□法政大学大学院政策創造研究科教授アタックスグループ顧問・坂本光司
東京の神田和泉町にユニークな経営で知られる中小企業がある。社名は昭和測器。工場は都内の八王子市にある。振動計測装置と振動監視装置の製造販売を主要事業としている。
従業員数が26人という小さな企業ながらも、携帯型振動計の分野では国内で60%のシェアを有するトップ企業である。下請けを嫌い、創業以来、一貫して研究開発型企業の道を歩んでいる。事実、従業員数26人の内訳は、技術者が8人、営業技術者が8人と、全従業員の約60%が技術者である。
◆社員第一主義
業績もすこぶる良好で、近年は多くの企業が赤字経営に苦しむ中、同社の近年の売上高経常利益率はおおむね10~15%を持続している。加えて、従業員待遇もいい。ここ数年間をみても、社員は夏・冬それぞれ2カ月分の賞与のほか、決算賞与が約1カ月分、年間では計5カ月分の支給額である。
こうした好業績が持続されていることの要因は、社会評価の高い新商品を開発して次から次へと世に提案してきたことなどである。より重要なことは、同社が掲げた経営理念と、それに基づく経営戦略、さらには創業者である鵜飼俊吾社長の経営姿勢が関係者の支持を得ている点にある。
同社は経営理念として、「社員とその家族、そして仕入れ先とお客さまを大切にする会社」を掲げている。これといった理念がなく、経営方針が時々刻々とぶれてしまっている会社が往々にして掲げる「株主第一主義」「顧客第一主義」ではなく、同社は「社員第一主義」としている。実際に、創業以来43年間、社員とその家族や、仕入れ先の社員とその家族の生活を守る経営を続けている。
つまり、景気や流行にまったく左右されず、ぶれない価値ある新商品開発にじっくりと取り組んできたのである。
◆超ガラス張り
また経営理念の最大の体現者である鵜飼社長の言行一致の経営姿勢も見事である。
例えば、「会社は、株主や経営者のものではなく、全社員のもの」と宣言し、全員を入社1年目から株主にするとともに、包み隠し事の一切ない超ガラス張り経営を貫いている。
同社は徹底して全員平等で、社長にもタイムカードがあるばかりか、社長の交際費は実質ゼロ、加えてトイレの掃除当番までも社長に回ってくる。
筆者はこれまで7000社近い中小企業を訪問調査しているが、社長にもトイレ掃除がある会社はそうざらにはない。こうした社長のリーダーシップに社員は感動し、顧客を感動させる価値ある商品を創ろうと努力してきたのである。
同社のように元気な中小企業の存在を見せつけられると、中小企業問題の大半は「外ではなく内」、とりわけ経営者の心と背中にあると言わざるを得ない。
【会社概要】アタックスグループ
顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。
「フジサンケイビジネスアイ」