アートマネジメント研究所 書家 田坂州代氏
「書のアピール力」を活かしたブランディング
   手書き毛筆ならば、活字の何倍もの想いが届けられる
     企業や個人のブランディングに、シンプルで最強の味方

取材日:2012年11月15日


アートマネジメント研究所 書家 田坂州代氏

「書」を用いたブランディングということですが具体的にどのようなお仕事なのですか
 私が行っていることを一言で表すとしたら、『書によるブランディング』です。法人であれば「企業ロゴ」、書籍映画等の「題字」、「商品ロゴ」を通して、企業がお客様へ伝えたいメッセージを書に載せて伝える、という形のお手伝いですし、経営者個人に関していえば『筆跡によるパーソナルブランディング』です。

 『筆跡によるパーソナルブランディング』とは、イメージコンサルタントさんがクライアントに似合う服装や髪型を提案するように「その方にふさわしい筆跡をご提案すること」です。皆さんも、仕事がバリバリ出来て、見た目や話し方もとても素敵な人なのに、その人が書いた文字を見て「あれ?イメージと合わないなぁ」というギャップを感じた経験はありませんか。これが、社会的に影響のある経営者や作家、芸能人などであれば、お客様を落胆させてしまう、場合によっては信頼感にも影響を及ぼすギャップです。そこで、その方の職業や立場などを考慮して「ありたい姿、見せたい姿」にふさわしい筆跡を手に入れられるよう、コンサルティングと実技指導をさせていただいております。人間誰しも、赤ちゃんの時から字が書けるわけではありません。筆跡というのは後天的なものですからトレーニングでいくらでも「なりたい自分」にふさわしいものに改善することが可能なのです。『筆跡ブランディング』というのは、ただ単にきれいな文字が書けるようになればいいということではなく、例えば、建設業の経営者であれば、「びくともしない安定感」を 醸し出す筆跡が効果的ですし、士業の方であれば「誠実さ」の漂う文字が信頼に結びつきます。演奏家であれば、演奏スタイルやその人のイメージにふさわしい文字が書けたら素敵でしょう? 演奏家としての印象もグンとアップしますよ。

 みなさんだれしも、服や靴ですら気をつかって選ぶのに、日常的に本人が端的に現れてしまう筆跡に気を配らないほうが不思議ではありませんか。自分に似合う筆跡を身につければ、一生の財産です。しかもどこへ行くにも一緒に付いてきてくれて、荷物にもなりません。
どのようなキッカケで、「書」のお仕事をはじめるようになったのですか
 「書道」に初めて触れたのは、6歳、7歳の頃です。同級生の子が近所の「お習字教室」に通っていて、楽しそうなので「私もやってみたい」と。その同級生は小学校卒業と同時に辞めてしまったのですが、私は、現在まで続いてしまっただけです。書を一生続けるとは思っていましたが、仕事になるとは思ってもいなかったのです。2000年に初の個展を銀座の鳩居堂画廊で開催しました際に、その案内状の書をご覧になったデザイナーの方から、「演劇集団キャラメルボックスの公演『風を継ぐ者』のポスター題字を書いてもらえないか」とご依頼頂いたことがキッカケとなり、その後、書籍、演劇、映画の題字や愛知万博をはじめとするイベントの舞台オブジェの仕事に繋がっていきました。
(田坂氏の作品は、コチラで見ることができます。 http://shodo-tasaka.com/

 ブランディングのための作品提供や筆跡のご指導のほか、パフォーマーやセミナー講師としてのご依頼も近年増えて参りました。

 パフォーマーとしては、2010年に地歌の演奏家の方とのコラボ公演、2011年に女優さん達に混じって登場人物として劇中で書を描くという体験、今年2012年7月には、パリで開催された「ジャパンエキスポ」で数メートルの大書の実演と、これまでさまざまな経験をさせて頂きました。


