株式会社K-corporation 代表取締役   渡辺 健一朗

建物外壁調査のワンパッケージサービスで特許を取得

ビル・マンション等の外壁調査を手がけるK-corporation(本社・東京都江東区)が、自社独自のノウハウとビジネスモデルで特許を取得し競争力を高めている。さまざまな方法を組み合わせ、建物の状況に合った調査を行い、精緻な報告書の提出もしくは改修工事との連動までをワンパッケージ化。代表取締役の渡辺健一朗氏に、独自のサービスパッケージを構成する外壁調査の技術やノウハウ、ビジネスモデルなどについて聞いた。

見過ごされがちな外壁の保守管理の重要性

――建物の外壁調査はどんなタイミングで実施しなければいけないのですか?
まず、ビル・マンション等(特殊建築物)のオーナーや管理会社、不動産会社などの建築に携わる皆さんに、建築物の定期調査報告制度について知っていただきたいと思います。
建築基準法では、一定の規模や用途の建築物の所有者等に、定期的(6カ月~3年に1度)に専門の資格者による検査を行い、結果を報告することが義務付けられています。建築物の外壁のタイルなどについては、打診ならびに双眼鏡などによる目視を行って剥落の有無等を確認することが義務づけられているほか、竣工後10年を経過した場合には、外壁の全面打診などを行うことが求められています(国土交通省HP「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」参照)。
――外壁の落下事故は頻繁に起こっているのでしょうか?
定期報告制度の資料等にも、わりと最近までの事故事例が掲載されています。東京都内でも、2020年に恵比寿のマンションで庇(ひさし)が落下し死亡者が出ています。2016年には、六本木のマンションの外壁修繕工事現場で足場から鉄パイプが落下し、通行人が死亡するという事故も起きています。
――典型的な外壁の劣化には、どんなものがありますか?
たとえば外壁にタイルが施工されている建物の場合、タイルが劣化している状態を「浮き」といいます。そして、ある程度まとまった浮きがあって、それが膨らんでいるものを「はらみ」といいますが、この状態ですと剥離落下の危険性があります。
タイルを貼る前、下地にセメントを塗るのですが、建物の駆体からセメントが剥離し、ある程度の枚数になるとタイルの重さが原因で、はらみが発生します。また、建物の壁面内部の鉄筋が錆びて膨張し、セメントを押し出す「爆裂」を起こしていることもあります。
――爆裂というのですね
はい。ほかに典型的な劣化としては、「白華現象(エフロレッセンス)」というものもあります。これはコンクリートやモルタルの内部に雨水などが浸入し、化学反応を起こして表面に白い「あく」のようなものが浮き出てくる現象です。金属の外壁パネルも、いったん施工したらメンテナンスフリーのように見えますが、実際には錆びたり、ぐらついたり湾曲していることもあるので点検が必要です。
――建物の耐久性も、外壁に問題がないからこそ発揮されるのですね
そうですね。外壁の状態は建物の見栄えはもちろん、資産価値の維持にもつながるので、ビル・マンション等のオーナーさんや管理会社、不動産会社の皆さんは、もっと建物の外壁に目を向けていただきたいと思います。
大規模修繕を行う場合は仕方がありませんが、外壁調査だけで仮足場を設置するのは費用負担が大きく、仮足場の倒壊リスクもあります。調査の際、建物の全面をシート等で囲むことにより景観が損なわれたり、入居者の生活などに支障が出る場合もあります。
そこで当社ではお客様のニーズに合わせて、打診調査のほかに赤外線装置法やロープアクセス法などでも外壁調査を実施しています。赤外線装置法やロープアクセス法では、仮足場を設置する必要がありません。最小限の資材で外壁調査が可能で、コストを削減し、かつ入居者のプライバシー空間への影響も最小限におさえることができます。

施工のプロが手がける外壁調査の強み

――渡辺さんは15年前に会社を設立される前、外壁仕上げの施工管理に携わっていたそうですね
私はもともと建築現場でタイル外壁の施工管理を経験し、タイル1枚あたりの貼り替えコストも熟知しています。外壁の劣化している箇所だけを修繕したら費用はこれぐらい、全面的な修繕工事を行ったらこれぐらいという積算も、確認できた劣化箇所の修繕工事を請け負うことも可能です。
――外壁調査はどんな方法で行うのですか?
壁面を金属棒(打診棒)でたたき、打診音で外壁の浮きや剥離がないかを判断する「打診調査」という方法が一般的です。打診調査を行うには、ビル・マンション等の周りに仮足場を設置する必要があります。

外壁調査のメジャーな手法になっている赤外線調査の例。同社では赤外線調査を行った場所の「赤外線画像および可視画像」、打診調査を行った場所の「打診画像」を掲載するなど、正確でわかりやすい報告書を作成している

