2019年にいわゆる雇用対策法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)が改正され、今年6月からパワハラ防止規定が施行される。中小企業は22年4月から。企業は、この法律に対応すべく、社内規定の整備、相談窓口の設置、社内研修などをすべきことになった(法30条の2)。
パワハラは、被害者の人権を侵害するものであるためもとより許されるものではないが、パワハラによって就業環境が害されることは、事業の効率性も妨げることになる。パワハラにさらされた従業員は、判断力や作業効率が低下し、いずれは離職することが多い。集中力を維持できないことによるケアレスミスによって、経済的なダメージを企業に与えることもある。
米グーグルは、成功するチームの構築に最も重要な要素は「心理的安全性(チームの中でミスをしても、それを理由に非難されることはないと思えること)」であり、これを高めるとチームのパフォーマンスと創造性が向上するとしている。企業は、法改正をきっかけとしたパワハラ対策を、不祥事防止という観点を越えて、業務の効率化を進める機会であると捉えてほしい。
パワハラ問題がメディアで取り上げられるようになって久しいが、パワハラに関する相談件数は増え続けている。18年度に全国の労働局に寄せられた相談は8万3000件弱あり、大半の労働者はパワハラを受けた経験があるという。
パワハラは、人格障害のある上司が行う異常行動ではなく、多くの職場で起きている。どうしてこのような多数のパワハラ事案が起きるのだろうか。パワハラに関する裁判事例にはいくつかのパターンがある。
例えば、加害者である上司や同僚が、日頃から被害者の仕事のやり方、仕事の結果、振る舞いにストレスを感じ、それが積み重なって強い言動に及ぶもの。頼まれた仕事をすぐできる人もいれば、だんだんできるようになる人もいる。決断力のある人もいれば、頼まれた仕事をこなしていくのが好きな人もいる。上司が部下の適性を理解しないで仕事を依頼すれば、上司が満足できないのは当然ともいえる。このようなケースでは、上司のマネジメントとコミュニケーションの方法を改善する必要がある。
上司が部下との間の上下関係を意識しないでパワハラに発展していくパターンも多い。上下関係があるために部下はやむを得ず上司の求めに応じているにもかかわらず、上司は部下が自分の要求や態度を受け入れていると勘違いして要求をエスカレートさせていく(セクハラにはこのパターンが多い)。
上司は、優越的な関係がある場合、表現は「お願い」であっても実質は「強制」であることを理解し、不適切な要求を強要することのないように注意する必要がある。企業ごとに制度や文化は異なる。自社における効果的なパワハラ防止、心理的安全性と相互信頼のある職場の構築を行い、業績向上につなげてほしい。
【プロフィル】古田利雄
ふるた・としお 弁護士法人クレア法律事務所代表弁護士。1991年弁護士登録。ベンチャー起業支援をテーマに活動を続けている。東証1部のトランザクションなど上場企業の社外役員も兼務。東京都出身。
フジサンケイビジネスアイ掲載