法政大学大学院政策創造研究科教授 アタックスグループ顧問・坂本光司氏
熊本県八代市の住宅地の一角に盛高鍛冶刃物という社名の刃物製造小売り企業がある。従業員は家族を中心に7人。主製品は、社名と同様に包丁やハサミ、さらには鎌や鍬(くわ)などの農機具類である。
ここまでの説明では、どこにでもある小さな金物屋さんと勘違いされそうだが、同社を詳細に見ていくと、驚くべきことばかりである。
その驚くべき内容を3点に絞り述べる。
◆2.5次産業
第1点は、同社の創業年だ。同社の資料によると、創業は今から719年前の1293年であり、現在の社長である盛高経博氏は何と27代目である。
創業が鎌倉時代ということもあり、もともとは刀剣類を製作していたが、現在は包丁や農機具類である。この間、幾多の困難があったが、伝統の灯を消してはならないと、子供に代々引き継がれ、今日に至っている。
第2点は、単に刃物を製造して流通業者に卸すという経営ではなく、売り場の奥にある工場で、一本ずつ丁寧に手作りで製作された刃物を、その場で売るという「製販一体型」の事業形態である。
わが国の代表的刃物産地である岐阜県関市、福井県越前市、新潟県三条市そして兵庫県三木市などの大半の企業は、製造機能しか持たない。いわゆる下請け企業であるが、同社は「自分で考えたものを自分で創り、自分で売る」という2.5次産業なのである。
◆高級品路線
第3点は、販売先だ。現在、同社の売上高の40%を輸出が占める。しかも、そのほとんどは欧米諸国向けである。従来は国内向けが中心だったが、円高やアジアなどからの低価格品の攻勢もあり、価格競争から脱却して品質で勝負する“非価格競争力”で新たな活路を見いだすため、売り込み先のマーケットを高級品という分野にあえて狭め、販路を先進国に求めたのである。
輸出のきっかけは、海外見本市への出展や海外の専門誌の活用、さらにインターネットの活用などである。
熟練の刃物製造職人の高品質な手作り刃物は、あっという間に欧米の料理人に知れ渡り、輸出が拡大していったのである。ちなみに気になる値段はというと、家庭用の包丁がおおむね1本1万~2万円、鍬も1万円前後である。ホームセンターの商品の5倍以上に相当する。にもかかわらず、売れ続けているのは、切れ味はもとより寿命が長いからである。
こうした盛高鍛冶刃物の経営は、これからのわが国のものづくり中小企業のあり方を示唆している。
【会社概要】
アタックスグループ
顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。
「フジサンケイビジネスアイ」