――建物の状況に合わせて、最適な調査手法を提案できるということですね
そうですね。「この建物でしたら、こういう調査方法がいいのではないですか」と提案できます。劣化箇所だけを直したいというご要望なら、「仮足場を組まなくても、当社が持っているロープアクセスの技術だけで調査も修繕もできます」あるいは「この面は劣化箇所が散見されるのでゴンドラでいきましょう」というように、なるべく修繕費をおさえられるような提案を行っています。
外壁にタイルが貼られていて、大規模修繕を控えているのであれば打診調査をお勧めし、モルタル外壁の高齢者施設で、施設内への立ち入りは避けてほしいというのであれば、赤外線調査を推奨します。何枚ものパネルを貼り合わせてある外壁であれば、パネルとパネルの隙間を埋める「シーリングの状態を見ておいたほうがいいですよ」とアドバイスします。
あと最近では、ビルなどの外壁に取り付けられている袖看板の点検依頼もよくあります。
――袖看板の落下事故もありますね
袖看板は1度設置されたらそのままですから、保守点検が難しく、最近依頼が増えているのです。

知っておきたい外壁調査のワンポイント知識

――外壁調査でトラブルが発生することもあるようですね
はい。非常に安価に調査を請け負い、誤った報告書を提出しているケースもみられます。施工の経験や知識がないため、どの部分を修繕したらいいのかを指摘できない。報告書に「劣化」とだけ書いてあることもあります。
同じ劣化でも「この部分とこの部分の劣化の度合いはどう違うのか」、「現状をふまえて、今後どのように建物外壁の維持管理を進めていったらいいのか」というお客様の質問にも、調査を行った業者が答えられない。そのため、当社がお客様から依頼を受けて、その報告書も参照しながら、外壁の現状と今後取るべき対応について考察をまとめることもあります。
――外壁調査を実施するお客様に知っていただきたいことはありますか?
たとえば最近、外壁を赤外線カメラで撮影して行う赤外線調査がメジャーな手法になっていますが、万能ではありません。赤外線調査では、外壁のどの場所に貼られているどのタイルが、合計何枚劣化しているかというところまでは把握できないのです。
――ピンポイントで細かい部分まではわからないのですね
はい。赤外線カメラで撮影した画像を解析してわかるのは、「だいたいこの辺の部分に温度異常があります」ということだけで、その温度異常もすべてがタイルの劣化であるとは限らないのです。
――結局、赤外線カメラは温度の差を捉えているわけですから
そうなんです。温度差を捉えているだけなので。たとえば隣り合うタイルの色に濃淡があっても温度差が出ます。それも劣化だと判断する人もいます。
当社でもドローンに赤外線カメラを積んで外壁調査を行っていますが、結局(タイル外壁の場合は)精度に波がありますね。逆に、たとえばモルタルの上に同じ色で均一に塗装された外壁では、赤外線調査は非常に有効です。
――赤外線調査は天候にも左右されやすいということですね
そうですね。雨が降ると壁面が濡れ、温度が均一になってしまうので調査が難しいこともあります。逆に夏場は暑すぎて、正確な測定ができないこともあります。

修繕コスト低減と建物資産価値の維持に貢献

――調査報告書がわかりやすいのも大きな特徴です。赤外線調査を行った場所の「赤外線画像および可視画像」、打診調査を行った場所の「打診画像」が掲載されているほか、外壁の劣化箇所を「建物立面図」で視覚的に確認できます
当社では、外壁の劣化箇所すべての写真または画像を撮影しています。報告書には、たとえばこの面は打診、こちらの面は赤外線で調査したということを明記し、劣化箇所の位置を立体図にプロットしています。
そのほか、私自らが前職での施工管理の経験を活かし、「とくに劣化が著しく、早急に補修工事が必要なのはこの箇所です」とか「この箇所は半年ごとの経過観察を推奨します」というように、危険回避のためのアドバイスを考察に記しています。
――今後、外壁の維持管理を行っていくための指針になりますね
はい。そうやって考察を加えたうえで、最後に劣化数量表も添付し、外壁の劣化状態を数量的に把握していただけるようにしています。
タイルが何枚劣化していて、エフロがどことどこにある。外壁内部の鉄筋が爆裂しているところが何カ所というように、外壁の各面ごとに細かい数量を出しているので、大規模修繕前の資料にもお使いいただけると思います。
ただ、外壁調査は費用がかかることなので、実施しない方がいらっしゃるのも事実です。でも本来は、費用をかけて調査を行うことで、大規模修繕の費用をおさえることもできるようになるのです。その意味でも、外壁調査の実施を推奨したいと思います。
――建物資産価値維持計画(MBV)を提案しているとのことですが
先にもお話したように、報告書の考察の部分で、たとえばここの劣化箇所は半年ごと、1年ごとに経過観察。この箇所はすぐに修繕が必要ですといった提案を行っています。それを維持管理の計画として使っていただいているということです。
調査を実施し外壁の劣化が少ないことが証明されれば、資産価値の維持につながります。不特定多数の人が利用するビル・マンション等(特殊建築物)には定期調査が義務づけられており、調査・報告を怠った場合には罰則があるほか、金融機関から建物を担保にした融資を受けることができなくなります。そのため投資用マンションの購入者から、管理会社に「定期調査をきちんと行っているのか」という問い合せがあるという話も聞いています。

