Jトラスト株式会社 グループ Jトラストグローバル証券 代表取締役社長 矢田 耕一、取締役副社長 松木 弥来
「ブティック型プライベートバンキング」のブランド確立目指す
JトラストグループのJトラストグローバル(JTG)証券が、矢田耕一社長のもとでプライベートバンキングサービスの強化を打ち出して1年が経った。1億円以上の金融資産を持つ富裕層のニーズにあった金融ソリューションを提供できる体制を整えながら、2年目は「ブティック型(小規模の専門家集団)プライベートバンキングサービスのJTG証券」というブランドの確立に注力する。そのための戦略などを矢田社長(写真左)と、その右腕となる松木弥来副社長(写真右)に聞いた。
- 1年目の手応えは
- 想定以上にうまくいった。前身のエイチ・エス(HS)証券は業界最小規模ながら準富裕層(金融資産5000万~1億円)に強いリテール証券だった。このビジネスモデルを進化させ、富裕層と超富裕層(5億円以上)にプライベートバンキングサービスを提供する体制に変えるために動いた。そこで分かったのは、需要はあるにもかかわらず供給できていないということ。そこで、同サービスに特化した証券会社を日本で初めてつくるというコンセプトを掲げ、人材の育成・獲得などに力を注いだ
- 同サービスへの理解度が低いのではないか
- 日本に根付いていないし、言葉すらあまり知られていない。提供できる金融機関もスイス系など外資系のほか、日本の最大手クラスの証券・銀行に限られる。このため約130万世帯とみられる富裕層のニーズを満たせていない。現状ではニッチビジネスだが、ニーズに応えることができれば同サービスを普及させられる。
- 充足できるサービスとは
- 証券会社なので証券機能を中心になるが、銀行としての機能も必要だ。例えば有価証券担保ローンを活用した資産運用のニーズだ。顧客が持つ株式や米ドル建て債券を担保に資金を借りられるサービスで、当初想定していた融資額に達するほどニーズがあった。融資残高の枠を増やして対応した。銀行機能を提供できる枠組をつくっていく。
- 同サービスに精通した人材の育成は
- HS証券時代から在籍していた営業スタッフのプライベートバンカーとしてのプロ化を進めた。この一環として日本証券アナリスト協会が制定したプライベートバンカーの認定資格「プライマリーPB」の取得を推進。2024年12月末で71人が取得、営業スタッフの70%超に達した。71人のうち63人がHS証券時代の社員で、全員がこの1年で資格を得た。顧客ニーズに応えるには資格取得が必要だ。そのために教材を支給し、勉強会も実施している。早期に取得率を80%まで高めたい。(株式などの頻繁な売買を促す回転売買で手数料を稼ぐ)リテール証券から、顧客の資産管理・運用ニーズに応えるプライベーバンキングサービスへとビジネスモデルを変えるので人材も変える必要があった。人材ごとトランスフォーメーションすることができた。今後も人材の育成にまい進する。
- 外部からも営業スタッフを招いたのか
- 私に加え、松木の人脈を生かしてプロのプライベートバンカーを獲得できた。外資系証券でプライベートバンカーとして活躍していた人物と大手証券で相続事業や承継案件を中心に手掛けてきた人物だ。当社の経営目標達成に必要な人物なら積極的にスカウトしていく。テレビコマーシャルでブランドイメージが上昇していることも採用に結びついている。
- 松木副社長に求めていることは
- トッププライベートバンカーとして培ってきたノウハウをもとに、営業部隊の先頭に立って金融資産1億円超の中小企業やベンチャー企業のオーナーも主要顧客ターゲットに加え、当社を高収益率体質かつ、有価証券などの売買によるコミッションビジネスから預かり資産をベースとしたフィービジネスへの転換を進めていくうえで右腕となる存在だ。
- 預かり資産も増えている
- 23年12月末の3490億円から24年12月末には4092億円と1年で17%増加した。1口座当たりの残高も14%増の1000万円超になった。顧客の資産残高アップに応じて利潤を得られるので、ウイン・ウインの関係を構築できる。ターゲットの富裕層ユーザーの残高を継続的に増やせるサービスを開発していく。
- 2年目の目標は
- 1年目は成長のための種をまいた。2年目はその種を開花させ実を結ばせる。顧客ニーズにあった新サービスを企画・設計・開発し、市場に投入していく。これによりプライベートバンキングといえばJTG証券というイメージを確立させる。ブランド認知により預かり資産も5000億円を目指す。
- ◆ ◆
- 富裕層と長期にわたり伴走、痒いところに手が届いてこそプライベートバンカー
- 松木弥来副社長はトッププライベートバンカーとして培った知見と経験を活かし、「ブティック型プライベートバンキングのJTG証券」のブランド確立に取り組む。矢田耕一社長が全幅の信頼を置く松木副社長にブランド確立へのポイントなどを聞いた。
- プライベートバンカーとして成功する要因は何か
- ププライベート-バンカーは顧客ありきだ。知識や経験に差はないので価値は、資産を多く抱える顧客の数だ。スカウトにより転職するときに大事なのは、顧客が一緒についてきてくれるかどうかだ。スカウトに成功しても顧客が「無理。行かない」といえば厳しい。
- 顧客が一緒についてきてくれるポイントは
- 顧客はプライベートバンカー個人と付き合っており、会社の看板は関係ない。資産管理・運用も病院で診察を受けるのと同じで、大病院で診てもらうために整理券をもらって何時間も待つのではなく、特別扱いしてくれて、融通が利く町医者(主治医)に行く。日本でプライベートバンキングが定着しないのは、担当者がすぐ変わるから。顧客の痒い所に手が届くのがプライベートバンカーであり、長年にわたって伴走しないと顧客が求める“阿吽の呼吸”による意思の疎通は難しい。
- なぜJTG証券に入ったのか
- (Jトラスト社長の)藤澤信義氏が私の顧客だった。日興証券(現SMBC日興証券)、スイス系のUBS銀行、クレディ・スイス証券で営業、マネジメントとすべてプライベートバンキングの世界を歩いてきた。そろそろ「IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)として独立したい」と考えていたとき、藤澤氏から声がかかった。
- 「渡りに船」だったのか
- 「必要とされるところでやりたい。ブティック型プライベートバンキングがやれる」と思った。加えて、Jトラストグループは(藤澤氏の)オーナー会社で即断即決できるのも魅力だ。スイス系も大企業なので新サービス導入が決まるまで時間がかかる。「石橋をたたいて渡る」感覚を覚えた。就任して1年が経ったが、これまでプライベートバンカーとして培ってきた知見と経験を活かし、独自のサービスを開発・提供していく。
- 富裕層の資産管理・運用の特徴は
- インフレ時には資産価値が減少するので運用が大事になる。こうした中、富裕層は資産を増やすより減らさないことに関心がある。税金対策や債券での運用、節税につながる不動産にも興味を持つ。当社は多彩な外国債券も扱っており、富裕層のニーズにあいやすい。
矢田 耕一(やだ・こういち)
Jトラストグローバル証券株式会社 代表取締役社長
1993年大成建設入社。ディーエルジェイディレクト・エスエフジー証券(現楽天証券)常務執行役員、楽天銀行常務執行役員などを経て2023年10月JTG証券社長。
松木 弥来(まつき・みらい)
Jトラストグローバル証券株式会社 取締役副社長
2001年日興証券(現SMBC日興証券)入社。UBS銀行日本支店、クレディスイス証券兼クレディスイス銀行東京支店を経て24年1月JTG証券副社長。一貫してプライベートバンキングに携わる。