一般財団法人 プロセスマネジメント財団 代表理事 野部 剛
勘や精神論ではなく、科学的、体系的な営業を!
事業を大きく発展させた経営者がもてはやされることは多い。しかし、現実の実務を遂行したのは現場の営業や従業員だ。科学的営業のベストプラクティスを称える「プロセスマネジメント アワード」は、結果を出した実務者たち、いわば“小さなヒーロー”を称えるもの。今年も12月2日に11回目となる同アワードがオンライン開催される。主催するプロセスマネジメント財団の代表理事を務めるソフトブレーン・サービスの野部剛社長に、同アワードのテーマでもある“プロセスマネジメント”について聞いた。
少ない日本の人的投資
- ――日本では、まだまだ多くの企業で足で稼ぐような営業、いわば昭和の営業が続けられています
- その名残りもあり、実績を上げたトップセールスが昇格して営業組織のマネジメントをしているケースがまだまだ多いですね。それがいけないとは言いませんが、自分が売るのと現場をマネジメントするのは、ずいぶんと内容の違う業務です。管理職には現場チーム全体の成績を向上させることが求められます。しかし、トップセールスとはいえ、組織なりチームをどう動かし、どう指揮すれば成果がでるのか、といった方法論を学んでいるケースはほとんどありません。
- もちろん、昇進時にコンプライアンスや各種ハラスメントについての研修などはあるでしょう。ただ、肝心な業績向上に向けた方策に関する教育・研修などはないため、組織運営ではどうしても精神論、根性論に陥りがちです。
- 実際に、日本では人的投資が少ない傾向にあります。OJT(現任訓練)以外のGDP(国内総生産)に占める人的投資(人の生産的能力や資質を高めるための費用)は、米国が2.1%、フランスが1.9%なのに対し、日本は0.1%しかありません。日本では、ミッションを与えつつ実現する術は教えない、ということは少なくないわけです。
- ――効果のある営業とはどういうものなのかを突き止め、それを組織で実践しなければいけませんね
- 我々は、その一つの手法として科学的な営業を推奨しています。「プロセスマネジメント アワード」では、営業を科学的、体系的に進めて結果に結び付けた企業や営業組織を表彰してきました。
- 現在、科学的営業の教育機関として全国8カ所に“プロセスマネジメント(PM)大学”を展開しています。ここでは、この科学的営業のケーススタディーや最新の具体的な手法を教育しています。このPM大学で研修を受けるさまざまな企業や組織の中から選ばれたベストプラクティスがアワードに出場します。
- そうした取り組みの実態は、東京大学や筑波大学、中央大学などとの産学共同研究にデータとして集約され分析・研究されます。この研究成果はPM大学にもフィードバックされ、実際の教育研修にも反映されていきます。
意外に重要なマーケティングと事前準備
- ――科学的な営業を進める上では、その前提となるデータが要りますね
- 営業力は、能力×行動で決まります。しかし、能力の診断は難しい。そこで、我々はそのあたりを可視化する、営業のためのアセスメントツールを開発しました。このツールを活用して、組織を構成する個々人の能力をマネジメント力やマーケティング力、事前準備力など8つの大項目、150を超える小項目から分析します。
- このツールで分析したところ、おもしろい結果が出ました。営業成績の良し悪しには、マーケティングと事前準備が大きく影響しています。つまり、成果が出ない営業は、マーケティングや事前準備が不十分であるケースが多い。営業トークが上手だとか、他の要因もありますが、それは想像するよりも重要ではないことが分かりました。
- マーケティングや事前準備であれば、教育研修である程度高めていくことができます。だからこそ、マニュアルや訓練としてのロールプレイングなどが重要になるわけです。
- ――マニュアルやロールプレイングで営業の進め方や方法を伝えようと
- 現状はどうかというと、マニュアルは多くの企業が導入しています。ただ、アップデートされていないことが多く、実際には役立てられていないケースが多々あります。このため、全体としての効果は低めです。
- 一方、ロールプレイングは必要があるから導入していることもあり、実施企業では効果もあります。とはいえ、こちらは導入していない企業も多いですね。
- しかし、これらを効果的に活用しない手はありません。マニュアルとロールプレイングは組織の営業力を向上する上での“両輪”です。全体の営業力の底上げや新入社員などの即戦力化を実現するためにも、効果のある手法やノウハウを形式知化し、これらに反映していくべきです
- と同時に、同行営業についても考える必要があります。われわれはこの同行営業についても実態や効果を調査・分析したいと思います。近くアンケートを実施し、有効な同行営業の進め方や他の施策との比較、関連などの実態を突き止めることにしています。
- 【「同行営業実態調査」への協力の依頼】 https://sb-service.co.jp/eigyo-form-else/
“共進化サイクル”の推進を
- ――折しも新型コロナウイルスの影響により営業のスタイルに変化を余儀なくされました。今後は将来を見据えたデジタル社会への適応、デジタルトランスフォーメーション(DX)が急務となってきています
- こういう時だからこそ、勘や根性ではなく科学的に営業を進めるのが得策です。
- 勝ち続ける営業には5段階のサイクルがあると考えます。
- まずは①現場での同行営業など「協働的体験」を通じたゴールイメージの共有。②その上で勝ちパターンを標準化し、知恵や工夫点を「可視化・言語化」する。③これらを組み合わせ、再現性のあるマニュアルの作成や認識共有などの「組織化」を進める。④さらにこれらを各種トレーニングや研修などの「学習」によって定着させ、⑤その効果を「検証」するというサイクルです。
- われわれはそれを“共進化サイクル”と呼んでいます。上司と部下、同僚などが共に進化するためのモデルです。
- テレワークなどで一堂に会さない仕事のスタイルが普及すると、組織の現状や課題が見えにくくなりがちで、評価についても結果だけで判断する傾向が強まります。DXについても、組織の現状や課題を認識して可視化しなければ、どう変革するのかも定まりません。それではDXも難しいでしょう。
- こういう時だからこそ、営業を科学し、共進化することの重要性を強調したいと思います。12月2日に開催する「プロセスマネジメント アワード2022」では、そうした取り組みの先行事例を紹介できるはずです。と同時に、昨年のアワードの様子からも、参考になることは多いのではないでしょうか。
- 【プロセスマネジメント アワード2021特設ページ】 https://sb-service.co.jp/award-online-211203-result/
代表理事
1996年早稲田大学卒業後、野村證券に入社。本店勤務。4年間一貫してリテール営業。トップ営業マンとして活躍。2000年成毛眞氏率いる株式会社インスパイアにて、ディレクターとして、コンサルティング業務ならびに投資ファンド運用業務に従事。2005年5月ソフトブレーン・サービス株式会社に入社。執行役員を経て、2010年7月代表取締役社長に就任。2010年9月一般財団法人プロセスマネジメント財団代表理事就任。経営者・営業マネージャー向けに心理学やNLPを活用した営業マーケティングに関する講演・セミナーを多数開催。著書に「90日間でトップセールスマンになれる最強の営業術」(東洋経済新報社)がある。