自社のビジネスモデルで特許を取得し差別化を図る

――調査の事前見積も行っていますね
一般的には、外壁の面積に対して一律何%という金額で調査を請け負う業者が多いと思います。当社では、概算にはなりますが、事前に調査の目的やご要望などをお聞かせいただき、無料で見積をさせていただいています。
調査の目的とは、たとえば6カ月~3年に1度の定期調査なのか、竣工後10年を経過した時点での全面打診調査なのか。あるいは大規模修繕に備えて劣化箇所の数量を知りたいというのかということです。
ロープアクセスで詳細な調査が必要だということになれば、現地の状況を確認し、屋上からロープを吊ることが出来るかどうかを判断します。赤外線調査を行うのであれば、どの場所から赤外線カメラで撮影するかを検討します。可能な場合はストリートビューも併用しながら現地の状況を把握し、ご提供いただいた建物図面をもとにして見積書を作成しています。
――お客様の建物のさまざまな状況に対応しているのですね
そうですね。赤外線調査、ロープアクセスはもちろん、ゴンドラ、仮足場を組んでの打診調査、ドローンまですべてに対応しています。このように、あらゆる手法を組み合わせて外壁調査を行う当社独自のノウハウ(KW-メソッド)に加え、公共施設向けには精緻な建物外壁調査報告書、民間施設向けには改修工事との連動までをワンパッケージ化し特許を取得しました。建物の状況に応じて最適な調査方法を決定する当社独自のノウハウについても、特許出願中です。

K-corporationのWebサイト

安心安全な街づくりに貢献したい

――渡辺さんは「外壁のプロフェッショナルとして、外壁の落下事故の少ない安全な街作りに貢献していきたい」と話しています。どんなきっかけでそう思うようになったのですか?
私がタイル外壁の施工管理を担当していた頃、劣化したタイルが落下した現場に駆けつけ、修理をしたことがあります。その後まもなく、10年ごとに外壁の全面打診調査を行うことが義務化されました。
やはり多くの方は、外壁のタイルは劣化して落下するものだということをご存じないのです。外壁の落下事故については世間でも関心が薄く、誤解を恐れずにいえば、誰かがケガをして初めてニュースになるような状態です。
そうした中で、外壁施工の知識や経験に基づいた高品質の調査を行うことによって、建物の所有者や管理者の方に、外壁の状態をきちんと知っていただきたい。「今こういう状態ですから、ここはすぐに修繕が必要です。この箇所は経過観察を行ったほうがいいですね」と適切な助言を行うことによって、外壁の落下事故を減らし、安心安全な街づくりに貢献したいと思うようになりました。

ハワイでも営業展開、国内フランチャイズ展開も視野に

――今後の展開についてお聞かせ下さい
コロナ禍もそろそろ落ち着いてきたので、今後ハワイでの営業もスタートさせたいですね。今、営業代行をお願いしているパートナー企業もいらっしゃいますが、今後は国内でのフランチャイズ展開も進めたいと考えています。実際に、フランチャイズチェーンがあれば加盟したいというお話もいただいています。
――ハワイにも外壁調査の需要があるのですか?
ハワイは海沿いにホテルが数多く立地していますが、塩害の影響で外壁の劣化が早いのです。アメリカは訴訟大国ですから、外壁の落下事故が起きたら大変ですし、外壁調査のために仮足場を組まれたら、景観を大きく損ないます。そこでハワイでの需要を見込み、現地法人を設立して間もなく、新型コロナウィルス感染症の世界的な感染拡大が始まりました。
――そこで、これから本格展開をしていこうというわけですね
そうなんです。ハワイは観光産業の街ですが、現地で外壁調査の重要性が理解され、新たな産業として定着すれば雇用の創出にもつながるでしょう。そのような形で、現地の経済と社会に貢献していきたいと思います。

 

「取材・構成 ジャーナリスト 加賀谷貢樹」
渡辺 健一朗(わたなべ・けんいちろう)
株式会社K-corporation 代表取締役
1977年東京都江東区生まれ
告代理店にて企画営業後、タイル工務店で約5年間の建築現場での施工管理経験を経て 、
2009年株式会社K-corporation設立 代表取締役 就任 現在に至る

Webサイト: https://www.gaihekishindan.co.jp

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