを本格的に取り扱う会社はわずか。これならば、同業との差別化が図れると判断し、参入できると考えた。都内に住む人は銘柄や味、産地に詳しい。仮に都内でワインを販売しても後発だったこともあり、無理だったのではないか。静岡だから成功したとも思う」
--現在は、都内の一等地などに店舗が多い
「『ベリーの香りがする』『こけの香りがする』など個性的なワインが都内で数多く販売されていたが、普段のワインを気軽に販売するという店は当時は少なかった。味に加え、ワインのストーリーを顧客にうまく伝えることができれば、チャンスはあると思い、都内に出店したのがきっかけだ」
--化粧品の研究開発からの転身、苦労はなかったか
「さまざまな家庭の事情もあり、酒店に入社する形となったが、当初は従業員もいなくて苦労の連続。妻とけんかの最中に、店舗にお客さまが来店すると、妻はまったくそれまでの感情を抑えて、うまく接客する。私は当初、その切り替えがうまくできずに苦労した。ただ、配達に行った際、『この前、勧めてくれたお酒おいしかったよ』といわれると、すごくうれしくて、それが自分の原動力になった」
--無名ワインの発掘に成功した秘訣(ひけつ)は
「蔵元の作り手の考え方に重点を置いた。長く契約する以上、年ごとに品質の違うワインが送られるようでは、顧客との信頼が保てないからだ。今では蔵元との信頼関係も築け、ヴィノスやまざきのプライベートブランド(PB)ワインも造ってもらっている。相手も真剣な以上、PBを売り切ることで、売り手も真剣だということを示せていると自負している」
【プロフィル】
種本 均氏
たねもと・ひとし 北大理学部卒。1976年、化粧品会社入社後、基礎化粧品の研究開発に従事。90年「株式会社やまざき」(現・ヴィノスやまざき)入社、2003年から社長。58歳。静岡県出身。日本ソムリエ協会、ワインアドバイザーの資格も。
≪イチ押し!≫
■作り手のこだわり伝える「蔵会」
来年で創業100周年を迎えるヴィノスやまざき。長年にわたって顧客から支持されてきた理由の一つに、取引する日本酒やワインの蔵元と顧客を直接結び、作り手のこだわりを伝える「蔵会」をホテルなどで定期的に開催してきたことが挙げられる。
顧客に商品を理解してもらうだけでなく、作り手も消費者の顔を直接見ることができるとあって、両者から好評を博しているという。
今年も今月22日にグランディエールブケトーカイ(静岡市葵区)、24日には東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)でそれぞれ、春の地酒フェスティバル「蔵会」を実施。静岡県焼津市の磯自慢酒造や、同県藤枝市の初亀醸造など県内外から8つの蔵元を招く。
問い合わせは同社開催事務局フリーダイアル0120・740・790まで。
「フジサンケイビジネスアイ」