ジャパンエキスポで書を披露する田坂氏              東京都庁前のパフォーマンス

 セミナー講師としては、ロータリークラブでの講演や、経営者や士業の方々向けのセミナーで、筆跡がもたらす効用について具体例を幾つもご覧いただきながらお話し、明日から使えるウラ技などもお伝えしています。
大切にされている理念、ポリシーについて教えて下さい
 作品を書くときは常に「生涯最期の書」のつもりで臨みます。心の中で「これが絶筆となってもいいのか?」と自問自答しながら作品を仕上げます。実は、30代にもかかわらず大病をしてしまい、死を覚悟した経験があるため、そうした想いがより強くなったかもしれません。「毎日が絶筆」のつもりで取り組める自分でありたい。と思っています。
「書」を通じて見える和文化について感じることがありますか
 今年、パリのジャパンエキスポに参加させて頂き、外国の方々が日本語を読める読めないに関係なく、私が心を込めて書いた「書」に感動して喜んでくださったことが本当に嬉しく有り難い体験でした。外国の方々が単に「ビジュアルアート」として「きれいだな」というだけではなく、何かを肌で感じてくれて、書に込めた想いのようなものまで受け止めて下さったのです。日本には昔から「言霊(ことだま)」という言葉があるように、「言葉」そしてそれを表す「文字」、さらにそれを描く「書」には、おのずと「想い」や「真意」が込められているのです。

 「整った文字」だけならばパソコンでこと足ります。書であれば「花」という漢字を一文字書くにしても、その「花」が「たんぽぽ」なのか「蘭」なのかをあらわすことができます。また、ひとつの文章の中に「あ」という文字が20回出てきたら、その「あ」に20通りの変化を持たせつつ全体を構築する、人間が手で描く書だからこそ生まれる美があるのです。

 「和文化」といえば、国内の動向として、「和物の見直し」の流れがあると思います。特に若い子がオシャレの一環として「和小物」を身に付けてみたり、リメイクしたり、「書道」「囲碁」「箏曲」などを題材にした漫画やアニメも人気です。書の持つ魅力を愛してくださる方々が増えているように感じます。
今後について教えて下さい
 現在、海外の方に向けたプレゼンテーションを準備中です。「書」は、日本語を読める人だけが楽しむものではないということを方向性として感じています。現在、そしてこれから海外進出を考えていらっしゃる企業の皆様にも是非「書のアピール力」を利用して欲しいと考えています。「毛筆文字」といっても誰もがイメージする質実剛健で古風なものが全てではありません。「シャープ」「コンテンポラリー」「カワイイ」「和モダン」などなど多様で自由自在な表現が可能なのです。是非とも固定的なイメージは、払拭して下さい。

 企業、個人を問わず、「書のアピール力」をご自身のお仕事に活用して頂きたいですね。そのためのお手伝いをさせて頂くのが私の使命であり喜びです。
インタビュー:河合 美智子

プロフィール

アートマネジメント研究所
書家 田坂州代氏

 日本大学芸術学部演劇学科卒、同芸術研究所修了(歌舞伎と企画制作を専攻)。高等学校書道科教員免許、高等学校・中学校国語科教員免許、伝統文化コーディネーター検定上級保持。日本演劇学会会員。文化経済学会<日本>会員。江戸ソバリエ。

 作品の目的に応じて、迫力ある力強い表現からしなやかで繊細な表現まで自在に操り、確かな技術に裏打ちされた「伝える力」でクライアントの信頼を得て、「田坂が題字を書くとその芝居は当たる」というジンクスまで生まれる。

 夢は各地の世界遺産を舞台に、そこに佇み得たインスピレーションで書を揮毫すること(2012年6月、中国の黄山で実施。夢の第一歩が実現)。アトリエにこもるばかりでなく、歌舞伎・文楽・落語・講談・浪曲など、演劇・邦楽・お笑いのライブを追っかけ、俳句・川柳・雑俳をひねるのが趣味。お酒はやっぱり日本酒! 楽しい仲間と山海の幸で一杯が最高。

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