□法政大学大学院政策創造研究科教授 アタックスグループ顧問・坂本光司
好不況に一喜一憂する景気期待型企業(景気連動型企業)が多くを占めるが、全国各地の現場をこまめに歩いていると、好不況を問わず、業績がほとんどぶれず、快進撃を続けている企業もことのほか多い。
しかも、こうした元気印企業はどんな業種でも、どんな規模でも、またどんなに交通利便性が悪い立地条件でも存在している。こうした現実を踏まえると、企業経営に関する諸問題は全て「外ではなく内」にあるといえる。
◆再建社長に就任
内なる問題とは、人財・技術・情報・財務・理念・戦略など、多々あるが、その中で最たる問題は人財問題、すなわち価値ある人財の有無やそのモチベーションのレベル、さらにはそうした人財が入社して育つ組織風土の有無といえる。
もっとはっきり言えば、人財育成こそ最大・最高使命と理解認識して日夜努力を惜しまない経営者に企業の未来がかかっている。
経営者の経営に対する考え方や進め方、とりわけリーダーシップのあり方により、企業の業績は大きく変動するということを示してくれた名経営者にお会いした。
企業名はサンコー。経営者は下泉澄夫会長(前社長)。本社所在地は大阪府四条畷市。金属フレキシブル継手の総合メーカーで、社員数は60人である。
同社の創業は1986年。そのころ、下泉会長は関西地区最大手の会社に在籍し、同社とは縁もゆかりもない立場であった。ともあれ、当時のサンコーは経営者の経営姿勢や能力に問題があったのか定かではないが、下泉会長が再建社長として社長業を引き受けるまでは、万年赤字会社であった。
こうした状況の中で、あえて社長を引き受けた下泉現会長であるが、なんとサンコーの業績は翌年から右肩上がりに転換し、万年赤字会社が万年黒字会社に変貌していくのである。
下泉現会長は、人員整理をしたわけでも、労働強化をしたわけでも、最新鋭の機械設備を導入したわけでも、さらには優秀な人財を確保したわけでもなかった。当時、同社が保有している人財を中核とした内部の経営資源だけで、翌年には30%以上も業績が拡大したのである。
◆社員の意見を聞く
その際、下泉現会長がどんなリーダーシップを発揮したかを詳細に述べる紙面の余裕がないので、ここでは2点だけ述べる。
第1点は、下泉現会長の仕事に対する姿勢である。毎朝6時15分には出社し、社員が仕事に取り組みやすい環境整備に尽力した。そればかりか、退社は社内の誰よりも遅く、ほぼ毎日、夜の11時過ぎだった。
第2点は当時30人いた社員を3人ずつに分けて計10回、勤務時間中に職場に対する不平・不満や要望・意見を真摯(しんし)に聞くとともに、この会社を良くしたいという熱き思いを伝え続けた。そればかりか、社員と家族を重視するぬくもりのある経営を実践し続けたのである。
こうした努力を続けていくと、当初は疑心暗鬼であった社員は徐々に心を開いていき、モチベーションは飛躍的に高まり、結果として業績は向上していったのである。
【会社概要】アタックスグループ
顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。
「フジサンケイビジネスアイ」