「(中古不動産物件の)適正な評価を手がける組織が日本にもっと必要」と
語る西武信用金庫の落合寛司理事長
7月9日、中野サンプラザで、西武信用金庫が主催する「持続可能な街づくりシンポジウム」が行われた。
同信金の落合寛司理事長が「街づくりをどうするのかが、少子高齢化社会における課題の1つ。建物や構築物を、成熟社会の街の中でどう運営していくのかについて、各分野の専門家に意見をいただきながら、皆さんと一緒に考えていきたい」と挨拶。次いで「建物ストック活用の可能性」をテーマにパネルディスカッションが行われた。
パネルディスカッションでは「建物ストック活用の可能性」を
テーマに議論が行われた
ファシリテーターは、世界標準の建築環境評価ツールの1つであるLEED(「エネルギーおよび環境設計におけるリーダーシップ」)の普及を通じて、日本における「グリーンビルディング」への取り組みを推進しているグリーンビルディングジャパンの平松宏城(ひらまつ・ひろき)共同代表理事。パネラーとして、リノベーション住宅推進協議会の山下智弘理事、東京都中小建設業協会の渡邊裕之理事、東京都不動産鑑定士協会の小國敏雄(おぐに・としお)理事、翔設計取締役の呼子正史(よぶこ・まさし)氏、同信金の落合理事長が参加した。
平松氏は「2050年までに、世界の人口の7割が、200都市を選んで住むようになるといわれ、今後各自治体では住民獲得をめぐる地域間競争が激しくなる」と指摘。競争に勝ち抜く条件として、歩行者と自転車に優しい街づくり、災害に対する抵抗力、建物の多様性を挙げた。平松氏によれば、従来は最新設備を導入して環境性能を高めた新築ビルがグリービルディングの主役だったが、最近はLEED等の世界的な基準に沿った既存ビルの改修が、マーケットの中心になってきている。
渡邊氏は「今後少子高齢化が進むにつれて(不動産は)ストック市場になっていく。そこで、築年は古くても素質の良いマンションなどの物件価値を、リノベーション等でどう高めていくかが、今後建設業でも大きなポイントになる」と述べた。
一方、小國氏は「基本的に、建物の耐用年数について日本で採用されているのは税法上の規定ですが、これを必ず採用しなければならないという決まりもなく、そのような要請もありません」と指摘する。国土交通省「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針のポイント」(14年3月)も、「中古戸建て住宅については(中略)築年数のみを基準とする評価(築後20~25年で建物価値をゼロとみなす)が一般的であることから、必ずしも個別の住宅の本来の使用価値を考慮した適正な建物評価が行われているとは言い難い」と記している。
小國氏は、リフォーム済み売買事例を参考に求めた試算価格から、リフォーム済み対象物件の鑑定評価額を算定する私案を提唱し、スクラップ・アンド・ビルドからストック・アンド・ディベロップへの移行を訴えた。
各パネラーが共通して指摘したのが、中古不動産物件に対するファイナンスの問題だ。
「鉄筋では50年、木造なら25年以上の物件にはローンを出さないという、融資期間の問題を解決しなければ、中古物件が安心でも購入ができません。そこで西武信用金庫では、建物の寿命を実質年数で見ていくべきだと考えました」と落合理事長。同信金ではリノベーションやリフォームによって創出された価値を算定し融資を行う専用ローンを、業界に先駆けて開発・販売している。
パネルディスカッションに続き、東京都都市整備局市街地建築部建築企画課の石橋和実課長補佐が、東京都の耐震政策について講演を行った。
同シンポジウムは、同信金が2006年9月からほぼ毎月開催している「西武事業支援セミナー」の100回目。事業者および従業員、これから事業を始めたい人を対象に、多様な分野の専門家を講師に迎え、参加費は無料。シンポジウム終了後には懇親会も行われ、約150人の来場者が交流を深めた。
「フジサンケイビジネスアイ」